グラスゴーが生んだ叙情派ロックバンド:トラヴィスにrockin’on sonic直前インタビュー! メンバーの絆、リバイバルへの想い、そして思わず笑ってしまう来日エピソードをフランが語りつくす

グラスゴーが生んだ叙情派ロックバンド:トラヴィスにrockin’on sonic直前インタビュー! メンバーの絆、リバイバルへの想い、そして思わず笑ってしまう来日エピソードをフランが語りつくす - pic by SREVE GUILLICKpic by SREVE GUILLICK
rockin'on sonic 2026、コスモステージのトリに登場予定のトラヴィス。あらためて考えてみても、かれこれ四半世紀以上、愚直に「いい歌」だけを届け続けてきた彼らの変わらぬ姿勢を見られるのは喜ばしいことだ。スコットランドのグラスゴーから登場し、セカンドアルバム『ザ・マン・フー』(1999)でブレイクスルーしたトラヴィスは当時「UK叙情ロック」といった言葉で括られもしたが、そこからの彼らの歩みは、トラヴィスの音楽がそんな一時のトレンドや傾向に回収されるものではないことを証明してみせた。

ということで、いよいよrockin'on sonicの開催まで1ヶ月を切ったこのタイミングで、フラン・ヒーリーの最新インタビューをお届けしたい。いい機会なので、これまでの活動のこと、ライブについて、日本の思い出、近年の音楽シーンに思うことなどいろいろ尋ねてみたが、相変わらず気さくにたっぷり答えてくれた。その飾らなさこそがトラヴィスが愛され続ける理由なんだなあ……としみじみする。今こそ、トラヴィスの数多くの名曲を体感するには打ってつけのタイミングだろう。幕張が温かな空気で包まれるのが楽しみだ。


インタビュー=木津毅



●トラヴィスのrockin’on sonicへの出演、楽しみにしています。年が明けてすぐという少し変わった時期のフェスティバルなのですが、出演についてどのような気持ちですか?

「いや、名案じゃないかな。なるほど、その手があったか!と。どの地域でもフェスといえば、だいたい夏頃って相場が限られてるなかで、あえて年初にフェスを開催するなんて斬新で、なるほど!と思ったよ。そこからどんな空気感になるのか、今から楽しみにしてるよ!」


●2019年には『ザ・マン・フー』、2022年には『インヴィジブル・バンド』の20周年ツアーをされていましたね。過去の代表作のツアーを経て、どのような感慨を抱きましたか?

「いや、なんか、おかしな気持ちというか、よくミュージシャンが『どの曲も自分にとっては子どもみたいなもんだ』的な発言をしてるのを聞くけど、というか、実際、自分がまさにそういう発言をしてるわけだけど(笑)、本当に心からそういう気持ちなんだ。どちらのアルバムのなかからも何曲かはアニバーサリーにかかわらず定期的に演奏してるし、そもそも慣れ親しんでた曲も入ってたとはいえ、もう何年もずっと演奏していなかった曲もあるわけで……。

ただ、これだけ年月が経ってるとはいえ、あの頃とまったく同じというか、あの頃の感情でありストーリーがそのまんまの形で目の前に蘇ってくる。時間が経ってもちっとも色褪せていない。そんな作品を持っていること自体、つくづく恵まれていると思って……、『ザ・マン・フー』にしろ、『インヴィジブル・バンド』にしろ、 つくづく良い年の取り方をしてくれてるなあ、と。いまだに新鮮に感じられるんだよね。それはもともとの曲の能力もあるし、単純にうちのバンドが良いバンドだからでもあるし。メンバーの息も演奏もピッタリだし、そもそもすごく近しい友だち同士だからね。その記念すべきツアーなんだから、そんなの楽しいに決まってる!」


●それらのツアーには長くトラヴィスを聴いてきたファンが来ていたと思うのですが、若い世代のリスナーも増えている実感はありますか?

