インタビュー=高橋智樹 撮影=Adi Putra
『ゴールデンカムイ』の話がなかったらたぶん、“輝けるもの”みたいなロックチューン、パンクっぽいものはアルバムに入れなかったですよ
──僕は個人的に、YouTubeで公開されている「ACIDMAN大木と科学者たち」という対談動画のシリーズが大好きでして。
あぁ、ありがとうございます(笑)。
──一発目から素粒子の話を始めて、知識の空中戦を繰り広げているわけですけども。
そうそうそう。誰が観てるんだ?っていう(笑)。
──(笑)。それも全部、この『光学』というアルバムにフィードバックされてますよね。宇宙のスケールに魅せられた少年時代の大木伸夫が、それこそ原子の構造まで見つめ尽くした果てに、それはなんのためかと言えば、愛を見つめるためであるという──そういう凄味を最も感じた作品だと思いました。
ありがとうございます。今おっしゃっていただいたように、僕にはこういうことの表現しかないんだな、っていうのを相変わらず感じるし。それをより研ぎ澄ましたっていうのはあると思います。その番組で僕自身も学ぶことが多かったし、科学的なアプローチが好きだし。そういうものによって僕のエネルギーが蓄えられている、っていうのを非常に感じたので。だからこのタイトルも今回、よりリアリティのある『光学』という──光を学び、改めて生命を学ぶ数年だったし。僕は天体の宇宙というよりも、とにかく「すべてのこと」を宇宙として捉えているので。存在とは何か、生きるとは何か、死ぬとはなんなのか、僕らは死んだらどこに行くのか、というのがずっと究極のテーマなので。それをちゃんと──まあ相変わらずですけど──表現できたかなとは思ってます。
──前作『INNOCENCE』以降、『光学』はどんな形で始まっていったんですか?
これもいつも通りですけど、アルバムを録り終わったぐらいから、もう次の作品のことをイメージしているので。前回(『INNOCENCE』)の発売というよりは、もうレコーディングが終わったぐらいの頃から「この曲を入れよう」とか「こういう感じにしよう」っていうのがあって進んでたんですけど──今回に限って言うと、途中でタイアップの話をいただいたので。僕らみたいなバンドに、あんなビッグタイアップが来るなんて、滅多にないことなので。一回『ゴールデンカムイ』のために全部、時間と熱量を捧げようと思って、アルバムの流れを一度止めたんです。で、“輝けるもの”に引っ張られるようにして、それを軸にしながらやっていこうっていう。最初は「タイアップの曲は入れない」ぐらいのことを考えてました、あえて。でも、この曲を入れて、A面/B面みたいな構成になるとよりよくなるな、っていうことで。前半部分は結構タイアップの曲もあって、後半部分はスピリチュアルな精神性っていう形になって──結果論ですけど、よくできたなと思いますね。
──『ゴールデンカムイ』のオファーをもらった時、どんなことを考えました?
素直にめちゃくちゃ嬉しくて。ちょうど『ゴールデンカムイ』を、漫画のほうで読んでて大好きだったのもあって、嬉しくてびっくりしたのと──僕らメジャーのフィールドにいながらも、スピリットはインディーズだから(笑)、誰からもそっぽ向かれてる気分なんですよ。
──いやいやいや(笑)。
テレビをつけてもこういうバンドは出てこないし、なかなかメジャーのバンドとして扱ってもらえてないような──音楽シーンにいながらも、芸能のシーンに寄り添えてはいなかったので。いわゆるエンターテインメントのトップの方たちが、僕らのことを知ってくれてるんだ!っていうだけでも嬉しかったし。大役を任せていただいて光栄でしたね。でも、あの話がなかったら、“輝けるもの”みたいな曲はたぶんやらなかったですよ。こういうロックチューン、パンクっぽいものは入れずに、もうちょっとスピリチュアルっぽい感じにしよう、と思ってた時にタイアップの話をいただいたので。
──こういう曲調は、制作サイドからのリクエストがあった?
