2月5日の渋谷タワーレコード・インストア・ライブから始まった、彼らのファースト・ジャパン・ツアーも今日が最終日。新代田FEVERは先週の土曜日同様、フル・ハウスのオーディエンスで彼らを迎えた。
時刻は9時30分過ぎ。メンバーがステージに登場すると、待ちかねた観客から歓声があがる。下手からメガネをかけたベースのアレックス、サポート・ギタリストをはさんで中央にギター&ボーカルのキップ、バックにはドラムのカート、そして、キーボードのペギー。なんだろう、このたたずまい。こういう言い方もナンだが、こういうアメリカ人たちもいるのかという感じ。ちょっとぶつかったら、百回くらいお辞儀されそうな、そんな感じ。
だから、1曲目の「This Love Is Fucking Right!」の音が拍子抜けするくらいヘボくても、それが正しいと思える。そうでなきゃダメだと感じる。なぜなら、The Pains Of Being Pure At Heartとは、そのように、アメリカ人であることの、あるいは、この資本主義社会で正義とされているすべての効率主義的なものへの、抵抗だからだ。本屋にいって、ベストセラーの棚に並べられた啓発や成功や勝利をけしかけるうすっぺらい新書に嫌悪をもよおせるか否か。その嫌悪に、そういうものとは違う類の生の確信を抱けるか。それが、彼らの音楽が鳴らされている根拠だ。
だから、ひとくちに昨今のアメリカン・インディーの隆盛と言っても、たとえば彼らとVampire Weekendには歴然とした隔たりがある。VampireのEzraだったらそのまま身軽なスーツを着こなして、たとえ金融業界のセミナーであろうがさくっと講演でもできそうな感じだけど、今目の前に立っているステージ上の誰一人として、そんなことはできなさそうだ。というか、そういったことそのものが、世の中をひどく痛めつけているのでは?という確信が、このいたいけとしか言いようの無い音になっているのだ。
曲間のMCは、基本、日本に来られてどんなに良かったか、だった。それは、いわゆるリップ・サービスを越えてこちらがちょっと恐縮してしまうほど、マジな様子なのだ。日本に呼んでくれてありがとう。日本にいられた時間は、とてもスペシャルで素晴らしい体験だった、今日で最後なんで悲しい云々。それは、この人たちが、どんなにアメリカ人であることが嫌なのか、その裏返しの吐露のように聞こえてくる。
ハッピー・ヴァレンタイン、トゥデイ! そうキップが言って始まったのが「Come Saturday」。そして、ニューEPから「Higher Than The Stars」へ。この日、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの子供たちは、地球上でもっとも可憐なディストーションを鳴らしていた。ペギーの小さな鍵盤のフレーズは、涙が頬を伝ったあとのように消え入りそうだった。
5日のインストア・ライブを観た人からメールが来ていたのを思い出した。「今日のライブを観た10代は、みんな明日からバンドを始めると思う」。そこにはそう書いてあった。ビートルズの昔から、ロック・ミュージック最高の素晴らしさとは、それである。誰にも真似のできない演奏スキルに耽溺することよりも、明日から自分が自分の歌を歌えることを確信させる、そんな力がロック・ミュージックにはある。そして、その力に、The Pains Of Being Pure At Heartは触れていた。
Now It’s Our Time. Are You With Me? 「Everything With You」が鳴る。何かを始めようとしたこの歌の主人公たちの背景は、あまりに苦しい。けれど、どんなかたちであれ、というか、誰かが強いた型ではないかたちで、彼らは何かを始めようとした。ロック・ミュージックのはじまりの、そのもっと前の小さなきっかけのようなものが、The Pains Of Being Pure At Heartだった。(宮嵜広司)
1.This Love Is Fucking Right!
2.103
3.Young Adult Friction
4.Falling Over
5.Stay Alive
6.A Teenager In Love
7.Twins
8.Come Saturday
9.Higher Than The Stars
10.Say No To Love
11.The Pains Of Being Pure At Heart
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En1.new song
En2.Everything With You
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En3.Gentle Sons
ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート @ 新代田FEVER
2010.02.14