モトリー・クルー @ さいたまスーパーアリーナ

2015年を最後にライヴ活動の終了を発表し、今回のツアーをもって来日も最後となるモトリー・クルー。バンドの活動を締めくくるファイナル・ツアーともなれば、普通はどこかしんみりセンチメンタルな空気が漂いそうなものだが、「ライヴ活動終了!」「ファイナル!!」「フェアウェル!!!」みたいな、どこまでもアッパーでゴージャスなお祭り感覚で最後まで走りきろうとするあたり、いかにもモトリーらしいステージだったし、同時に彼らのファンが今回のファイナル・ツアーに求めているのも、まさにそういうモトリーらしさだったということを、約2時間のこの日のステージに漂っていた、いや、会場に漲っていた空気から感じることができた。

天井付近までぎっしりオーディエンスが詰まりきって圧巻のさいたまスーパーアリーナ、開演前からむせかえるような熱気に満ちたその会場で、一際目を引くのがメインステージからセンターステージに向けて起伏激しいローラーコースターのように設置されたドラムセットだ。とにかく大規模で大迫力だけれど、大規模で大迫力なこと以外に意味はない、みたいなこのセットが今回のツアーの目玉となっているが、モトリーの80年代以降の全盛期をリアルタイムで見てきた身とすると、そこにある種の時代の郷愁みたいなものを感じてしまう。でも会場のかなりの割合を占めた若いファンにとっては、「これが伝説のモトリーの破天荒!」という歴史の追体験的興奮を生むものだったはずだ。

この日、最初の驚きはまさかの開演時間のジャストに場内暗転したこと。「モトリーだし、ちょっとぐらい押すだろう」みたいなノリでビール列に並んでいた人たちも慌てて場内に駆け込んでくる。今回のステージはラスト・ツアーとしてパッケージをしっかり作り込んでいたものだけに、オン・タイム進行も当然と言えば当然なのである。1曲目の“Saints of Los Angeles”から早くもコール&レスポンスは完璧、キャリア総ざらいのベスト・ヒット・ショウは冒頭から助走なしに「モトリーらしさ」にばちっと照準を合わせてくる。“Wild Side”ではビキニ姿のダンサー兼バック・コーラスの美女が2人登場、ポール・ダンスよろしく身体をくねらせ、さらにショウアップしてくる。

ミックのギター・ソロがギュワギュワと大フィーチャーされた“Primal Scream”はオーディエンスのコールもきまり、この日の最初のクライマックスとなったが、ギターの音が高低豊かに後方まで響くのに比べると、ベースとバスドラの重低音が篭ってしまって聞きづらかったのがちょっと残念だ。そんなベースとバスドラは会場の音響のせいだが、一方のヴィンスの声の出てなさ加減は彼個人の問題で、想定の範囲内とは言え最初のうちはハラハラさせられた。それもゴージャス・バラッド“On With the Show”あたりから徐々に解消され、客席を煽りまくるフロントマンとしては右へ左へと大活躍だ。「トキオ!メイク・サム・ノーイズ!!!」とトミーが叫び始まった“Smokin' in the Boys' Room”、そして「この会場にマザーファッカーはどれくらいいる?」とヴィンスが呼びかけて“Mutherfucker of the Year”。このあたりの流れは古き良き時代のド派手で、セクシーで、不良で、アホで、痛快な、ヘヴィ・メタル・バンドのテンプレを彼らがひとつずつしっかりこなしていく感じだ。モトリーのショウのお約束であり、そのお約束を会場もまた求めている、そんなウィン・ウィンの交換でさらに会場はヒートアップしていく。

そんな“Mutherfucker of the Year”終わりでMCタイムが始まり、日の丸を掲げたニッキーが通訳を介して話し始める。「1981年にこのバンドを始めて、一番行きたかった国がここ日本だ。82年に最初に行くチャンスが巡ってきたんだけど、本当に残念なことにこの時は行けなかったんだよ。そして1985年、ついに俺たちは日本に初めてくることができた!覚えているか?アイ・ラヴ・ユー、マザーファッカー!!」。日本のファンへの感謝と愛を織り混ぜた感傷的なスピーチでありつつも、随所で挿入される「マザーファッカー」と、モトリーのノリを的確に捉えたファンキーな通訳のおかげで笑いと歓声が絶えないのが最高だ。「これはサヨナラじゃない、俺たちの音楽は永遠に生き続けるんだ。マザーファッカー!!!」と叫ぶニッキーに地鳴りのような大歓声が巻き起こる。モトリーを聴き、モトリーを愛する人生にしんみりする時間は必要ない、と言わんばかりに、ショウは再びアッパーに回転し始める。セックス・ピストルズのカヴァー“Anarchy in the U.K.”を分厚いギターとコーラスでグラマラスにきめ、オイ・コールも巻き起こった“Shout at the Devil”はヘヴィ・メタルの様式美の粋を極めた重低音が、悪音響のハンディをブチ破ってのたうち回る。

そして後半のクライマックス、ついにトミーのドラム・ソロ・セクションでローラーコースター・セットが稼働し始める。2カ所の起伏を持つコースターをドラムセットが少しずつ上昇し始め、会場からはどよめきが起こる。が、どうやらセットの不調でドラムセットは上昇途中で一時ストップ、結局その止まった場所でトミーは最後までドラムを叩ききることに。その後のミックのギター・ソロの時間を使い、暗闇の中でトミーを乗せたドラムセットがするすると静かにメインステージへ再収納されていく様がシュールだった。今日は万全のセットで成功するといいのだが。

そんなドラム&ギター・ソロ以降はまさにフィナーレに相応しいアンセム連打の展開へ。ヴィンス、ニッキー、ミックの3人がステージ中央で互いに競り合い、見得を切り合うようにして煽る“Live Wire”、これぞモトリー伝統芸!な“Too Young to Fall in Love”、そしてエンジン音のイントロから大歓声になった“Girls, Girls, Girls”は、80年代後半のモトリー・クルーのゴージャスで破天荒な魅力、LAメタル全盛期、あのMTV時代を彩った彼らのいくつもの記号性がいっぺんにスパークするようなパフォーマンスだ。“Kickstart My Heart”では大量の紙吹雪とテープが舞い散り、本編ラストに相応しい光景が出現する。

アンコールは1曲のみ、そうここでやるとしたらこの曲しかない“Home Sweet Home”。こぢんまりしたセンターステージに集まった4人が、文字通り四方をファンに囲まれて幸せそうにこの曲を歌い上げる。モトリー・クルーのラスト・ツアーは、最後の最後で生まれた少しの感傷と、そしてたくさんの感謝と歓声で幕を閉じた。ちなみに終演後、会場外のオフィシャル・ツアー・グッズ売り場には、ライヴの興奮や汗も引く間もなく全速力で駆け込んでくるファンの姿が多数見られた。たしかにツアーTをゲットせずにはモトリーのライヴ体験は終わらないのかもしれない。モトリー・クルーの日本での最後のステージは、最後の最後まで彼ららしかったのだ。(粉川しの)

1. Saints of Los Angeles
2. Wild Side
3. Primal Scream
4. Same Ol' Situation (S.O.S.)
5. Looks That Kill
6. On With the Show
7. Too Fast for Love
8. Smokin' in the Boys' Room
9. Mutherfucker of the Year
10. Anarchy in the U.K.
11. Dr. Feelgood
12. Shout at the Devil
13. Don't Go Away Mad (Just Go Away)
14. Drum Solo
15. Guitar Solo
16. Live Wire
17. Too Young to Fall in Love
18. Girls, Girls, Girls
19. Kickstart My Heart

En1. Home Sweet Home
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