豪雨の千葉マリンスタジアムから一夜明けて、雨上がりのリキッドで迎えたレイザーライトの単独東京公演。結論から先に書いてしまうと、素晴らしいライブだった。今のレイザーライトがどういうバンドなのかを100パーセント伝え、レイザーライトの現在形が完成したような、そういうライブだった。以下、ステージの進行をレポートしながら、その理由について書いていきたい。
序盤は“バック・トゥ・ザ・スタート”、“キープ・ザ・ライト・プロファイル”、“スタンブル・アンド・フォール”といったアッパーなロックンロール・ナンバーで盛り立てていく。しかもバンドの演奏がタイトにまとまっていて、ジョニーのボーカル・ワークも鋭利。イントロから盛況だった“イン・ザ・モーニング”のクリスピーな節回しもビシビシと決めてゆく。新ドラマーのスカリーことデヴィッド・サリヴァン=カプランは、ときどき熱くなりすぎて太鼓をぶち抜いてしまうんじゃないかと心配になるようなプレイぶりだが、つまりはそれぐらいパワフルなドラマーだということだ。僕が思う前半戦のハイライトはオーディエンスが温まったところに巧く挿し込まれた“ノース・ロンドン・トラッシュ”で、自堕落なリズムとメロディの上に、エロティシズムと憂いを帯びたジョニーのストーリーテリングが冴え渡っていた。
“ゴールデン・タッチ”では、途中アカペラで歌うジョニーとオーディエンスがシンガロングで繋がる、という一幕もあった。“ビフォア・アイ・フォール・トゥ・ピーセズ”の《オーオ、オーオ》というコーラスも余裕だ。今日のバンドはそんなオーディエンスの「近さ」もあってか、実に楽しそうに見えた。終盤のカオティックなアンサンブルへと展開した“ワイアー・トゥ・ワイアー”、エモーショナルに哀しみを伝えてゆく“ブラッド・フォー・ワイルド・ブラッド”といった最新アルバムの楽曲は、“アメリカ”などの鉄板の盛り上がり方とはまた違う形で、ライブの熱を支える重要な要素になっていた。本編終盤の、ジプシー音楽のような “ホステッジ・オブ・ラヴ”の物語に込められた果てなき流浪の孤独感。そしてアンコールの一曲目にジョニーの弾き語りで幕を開け、照明に照らされたオーディエンスの顔を見据えながら聴かせた“ザ・ハウス”。この辺りで今のレイザーライトの表現は、100パーセントの完成を見たのだった。
『スリップウェイ・ファイヤーズ』というレイザーライトの最新アルバムは、ジョニーがオーディエンスとのより緊密なコミュニケーションを目指すべく、自身のソングライターとしての在り方を見つめ直し、そしてその姿勢のまま完成させたアルバムだ。この作品を過去の作品と比べると、やはりレイザーライトのバンドとしてのダイナミズムよりもジョニーの顔が強く浮かび上がってくる。初春の来日公演は観ていないので分からないが、この前日のサマソニ東京会場でのレイザーライトのステージは、この最新作収録曲のジョニーによる剥き出しの情感とコミュニケーション願望をそのままオーディエンスに投げ掛けたような印象が強く、それはそれで一種異様な緊張感があって面白かったのだが、なにしろあの豪雨の中ではオーディエンスの顔など見えるものではなかったのだろう。その点、今回の単独公演では、先にガッチリしたバンド演奏によるロックンロールでオーディエンスを焚き付けておき、後半に最新作の物語性を伝えてゆく、という構成が功を奏した。『スリップウェイ・ファイヤーズ』の楽曲の、これまでのレイザーライトとは違う新しい興奮を、オーディエンスがきっちりと受け止めていた。おもしろいことに、ジョニーのエゴから生まれたこの最新アルバムは、結果的にレイザーライトというバンドの新しい武器になったのだ。先に「今のレイザーライトが完成したライブ」と書いたのは、つまりそういうわけだ。
それにしても、大きな支持と評価を得たバンドのキャリアに溺れることなく表現欲を燃やし続け、そして新しい表現手段を実行に移したジョニー・ボーレルには、改めて頭が下がる。(小池宏和)
1.バック・トゥ・ザ・スタート
2.キープ・ザ・ライト・プロファイル
3.イン・ザ・モーニング
4.スタンブル・アンド・フォール
5.ノース・ロンドン・トラッシュ
6.ゴールデン・タッチ
7.ビフォア・アイ・フォール・トゥ・ピーセズ
8.ヴァイス
9.イン・ザ・シティ
10.ワイアー・トゥ・ワイアー
11.ブラッド・フォー・ワイルド・ブラッド
12.アメリカ
13.ホステッジ・オブ・ラヴ
14.ダルストン
アンコール
15.ザ・ハウス
16.ロックンロール・ライズ
17.サムホエア・エルス
レイザーライト @ 恵比寿リキッドルーム
2009.08.10