ゆらゆら帝国 @ 日比谷野外大音楽堂

ゆらゆら帝国 @ 日比谷野外大音楽堂 - pic by 加藤仁史(HITOSHI KATO)pic by 加藤仁史(HITOSHI KATO)
野音でゆらゆら。日本でロックを聴く者にとっては、この上なく魅惑的なシチュエーションである。考えただけでしびれる。めまいがする。対バンなども含めて過去、野音のゆらゆらは観たことがあるが、なんかこう、皮膚に残る触覚的な記憶として、刻み付けられてしまう感じなのである。今回はバンド結成20周年を記念してのライブ。結成当初のオリジナル・メンバーは現在では坂本だけだし、現在のメンバーが揃ってメジャー・デビューしたのは98年のことだから、今日の野音を埋め尽くしたオーディエンスの中にも、その20年の歴史を分かち合うことができる人はごくごく僅かだろう。それでもこの記念ライブが重要なのは、ゆらゆら帝国という磁場、或いはアティチュードが、「生まれた」ことを記念したものだからだと思う。

静かにメンバー3人が登場したところで大きな歓声が沸き上がる。オープニング・ナンバーは甘美なサイケデリック・チューン“星ふたつ”だ。少しずつ会場を温めるように、ゆったりとギターのノイズが立ち上がってゆく。今日は晴れてはいたものの風が強く吹いていて、それが心配だったのだが、野音を取り囲む木立が風を吸い込むようにして受け止め、場内にはまったく吹き込んでこない。最高のコンディションである。続けて亀川ののたうつようなベースが印象的な“ソフトに死んでいる”、ロマンティックな艶かしいラブ・ソング“ザ・コミュニケーション”と『Sweet Spot』からの楽曲が披露される。飛び抜けて優れたロック・ソングでありながら詩的なラブ・ソングでもあり、極めて現代的なダンス・ミュージックでもあるという、夢のようなフォルムを現実に鳴らすゆらゆらである。そしてここで新曲も披露。盆唄風ブギーというか、ユニークなスタイルで高揚感を煽り立てる一曲である。

いよいよ周囲の景色が闇に溶け込んできたというところで、見事ずっぱまりの阿波踊りロックン・ロール“夜行性の生き物3匹”。ウマい。かっこ良過ぎる。夜が、始まっている。続けてプレイされた“タコ物語”は、00年代最高のラブ・ソングとして語り続けるべき逸品だ。オーディエンスがリフレインする〈生き物さ〉のフレーズを歌っている。キラー・チューン連打である。と、ここで一転、またもや新曲を披露してくれる。今度は美しいメロディが映えるサイケ・バラード。リフ主体のソリッドなナンバーあり、グルーヴィーなものあり、ファズが広がる爆発的なナンバーあり、そしてこういう穏やかで美しい作品もある。そしてそのどれもが、「ゆらゆら帝国である」という記号性を強い放射線のようにまき散らしている。常にジャンルの細分化が語られ、その割に脱個性なものも溢れ返る面倒な時代にあって、これってもの凄いことだ。シューゲイザー的に宇宙に拡散してゆくナンバー“無い!”の音像が夜空と素晴らしいマッチングを見せる。メンバー3人は、バック・ライトとスモークによってそのシルエットを浮かび上がらせていた。この後の“空洞です”ではステージ方向から筒状の形を成すレーザーが幾つも伸び、アルバム『空洞です』のジャケット・アート・ワークを思わせるものになっていた。直前のスモークが焚かれていたのはこのためでもある。ライティングやステージ特効が、決して大掛かりではないのだけど細やかに気の利いたものになっていて、それがまた実にゆらゆららしい。

“発光体”で高速スウィングするベースや、坂本がマラカスを振りつつギターレスにシフトする“あえて抵抗しない”のダビーで艶のあるリード・ベースなど、亀川がその技量で魅せる。ゆらゆらのロックは多分にダンス・ミュージック的なのでリズムはミニマルなようだが、実は細やかに、特にバスドラのキックのパターンを変えて聴かせる柴田も凄い。そのままスタートした“ロボットでした”は、曲の途中で坂本がギターを抱えてから一気にフリーク・アウトしてしまう。数分間のノイズの混沌へと突入である。これがクライマックスを構築していった。ギターレスの状態を作っておいてフリーキーなノイズ・プレイに跳躍するという、エレクトリック・ギターの物語性。そこにかけるロマン。ゆらゆらは、本当に多くのものを音に込めてしまうバンドだ。フリーキーなロックでありながらすべてのポップ・ミュージックをリードし、大仰なギミックよりも細やかな気配りで感動的なステージを成立させる。メディア露出や宣伝も控え目だが、その作品の磁場/アティテュードに多くを語らせて大きな支持基盤を獲得している。ロックを自ら信じるその強さが、ゆらゆらを唯一無二の理想的なロック・バンドにしている。

この日の演奏は、正直とりたてていつもより優れているわけではなかった。いつもどおりだった。坂本はいつもどおり赤いパンツを穿き、開演時に「あ、どうも」と、ラスト曲の前に「今日はどうもありがとうございました。あ、じゃあ最後の曲いきます。」と語っただけだった。アンコールもない。いつもどおりだった。いや、MCに関しては、これでもいつもよりは喋った方かもしれない。そして、素晴らしく感動的な20周年のステージなのであった。ロック・サウンドが、歌が、すべてを語っていたからだ。最後に日比谷の夜空に響き渡ったのは、“星になれた”だったのだから。(小池宏和)

1.星ふたつ
2.ソフトに死んでいる
3.ザ・コミュニケーション
4.(新曲1)
5.アーモンドのチョコレート
6.ラメのパンタロン
7.夜行性の生き物3匹
8.タコ物語
9.(新曲2)
10.無い!
11.空洞です
12.できない
13.昆虫ロック
14.発光体
15.つきぬけた
16.あえて抵抗しない
17.ロボットでした
18.3×3×3
19.星になれた
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