来年の来日公演も超期待。世界ツアー中のウェット・レッグの最新ライブを観た。最新米TVライブ映像、MVも公開。

来年の来日公演も超期待。世界ツアー中のウェット・レッグの最新ライブを観た。最新米TVライブ映像、MVも公開。 - pic by AKEMI NAKAMURApic by AKEMI NAKAMURA

2022年に登場し、瞬く間に世界を魅了してしまったウェット・レッグ。
イギリスの島から放たれた小さな風は、いまやグローバルな嵐となった。アメリカでも絶賛され、グラミー賞では5部門ノミネート、3度の受賞という快挙を成し遂げる。
そんな“現象”を経て迎えたセカンドアルバム『モイスチャライザー』。
並々ならぬプレッシャーのなかで生まれたはずのこの作品は、パンチの効いたフックと遊び心あふれる再発明によって高い評価を獲得し、ウェット・レッグが英国でもっとも独自性のあるバンドのひとつであることを改めて証明した。

現在、彼女たちは世界ツアーの真っ只中にある。
米TV出演時のライブ映像はすでにYouTubeに公開された。

ライブ映像はこちら。


また、最新MV“mangetout”も公開され話題を呼んでいる。


このまま年内はアメリカとヨーロッパを巡り、そして来年初頭には、ついに日本公演が控えている。詳細はこちら。
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15225

ニューヨークでは、セントラルパーク(キャパ5500人)とブルックリンのパラマウント(2700人)の2夜が、どちらも完売。
私はそのうちの一夜、セントラルパークでのライブを観た。
アルバム同様に、彼女たちの“核心”を増幅させたようなステージだった。
デビュー当時のドライなユーモアも、無邪気な皮肉もそのままに、しかしエネルギーは別次元へと転化していた。
音楽的にも、ビジュアル的にも、彼女たちは圧倒的な変貌を遂げていた。

この夜、披露されたのはセカンドアルバムの全12曲中11曲。
まさに完全新作モード。
さらにデビュー作からも8曲を演奏し、まだ2枚しかアルバムを持たない彼女たちにとって、現時点のキャリアすべてが凝縮された“最新形”のステージだった。

白いスモークが勢いよく焚かれ、視界は真っ白に。
重いリズムと鋭いギターのうねりがその霧を切り裂き、激しいストロボライトが閃く。
バンドの全貌も見えないまま新作からの“catch these fists”で幕開け。

その中から、浮かび上がるリアン・ティーズデールだ。ピンクに染めた髪、白いタンクトップ、スパンコールのショートパンツ。背面には大きなピンクのリボン、足元は銀色のスニーカー。
ファイターのような佇まいだ。

2022年のツアーではまだどこかシャイで、インディ的な照れを残していたが、いまの彼女は完全にステージの主導者となっていた。
肩の力の抜けた笑顔の奥に、確信と緊張が共存している。
たくましい腕のマスキュリニティとリボンの繊細さ——その対比が、DIY的でありながらもグラム的な美学をまとい、新作のジャケットのように挑発的に輝いていた。
彼女の皮肉と知性、そしてファーストの成功によって得た自信。そのすべてが、この夜のリアンに宿っていた。
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一方、ヘスター・チャンバースは、ジャケットで背を向けているように、まるで意図的に光から距離を取っていた。
以前はリアンと並んでステージ前方に立っていたが、いまは定位置を奥へ移し、スモークと髪の影に身を隠すようにギターを弾く。
顔が見える瞬間はほとんどない。その“控えめさ”が、むしろリアンの輝きを際立たせていた。
2人のあいだには、ステージを引き受ける者と、影に回って支える者との絶妙な緊張が流れている。

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来年の来日公演も超期待。世界ツアー中のウェット・レッグの最新ライブを観た。最新米TVライブ映像、MVも公開。

今回のツアーでは、ドラマーのヘンリー・ホームズ、ギタリストのジョシュア・モバラキ、ベーシストのエリス・デュランドが正式メンバーとして参加。
彼ら全員が作曲に関わり、ウェット・レッグというバンドは、真の意味でひとつの生命体へと進化した。
たとえばホームズ共作の“jennifer’s body”では、ポストパンク的な執念と繊細な熱が交錯し、これまでにない感情の深みを見せる。
また、デビュー作の“Wet Dream”や“Oh No”では、リアンが蛍光グリーンのギターを抱え、ヘビーなアレンジで挑む。
シンセサイザーが炸裂し、ドラムと照明が連動する。以前よりも演出が洗練され、エンターテインメント性すら感じさせた。

