18時59分、開演時刻から若干フライング気味に場内暗転、恒例のSE“Fuckin' In The Bushes”が流れ出すと地響きのような歓声が超満員のZepp Tokyoを満たす。オアシスとしての初来日から23年、ついにリアム・ギャラガーがソロ・アーティストとしてここ日本のステージに立った。
オープニングがいきなり“Rock 'n' Roll Star”なものだから、ギター・イントロが鳴った瞬間に歓声のボルテージがさらに数段階上がる。そしてその歓声をぶち抜くようにリアムの声が轟き、そこにまた大歓声が覆い被さっていくという、のっけからダイハードなファンが詰めかけた唯一の単独公演ならではの異様なテンションだ。
ちなみに“Rock 'n' Roll Star”は思いっきりパンキッシュな仕上がりで、時々音を外しながらも、それを無視してマックス声量でがなり、シャウトするリアムのボーカルは演奏共々つんのめり気味だ。最初にまずはブチかまさなければならない、ロックンロール・シンガー=リアム・ギャラガーの復活を真っ先に宣言しなければならない、そんなリアムの強いパッションを感じたオープニングだったのだ。そして彼が腹をくくってロックンロールと向き合おうとしていること、その激しい熱はすぐにフロアに伝播し、「リアム!リアム!」の大コールが巻き起こる。
続く“Morning Glory”のノエルのコーラス・パートは、ベイビーシャンブルズのドリュー・マクコーネル(B)が担当。今回のバンドはリアムに加えてベース、ギター×2、ドラムス、キーボードとシンプルな編成だが、ベースを弾き、コーラスを担当し、ギターも弾くドリューがバンマス的存在だったと言えるだろう。
冒頭からオアシス・ナンバーの連打を受けてヒートアップしたオーディエンスが、続く“Wall Of Glass”のイントロを前2曲と同じくらいブチあがったリアクションで迎えたのが、この日の最初のハイライトだった。実際、“Wall Of Glass”は既にインスタント・クラシックとして受け入れられていて、ビーディ・アイ時代のシングルとはまったく異なるアンセム強度を持っている。「ウォール・オブ・グラアアアッスッ」と、メロディの隅から隅まできっちり歌いきるリアムには、この曲が今の自分の看板、アイデンティティなのだという自負を強く感じる。
ちなみに“Wall Of Glass”におけるインタールードは、ギター・ソロに託しがちなロック・バンドのそれよりも、起承転結の転をきっちり全うするポップ・ソングの構成に近いということがライブだとさらによく理解できる。続く“Greedy Soul”も基本はファナティックなブルース・サウンドなのだが、クラッチーなリフといいソリッドなシンセといい、埃を払ったモダンで艶やかな感触を持ったナンバーで、どこかプライマル・スクリームを彷彿させるロックンロールの定義でありプレイだ。どちらの曲もグレッグ・カースティンを筆頭とする「他者」の客観と采配が確かにそこに感じられるし、それは間違いなくリアムのソロにおいて強みになっている。
一方、リアムの伸びやかな声とウォーミーなサイケデリックのコンビネーションが素晴らしい“Bold”や、中盤の“Chinatown”、“Eh La”といったナンバーは、オアシスの“Little James”の時代から脈々と続くリアムのリリカルなメロディセンスがダイレクトに発揮されたナンバーだった。「おれはメロディしか書けない」とリアムはよく言うけれど、リアムの書くメロディとリアムの声がぴったり重なり、ただひとつの詩情に寄り添って響く歌は、本当にかけがえのないものだと思う。そう、他者を迎えてモダン化を図ったロックンロールと、リアムのパーソナルで純度の高いソングライティング、そのふたつが『アズ・ユー・ワー』の両輪となることを予感させたのがこの日のステージだったのだ。それにしても“Eh La”はアルバム未収録が惜しいくらい、五月雨アルペジオが本当に美しいナンバーだった。