あったんです、「“Stay in my hand”みたいな激しい曲を」って。「今回はやらないと思ってたけど、じゃあやってみるか」っていうことになったおかげで、違う方向に行ったんですけど、それでよりアルバムに力をいただいたというか。「この曲があるから、もっと自由にやれるかもしれないな」っていうことで、影響は大きかったですね。
──前半のパートは“輝けるもの”以外にも、ストリングスをフィーチャーしたり、ブラスアレンジの曲があったり、ゴスペルがあったり……とアレンジのバリエーションも豊かで、ある意味「人間サイド」というか、人間社会の清濁の色彩がそのまま描き出されているようにも思いました。“輝けるもの”が入ることで、そこにちゃんと意味が生まれた感じはしますね。
まとまりやすくなったと思いますね、この曲が入ったことで。エンターテインメントを生業にしているから、バラエティ豊かっていうのはとても大事なことではあるんだけど。僕が本当にやりたいことか?って言ったら──時代とは逆行してるとは思うんですけど──「売れるための手法」っていうのは、目的が違ってくるから、ナンセンスなんですよね。売れることも大事なんだけど、売れることが目的になってしまうと、すべてがズレてくるから、そんなものに芸術性は1mmもないと僕は思っていて。せっかくミュージシャンとして曲を作れる立場にいるんだから、そういう発想ではいけないなって。でも、今回のバラエティ豊かな前半部分は、そこはうまくできたなと思いますね。一切迎合せずに、音楽の素晴らしさ、作品としての素晴らしさ──トータルで1本の映画を観ているような世界観を作れたのは、この時代に本当にありがたいことをやれてるなって。
──“アストロサイト”という曲名は──「astro-」って普通、星・天体・宇宙といった言葉に付く接頭辞なので、そういうものかなと思って調べたら「脳と脊髄に存在するグリア細胞の一種」って書いてあって。「グリア細胞って何?」ってなるわけですよ。人間が生み出すどんな想像力よりも、科学のほうがぶっ飛んでるんですよ、世界として。圧倒的にファンタジーで、エンタメなんですよ
(笑)そうなんですよ。これがそれこそ『ACIDMAN大木と科学者たち』の、毛内拡先生っていう脳科学者の方と対談した時に知った言葉で、すごく衝撃を受けたんですよ。これは何かと言うと──僕らは脳の神経細胞であるシナプスによってあらゆる行動をしているんだけど、実はそれはすべて無機的な行動しかしていなくて。脳の神経のいろんなところにある、グリア細胞っていう謎だらけのもの──その中にアストロサイトっていう領域があって、彼らが神経細胞に伝達をしているらしいと。間接的な証拠はあるけど、世界的にはまだ認められてない、っていう段階なんですけど、毛内先生はその説を支持してるし、僕も聞けば聞くほどそうとしか思えないんですよ。それって宇宙と似てるんですよね。宇宙のダークマター、ダークエネルギーって、宇宙全体の95%を占めていて。僕らはたった5%の中で、なんにもない謎の物質にまみれている中で、すべてを知ったかのように生きている。で、脳味噌についても、自分のことを全部知っているかって思ったら、脳も──この時代でもまだ5%らしいんですよ。まったく宇宙と構造が似ていて。目に見えない、無駄だと思われていたアストロサイトが、実は僕らの意思決定をしている可能性がある、っていう話に近年なっていて。「これはもう、すぐ使わせていただきます!」って、その対談の場で「ちょっと今から作ってきます」みたいな感じで(笑)。ほんとでも、その数日後にできた曲でしたね。
──それが音楽に直結するのは大木くんぐらいですよね。もしかしたら僕らの感情ですらもある種の条件反射かもしれない、という可能性に行き着いても、それを研究レポートではなく、ロックという表現に結実させ続けているという。
そうなんですよ。たまたまではあるんですけど、たまたま僕は音楽が好きで、バンドが好きで。かっこいいから/モテたいから始めたものと、やっぱり本質的に興味のある、子供の時からあった「生命の不思議を解き明かしたい」っていう欲望とがガッチャンコして今に至っているので。こんなことは本当はやらなくてもいいし、求められているかどうかもわからないんだけど、僕がやるのはそこなんじゃないかな、それしかできないなと思って。科学が苦手な人、宇宙のことが苦手な人も、少し形を変えたら、光について興味を持ってくれるかも、宇宙について興味を持ってくれるかも──それこそエンターテインメントだなと思っていて。エンターテインメントって、要は虚構じゃないですか。虚像で、わけわからないSFだったりファンタジーだったりするんだけど。科学も、突き詰めるとめちゃくちゃファンタジーで。人間が生み出すどんな想像力よりも、科学のほうがぶっ飛んでるんですよ、世界として。圧倒的にファンタジーで、エンタメなんですよ。素粒子の世界とか、脳の話とか、めちゃくちゃエンターテインメントだ、っていうところには、僕の中では辿り着いてるんですよね。「一緒じゃん!」って(笑)。
──しかも、それを3ピースバンドという形態でやる人たちは、後にも先にもいないでしょうね。
いないと思いますね。僕のエゴでやってて、メンバーがいい意味で何も考えずに、僕についてきてくれてるからこそできるわけで。ただのエゴでやってるんですけど、正しいと思ってやってるので。そういう奇跡的な出会いも含め、そういうメンバーだからこそ、僕が自分と向き合い続け、この世界でずっと闘い続けられるのかなとは思います。ここ何年も、アレンジもほとんど僕が全部やっていて、彼らはそれに応えるっていう。前まではメンバーに託してたし、バンドってそっちのほうが美しい気もするんだけど、やっぱり「こっちのエゴを優先させてほしい」っていうことで。