一転して“Supermarket”では、あのゆるい跳ね方と笑顔が戻る。観客は彼女に合わせて左右に手を振り、当初のあどけなさを思い出す。
緩急のバランスが絶妙で、セット全体がひとつの流れとして完成されていた。
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“liquidize”ではリアンがギターを置き、マイクを傾けながら語りかけるように歌う。
90年代インディロックを思わせる繊細なポップセンス。観客は声を枯らして大合唱した。

“Being in Love”ではステージが暗転し、リアンとヘスターが闇の中で向かい合う。ギターが火花を散らすようにぶつかり合い、照明が2人の輪郭だけを浮かび上がらせる。
それは、バンドの原点を思い出させる美しい瞬間だった。
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その直後に続いた“pond song”は、ライブの空気を一気に変える。
AC/DCを思わせる直線的なリフがうなりを上げ、リズムが地を這う。
リアンの声は湿った夜気の中に滲むようで、内省と昂揚がせめぎ合う。
そこには“恋すること”の余韻と、“生きていること”そのものの振動が同時に宿っていた。
まるで闇の底で呼吸するようなこの曲が、後半戦への導火線となる。

“Ur Mum”では恒例のスクリーム。リアンの合図で、観客全員が「アーーーーーー!」と叫ぶ。
カオスが極まるなか、笑いが自然に生まれる。ウェット・レッグらしい瞬間だ。いまだにライブのハイライトのひとつだ。
“don’t speak”、“davina mccall”、“11:21”と続く中盤では、メランコリックで柔らかな光に包まれたドリームポップの領域へ。
リアンの高音が透明に響き、今度はライブの中でも、最もエモーショナルな場面となった。
しかし、嵐のようなドラムに導かれた“pillow talk”では一転してノイズとグランジ、またはハードコアパンクな世界へ。
「みんなが一緒に歌ってくれたら嬉しい」と紹介されたのは、“u and me at home”。実際、サビは合唱となる。メロディーがキャッチーな曲だ。

そして、デビュー作からの名曲“Too Late Now”。
もの悲しいギターが鳴り、リアンとヘスターが再び向かい合う。
今度は飛び跳ねるように、くるりと一回転してギターを重ねる。
デビュー時の二人を思い出して、胸がキュンとする瞬間。
激しいストロボの世界から一転して、夢の中。
会場にはシャボン玉が漂い、光を受けてゆらめいた。

“Angelica”で再びドラムが轟き、観客の手拍子が重なっていく。
光と闇が入り交じる中で、「あと3曲しかないんだ」とリアンが告げると会場からはがっかりした叫び声。
軽やかなリズムが再び鳴り始めた。
“mangetout”。リアンはギターを外し、ステージを舞うように踊る。その笑顔には、ファースト期の無邪気さと、今の確信が同居していた。《Get out forever!》のフレーズで、会場は大合唱に包まれる。ライブが終わる直前の祝福のように響いた。

そして最後。T・レックスを思わせる催眠的なグルーヴ、“CPR”。
ベースのエリス・デュランドが共作したこの曲で、ライブは頂点に達する。
リアンは艶やかに踊り、銀色のスニーカーが照明を反射して輝いた。
白いスモークが一気に噴き上がる。
音も光も、すべてが真っ白な世界に溶けていった。
アンコールはない。

ウェット・レッグは、すべてを出し切り、ひとまわり成長した姿を見せつけるように、スモークの彼方へと消えていった。
“終わり”ではなく、彼女たちの存在そのものが余韻として、いつまでも心に残るようなライブ。

来日公演は必見です。

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観客がもらったセットリストの写真を撮らせてもらった。よく見たらギターマークが付いているけど、それはリアンがギターを弾く曲、という意味だと思う。
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始まる前も終わった後もあまりの長蛇の列だったグッズ売り場。
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