the band apart@渋谷O-EAST

the band apart@渋谷O-EAST
1年10ケ月ぶりの新作『the Surface ep』を引っ提げて全国をめぐった春のツアーに続いて、今年2度目となるワンマン・ツアー“SMOOTH LIKE BUTTER TOUR Winter 2010”の最終日。今回はレコ発などの特別な意味合いのないサーキットだが、「2010年の締め括りにもう一度バンアパのワンマンを!」と望むオーディエンスで渋谷O-EASTは超満員。新旧織り交ぜたセットリストで展開されたライブは、まさに2010年を締め括るにふさわしい内容でありながら、同時にバンアパのまばゆい未来をも予感させるような、とても幸福なものだった。

オンタイムでステージに登場した4人。温かな声援に迎えられながらポジションにつくと、木暮(Dr)のキレのあるドラミングに続いていきなり“FUEL”でキックオフ! バンアパならではの透明感あるバンドアンサンブルが場内を駆け抜け、続けて“I love you Wasted Junks & Greens”“free fall”と畳み掛けていく。イントロが繰り出されるたびに「うぉー!」と沸きあがるフロアは早くも芋洗い状態で、上へ下へ、右へ左へと激しいうねりを見せていく。「今日は来てくれてありがとう!」という荒井(Vo/G)のジェントルな挨拶に続いて、「今日でこの茶番みたいなショウも終わりまずが、これからレコーディング地獄がはじまります。ってことは、近々新作をリリースするってことです」という原(B/Cho)の飴とムチみたいなMCがフロアを沸かせたあとは、“shine on me”に突入。終始クールにパフォームする川崎(G)の切れ味鋭いカッティング・ギターを中心として、清流のように溢れだすグルーヴィーなサウンドが最高に気持ちいい。

事前に告知されているように、今回のツアーでは会場限定シングル『intoxication e.p.』が販売されている。中盤にはそのCDに収められている2曲のほか、新曲がプレイされた。淡々としたギターフレーズの上でドシャメシャなドラムが爆発する楽曲から、しょっぱなから竜巻のような轟音が吹き荒れる楽曲、不穏なフレーズの上で荒井と原の歌声がふわふわと浮遊する楽曲など、どれもバンアパの新機軸を感じさせるようなチャレンジングな展開を見せるナンバーばかり。新作のリリースは来年3月を予定しているということだが、これらの楽曲を聴く限りでは、バンドの現状はとてもいいようだ。思えばバンド史上最長のスパンでリリースされた『the Surface ep』は、バンアパならではの複雑さとポップさがこれまで以上に違和感なく結実したアルバムだった。そのアルバムを経たことで、今の彼らはとても豊かな気持ちで作品づくりに集中できているのではないかと思う。そんなバンドの視界良好なムードが4人のプレイからは確かに感じられたし、新たにプレイされた楽曲群も、先に紹介したとおり自由なクリエイティビティーに満ち満ちたものだった。

そんな彼らの転機ともいえるアルバム『the Surface ep』からの楽曲――“Flower Tone”“C.A.H”“Mercury Lamp”を情感たっぷりにプレイした後は、クライマックスへ向けてギアアップ! “beautiful vanity”“In my room”“Eric.W”と必殺ナンバーを連打して、フロアを絶頂へと導いてあっという間の大団円を迎えた。それにしても、こんな熱狂を目にするたびにつくづく思うのが、バンアパというバンドの不思議さである。彼らの音は決して大衆受けするものではない。むしろ変拍子や短調を繰り返す情報量の多いサウンドは、マニアックと言ったほうがいい。4人のパフォーマンスだって、無理にオーディエンスを鼓舞するようなものではない(常にえびす様のような笑顔でベースを弾き鳴らす原の存在がバンドの潤滑油になっていることは間違いないけれど)。にもかかわらず、爽快でオープンな空気が生み出されているのは一体どういうわけか。それは、一聴するとバラバラな方向に放たれているように聞こえる4つのパートが、緻密な構成と確かな演奏力のもとに、抜けのよい情景を描き出しているからに他ならない。他ならないんだけど、そんな理屈は必要ないほどに、バンアパの音楽には根本的なポップさが存在しているように思うのだ。とにかく、我の強い音と音とがスリリングに絡み合い、壮大な音のタペストリーを紡ぎだすときのカタルシスったら! そこには、あえてメロディやアレンジのポップさに頼らなくても、不思議とポップになってしまう彼らの精神性みたいなものが、確かに息づいているような気がしてならない。

アンコールでは再び新曲を披露したあとに“quake and brook”でフロアをゆらゆらと揺らして一本締め……と思いきや、荒井1人がステージに戻って“disappearing man”をソロでプレイ。「今回のツアーでダブル・アンコールに応えるのは初めてなんだけど」と言いながら、朗々とした歌声を響かせる荒井はとにかく気持ちよさそうだ。そして大ラスはメンバー全員による“K.and His Bike”! メンバーがステージを後にしても消えることのない拍手が、そのステージの熱狂ぶりを物語っていた。(齋藤美穂)

セットリスト
1. FUEL
2. I love you Wasted Junks & Greens
3. free fall
4. shine on me
5. light in the city
6. higher
7. photograph
8. before and after
9. Prime minister
10. Circles and Lines
11. Tears of joy
12. coral reaf
13. violent penetration
14. led
15. Flower Tone
16. C.A.H
17. Mercury Lamp
18. beautiful vanity
19. In my room
20. Eric.W
アンコール1
21. 新曲
22. quake and brook
アンコール2
23. DISAPPEARING MAN pt2
24. K.and his bike
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on