「いや、それは昔から実感するところで、昔からいい感じに客層が混じり合ってるんだよね。そもそもトラヴィス自体が昔から流行だのファッションだのと無縁のバンドだったからさ。チャートよりも自分たちのハートに従ってきた、それが良いのか悪いのか別としてね。その頑なさこそがまさにスコットランド人気質を象徴してるとも言える(笑)。

いや、何が何でも自分を曲げないっていうわけじゃないけど、愚直というか、謙虚でもある。その謙虚さがトラヴィスの曲にもそのまま表れてて、それが何かしらほっこりとしたプラスアルファの要素になってくれてるのかな、と思ったりして。だから曲の力もあるし、バンドの力もあるし、それとうちのバンドは昔から本当にファンに恵まれててね! ファンの人たちが目の前で自分たちの曲に浸って幸せそうな顔をしてる姿を見てるだけで毎回ジーンとくる」


●まさに日本にもトラヴィスを長年聴いているリスナーがたくさんいます。そんなこともあり、トラヴィスはずっと日本のファンを大切にしてくれているイメージがあるのですが、この25年で、日本についてとくに記憶に残っているエピソードはありますか?

「それで言うなら、フジロックで誕生日を迎えてるんだよ。それはすごく特別な思い出だよね。というか、日本では2回誕生日を迎えてるんだよ。ただ、1回目のときは食中毒になって、それが本当に最悪で……日本のレコード会社が大掛かりなパーティを企画してくれてたらしいんだけど、それどころじゃなく、ホテルの部屋のなかでひとり冷や汗をかいてて。しかも母親のお土産を買うのにどうしても東急ハンズに行きたくて、完全にグロッキーな状態でホテルの部屋から出たら、日本のレコード会社のスタッフが『ハッピーバースデー‼』って書いてある特大バースデーケーキを抱えて迎えに来てくれてて、『うぅううう、吐きそう‼』ってなったのを強烈に覚えてる(笑)‼

まあ、それはかなり特殊すぎる思い出だけど(笑)、その後10年だか12年後だかにフジロックに再訪したときの記憶としてはお客さんがすごく温かくて、“ハッピーバースデー”を歌ってくれたり……観客のなかに『ハッピーバースデー!』って書いてあるハットを被ってるお客さんがいたりして、その写真が今でも残ってる(笑)。何しろ感激しちゃってね。これまで日本に行ったことのあるバンドと話してるとみんな『日本、良かったー!』って話で盛り上がるし。あとイギリスも日本も島国ってとこで、お互い通じ合うものがあるのかもしれないね。お世辞じゃなくて、どのバンドも口を揃えて『日本。最高だったよね!』って言うしさ。しかも今回、初めて息子を連れて日本に行くんだよ!」

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●一方で、同じバンドを長年続けていくことの苦労もたくさんあると思います。活動に対するモチベーションを保つ秘訣は何だと思いますか?

「それに関しては、やっぱり、人柄とか相性みたいなものもあるんじゃないかな、何しろ4人でやってるから、コードみたいなもので……ピアノで♪ダラララ~って和音を弾くとき、4つのうち1つでも違う音が混じってたら和音にならないわけじゃないか。それがうちのバンドの場合は、4人ともお互い欠けている部分を補う関係性になってる。それは人としても、メンバーとしても、友だちとしても、もう愛しちゃってるんでね。向こうも僕のことを愛してくれてるし……いや、そうと信じてる(笑)。

あと、スコットランド人ということも関係してるんじゃないかな。『そんなにシリアスに考えすぎるなよ!』みたいなノリがお互いにあってね。ただまあ、長く生きてればしんどい時期もあるって。みんなで一緒にやってるんだから。 たとえばうちのドラムのニールが大きなケガをしたとき、ちょうど大舞台を控えてて、そこでドラマー抜きでステージに立つのか、そもそもステージに立つこと自体を諦めるのかっていう選択肢に迫られたんだけど、やっぱりメンバー全員が揃ってなくちゃっていう結論に至ったんだよね。それくらい一世一代の舞台だった。それでも、ビジネスよりももっと大きなものを自分たちは選択してきたんだよね」