リアムの今回のツアーは、オアシスの『ビィ・ヒア・ナウ』のナンバーが数曲エントリーしていることでも話題だ。『ビィ・ヒア・ナウ』はノエルに毛嫌いされているアルバムだけに、どの曲も15年以上ライブで再現されていない。それをリアムは敢えてやるのだ。“D’You Know What I Mean?”は極力冗長なノイズを廃し、ソリッドでラウドな「絶対条件」で象られた大曲として生まれ変わっている。「ノエルの過剰なプロダクションを取っ払えば、今でも最高のロックンロール・ナンバーなんだぜ?」という、兄に対する皮肉にも思えてちょっと笑ってしまったが、 そもそも『ビィ・ヒア・ナウ』をノエルほど批判していないリアムだからこそ、こうして同アルバムの20年目の名誉回復をニュートラルに行えたというのも面白い。
“Slide Away”は“Live Forever”と並び、『ディフィニトリー・メイビー』のナンバーの中でも極めて難しいボーカル曲で、かつてノエルは「“Slide Away”をちゃんと歌うリアムを俺は50年くらい見ていない」なんて言っていた。その曲を初ソロ・ツアーのレギュラー曲に据えたあたりにも、リアムのヤル気と覚悟を感じる。さすがにサビのキーは落としていたが、声の声量&伸び共に充分で、オアシス後期(2009年のフジロックなど)のそれを比較すると遥かに歌えているのだ。
後半の“I Get By”、“You Better Run”は“Wall of Glass”に続く『アズ・ユー・ワー』のロックンロール・アンセム候補だ。特に“You Better Run”はザクザク刻まれるリフと8ビートの垂直の強度と、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジばりの水平楕円のグルーヴのコンビネーションが最高!そして“Universal Gleam”はオアシスで言うところの“Champagne Supernova”、ザ・ビートルズで言うところの“愛こそはすべて”に該当する大団円のミッドテンポ・チューンで、この曲がこの日の実質的なフィナーレだった。
続く“Be Here Now”を歌うリアムを本当に久々に観た(1998年の武道館ぶり!)が、これが予想外に素晴らしい出来で、冒頭の“Rock 'n' Roll Star”に匹敵するテンションでがむしゃらパンキッシュに鳴らされる。ちなみにリアムの声はかなり掠れ始めていて、フードを被り、マラカスを投げ捨て、苛立った様子も見せていたのだが、それもまたこの曲のひりひりしたパフォーマンスにマッチしていた。
事前のセットリストでは“Be Here Now”から“Live Forever”に続くはずだったが、結局やらずにこの“Be Here Now”で本編フィニッシュ。来日直前の14日に行ったフィリピン公演でも“Live Forever”はスキップされているので、 “Live Forever”をショウの終盤でやるのは無理があると判断したのだろう。はたしてソニマニ&大阪サマソニはどうなるか??ちなみにアンコールの“Wonderwall”ではリアムが声の出が良くないことを謝っていた。
最後に確認しておきたいが、それでもリアムの声はオアシス後期〜ビーディ・アイ時代に比べれば遥かに出ていた。アスリートじみた自制と努力で彼が現在のコンディションを獲得したのは明らかだったし、1時間という凝縮されたセットの中で1曲1曲と真正面から勝負していく、そしてその責任を全て自分が負う、そういう闘いの場としてリアムは自分のソロを、「ひとりで立つ」という意味を捉えているのだと、この日の彼のパフォーマンスは真っすぐ伝えていた。そしてそのアティチュードこそが、何よりも私たちがリアムのソロに求めていたもの、リアムのロックンロールに求めていたものであるはずだ。(粉川しの)
〈SETLIST〉
1. Fuckin' In The Bushes(Oasis cover)
2. Rock 'n' Roll Star(Oasis cover)
3. Morning Glory(Oasis cover)
4. Wall Of Glass
5. Greedy Soul
6. Bold
7. For What It's Worth
8. D'You Know What I Mean?(Oasis cover)
9. Slide Away(Oasis cover)
10. Eh La
11. Chinatown
12. I Get By
13. You Better Run
14. Universal Gleam
15. Be Here Now(Oasis cover)
-EN-
16. Wonderwall(Oasis cover)