ザ・ドラムス @ 渋谷クラブクアトロ

ザ・ドラムス @ 渋谷クラブクアトロ
ザ・ドラムス @ 渋谷クラブクアトロ
一昨年にデビューEP『Summertime!』、去年には1stアルバム『ザ・ドラムス』をリリースし、6月に東京で一夜限りの単独公演を行ったザ・ドラムス。かねてから制作中と伝えられているニュー・アルバムへの期待も次第に高まっている彼らだが、その前に日本で初となる単独ツアーが発表された。今夜の渋谷クラブクアトロ公演を皮切りに、渋谷duo music exchange、名古屋クラブクアトロ、心斎橋クラブクアトロで21日まで4日続けてライブが行われる。

昨年9月にはボーカルのジョナサン・ピアースの古くからの友人でギターのアダム・ケスラーがツアー中に脱退するという残念な出来事もあったが、つい先日、クリス・スタイン(Dr)とヴァイオレンズのマイルズ・マセニー(G)の2人がツアー・メンバーとして加入することが決まった。それに合わせて、これまでドラムを叩いていたコナー・ハンウィックがギターに、ギターを弾いていたジェイコブ・グレアムがキーボードに移動し、新たに5人体制で今回のアジア・ツアー(これから韓国、タイ、インドネシア、中国も回る予定)を迎えることになった。

以下、一部セットリストにも触れるので、これからライブに行くつもりで曲目を知りたくない方はご注意ください。

「オー、トーキョー! ここにいられることがどんなに嬉しいか、言葉では表せないくらいだよ!」という第一声のジョナサンは、序盤の“Me and the Moon”や“Book of Stories”といった曲からいつものクネクネとした変なダンスが全開。ドラムスの楽曲はダンサブルなビートのものが多いのでフロアでもたくさんの人が踊っているのだけど、間違いなくジョナサンが一番動いている。バンドも各楽器のバランスよりはサウンド全体の勢い重視で、人気曲“Best Friend”なども自らの命を絶ってしまった親友についての歌だとは思えないほど元気なアレンジメント。

曲が終わるとたいていMCを入れるジョナサンの昨年の来日公演での発言は一貫して「コンニチワ!」だったが(http://ro69.jp/live/detail/36030)、今回はちゃんと「アリガトウゴザイマス!」と言って大勢詰めかけたオーディエンスに感謝を述べる。「2、3週間前に2ndアルバムを作り終えたんだ。そこから新曲をやるよ」と言って、ベースラインがリズミカルに動く、アップテンポな新曲も披露される。

今夜一番の盛り上がりを見せたのは、オバマが大統領選に勝った日に書かれ、それまでの閉塞感から解き放たれた歓びとこれから何かが変わりそうな期待感をサーフィンに託したという代表曲“Let's Go Surfing”と、恋人への愛情を「永遠(forever)」という彼らの曲でしばしば使われるキーワードを繰り返しながら歌う“Forever and Ever, Amen”。オバマに対する当初の期待感の大半が薄れてしまった現在でも“Let's Go Surfing”がその歓びの感触をそっくり保っているように、また“Forever and Ever, Amen”で愛を告げられている女性の存在感が曲から不思議なほど感じられないことから分かるように、ドラムスの楽曲は彼らの想いが良くも悪くも現実世界から遊離してしまっている時にひときわ輝く。

彼らが社会問題を直接扱うことはまずないし、自我を持った女性が歌の中に登場するときには、彼女たちは曲の主人公のもとから去っていくか、さもなければさえない主人公には手の届かない場所にいる。いつも現実につまずいてしまう主人公たちの姿にはドラムス特有のそこはかとないユーモアがあるし、現実を避けることによって真空パックされた主人公たちの理想にはある種の純な美しさがある。しかしその両方の背後に深い孤独がある。

「君たちのために歌うよ!」とジョナサンが言ってアンコールでライブ初披露された震災復興支援のためのチャリティ・シングル“The New World”に続き、今夜最後に演奏されたのは“Down by the Water”。「君が水辺で眠ってしまったら/ベイビー、僕が家まで運んであげるからね」と歌われるこの曲で、それまで決して調和することのなかったドラムスの理想と現実は、主人公と彼に抱えられて眠っている恋人の姿を借りて初めて1つになる。現実は理想の腕に身をゆだね、理想は現実をあるべき場所までそっと戻してやる。

ザ・ドラムス @ 渋谷クラブクアトロ
言うまでもなく、このヴィジョンもまた主人公の空想の域を出てはいない。調和を達成するために、恋人は眠っていなければならない。しかし続けて「この立場にいることが/大変だってことは分かってる」と切実な調子で歌われるように、いま彼は理想を抱きながら現実世界を生きることの難しさに気づいており、その難しさを受け入れる覚悟を決めてもいる。大人と子どもの間、責任と孤独の間を揺れ動くアドレッセンス(青春期)の危うい心情を、ドラムスは今も音楽シーンに復権し続けている。(高久聡明)
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