●10作目の『L.A. Times』は、あなたにとってもっともパーソナルな作品だと説明されていましたね。今振り返って、あのアルバムで達成できたと感じるのはどのようなことでしょうか。

「パーソナルというか、それに関しては翻訳とかインタビューやバイオの編集のなかでニュアンスが少し変わってしまったのかな?って感じもするけど。というのも、『ザ・マン・フー』って作品が、自分の人生が大きく揺らいでて感情的にもいろんなことが起きていた時期に書いたアルバムなんだよね。

当時、彼女と別れて、スコットランドからロンドンに出てきて、めまぐるしくいろんなことが起きてた時期で、どうしたってそれは曲に出てしまう。ただ普通に曲を書いてるだけなのに、そこにさらに付随されていくものがあるというか……前作の『L.A. Times』に関しても同じで、本当にいろんなことが起きててね。

まあ、手放しで良いとは言い切れないような状態ではあって……で、音楽でも絵画でも、そういう人生のしんどい時期に作ったものっていうのは、やっぱり独特の周波数を放ってるというか、それがまたある一定の層に響くっていうことがあると思うんだよね……もうこれに関しては自分でもどうやってうまく説明したらいいかわからないけれども。そんなとき、ソングライティングがどれほど心の支えになってくれたことか。自分が曲を書くことで救われたように、ここにある曲を聴いた人が人生の厳しい時期を乗り越える力にしてくれたら、と。そんな想いをこめたんだ」


●同作のタイトルトラック“L.A. Times”では格差がモチーフになっていましたね。今、世界中が政治的にも経済的にも混乱し、日々インターネットで人々が消耗していますが、そんななかで歌や音楽にできることがあるとすれば、それはどんなことだと思いますか。大きなテーマの質問ですが。

「歌にしろ、音楽にしろ普通に身近にあって、日常的に聴くものだよね。それが今の時代では、音楽との関係性もすごく不思議なものになってるというか、 テクノロジーと自分たちの関係が不思議なものになっているわけで……それこそうちの息子なんて、典型的ないわゆるZ世代ド真んなかで、子どもの頃からスマホやPCの画面と身近に接してきてるわけだよね。

ただ、ひとつだけ言えるのは音楽は人生にとって必要なものだと思う。それが今どこに向かっているのかがわからないけれど。とりあえずインターネットを通じて、かつてないほどたくさんの音楽を人々は享受してる、そしてかつてないほどのコミュニケーションがおこなわれている……それなのに個人個人はかつてないほど孤独を感じているんじゃないかなって気がするんだよ。

それこそインフルエンサーだのフォロワーの数だのばかりに気を取られて孤独に追いこまれてる。アルバムのなかに“I Hope That You Spontaneously Combust”って曲があるんだけど、まさにインフルエンサーについて触れてる曲で……というか、そもそも“インフルエンサー”って言葉自体がどうなんだろう?っていう」


●たしかに。

「他人に影響を与えるって、何をもってして?っていうさ。とはいえ、その空白を埋めてくれるのが音楽なんじゃないか、と。音楽っていまだに解明しきれてない。それは作ってる本人にもわからない。これはどんなバンドだろうがソングライターだろうが少なからず共感してくれるところだろうと思うけど、曲作りってその足りない穴を埋める作業なんじゃないかと……人々の心に少しでも癒しをもたらすためのDNAの構成要素の1つに過ぎない……だからこそ、正直に真摯でありたい。

自分が求めてる音楽がまさにそういうものだから。結局、最終的に残るのは真実だけだから。真実が鳴らす鐘は永遠に響いていく……その周波数にアクセスできるかどうかなんだよ。そのゾーンに入って、正直に自分の心をさらして、ただ真実を語る。そこに誰かが共感してくれることを祈りながら。そこから、ひとりの人間の人生であり、そのひとりの人間から世界が変わっていくかもしれない。自分が思っている以上に波及していくものなんだよ」


●トラヴィスのライブはいつ観ても、歌そのものでバンドとオーディエンスが一体感を得られるような親密さがあるとわたしは感じます。トラヴィスにとって、ライブにおいてもっとも喜びを感じられるのはどのような側面ですか?

「いや、本当に何がトラヴィスのライブをトラヴィスたらしめてるんだろう?と、自分でも思う。もちろん曲自体の力もあるけど、語り合う場でもある。曲にまつわるストーリーを語ることもあれば、今日起きた出来事について、何気なく語り出すかもしれない。何か自分が発信したところから次の展開が生まれて、そこからまた次の展開が生まれてっていう風にどんどん広がっていくもので……何もステージ上で計算してやってるわけじゃないんだけど、それが積み重なって一気に弾けるみたいな瞬間がある。自分はもともとバンドをやって人前に立ってパフォーマンスするなんて苦手な人間なんだけども、何回かステージを重ねているうちに、そういうモードに入っていくとうか、通常のバージョンの自分がハイパーバージョンになっていく感じだよね」


●先ほど音楽のリスニング環境が変わっているという話もありましたが、最近、とくに良いと思う若手のミュージシャンやバンドはいますか? 2025年にリリースされたアルバムで、あなたのお気に入りを教えてください。

「それで言うなら、間違いなくギースでしょ。 これはかなり共感してくれる人数が多いんじゃない? 本当に真の意味で実直なバンドだと思うよ。しかも彼らって音楽以前に友情で結ばれてることが傍からもわかる。それが、すごく自分たちにも重なるんだよね。音楽よりも先に友だちなのが伝わってくる。 そうでなくても、まず演奏がまさに見事で、しかもすごく面白い音楽をやってると思う。ぶっちぎりで素晴らしいバンドだと思う。

うちみたいなバンドや、あるいはストロークスみたいなバンドでも、長年愛されているバンドには、やっぱり特別な何かがあるんだよ。確実にAIには作り出せない何かを持ってる。真に訴えるものがあるんだ。だから、今のAI時代は、本当に言いたいことであり、伝えたいストーリーを持ってるバンドやアーティストにとってはむしろ良い時代になってるって言えるんじゃないかな」


●rockin’on sonicは今どき珍しく、ロック雑誌が主宰するフェスティバルです。ロック雑誌に関する思い出が何かあれば、教えてください。

「10代の頃は『Smash Hits』って雑誌の読者だったんだよね。載ってるバンドも全部好きだったし、しかも毎号最新の曲の歌詞が掲載されてて、それは他の雑誌にはない『Smash Hits』ならではの特集で。自分が曲を聴いたときの印象と実際の歌詞では全然違ってたりすることってあるでしょ? だから、毎週その雑誌でお気に入りの歌詞を見つけて、デヴィッド・ボウイの“Loving The Alien”の歌詞もその雑誌を見て覚えたりしてね。

あの時代、あの場所、あの世代のイギリスの音楽シーンを体験できたことはすごく恵まれてたし、そこから最高の音楽雑誌やら音楽メディアやらジャーナリズムが次から次へと生まれてきて、すごく豊かな時代だったよね。しかも今度は、自分のことがその雑誌に載るようになるという、それがまたシュールで感慨深いというか。ブラウン管で憧れのバンドを眺めていたはずが、いつの間にか自分がブラウン管の向こうに立つ側になってたり、子どもの頃を振り返るといろいろと感慨深いものがあるよ。イギリスにも当時はいい雑誌がたくさんあったし、日本にもこうして素敵な雑誌があって、今回みたいな中身のあるインタビューをしてもらってね。ひたすらありがたいことだよ」

Travis “Sing”


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