レディオヘッド、2018年8月1日にフィラデルフィアでツアーを終了し、活動休止して以来、7年ぶりのツアー再開がとうとう来週に迫っている。
そのツアーを前に、バンドが長い活動休止の理由を英The Times紙に語っているのだけど。この記事が素晴らしい。それぞれが率直に今の心境を打ち明けていて、読んでいて胸が詰まるほどだ。そして、その内容は想像以上に深刻だった。例えば、トム・ヨークは、最後のツアーとなった2018年時の心境をこう語っている。
「ライブは自体はすごく良かったんだけど、“このままみんなで崖から落ちる前に止めよう”と思ったんだ」と。ただ、良いニュースは、それぞれがその時期を乗り越えて、再びバンドとして動き出すところまで辿り着いたということ。リハーサルでは、『ザ・ベンズ』の1曲目から順番に、全アルバムを全て演奏したそうだ。
⚫︎トム・ヨーク:7年の活動休止について
「バンドの車輪が外れていた。だから止まらざるを得なかったんだ。理由はいくつもあったと思う。ライブ自体はすごく良かった。でも、“このままみんなで崖から落ちてしまう前に止めなくちゃいけない”と思ったんだ」
「それに個人的にも止まる必要があった。僕自身が(元妻の)死と全く向き合っていなかったから。その悲しみが色々な形で出てきてしまって、これは一度距離を置く必要がある、と思ったんだ」
2016年に、トムの元妻のレイチェル・オーウェンが癌で亡くなっている。2人の間には、お子さんが2人いる。ノア(24歳)とアグネス(21歳)。トムはその後、再婚している。
音楽が救いであるかについても語る。
「もちろんそうだよ。音楽はいろんなことの意味を見出す手段となり得る。だけど、自分の心身の状態が良くない時は、やらない方が良いこともある。音楽をやめなくちゃいけないと考えただけで、すごく辛い。自分がどん底に落ち込んでいる時も、何かしがみつけるものが必要だから(つまり音楽がそれであるということ)」
「でも、これまでの人生で何度か、音楽に癒しを求めてピアノを弾いた時に、本当に“痛み”を感じたことがあったんだ。身体的にも。音楽そのものが痛かったんだ。自分がトラウマの真っ只中にいると」
⚫︎エド・オブライエン
「リハーサルに戻るのは、すごく不安だった。実は、僕はもうレディオヘッドをやり切ったと思っていたから」
「最後のツアーは、正直良いとは思えなかったんだ。ライブ自体は楽しめたのだけど、それ以外は全て嫌だった。バンドの心はバラバラで、完全に燃え尽きていた。でも、それはどんなバンドにも起こり得ることだと思う。このバンドは僕ら全員の人生そのものだったし、じゃあそれ以外に何があるだろう?って感じでね。成功というのは、人々に非常に奇妙な影響を与える。とにかく、僕はもうこれ以上やりたくなかったんだ。だからそのことをメンバーに正直に話した」
「それで魂の暗い夜を長い間さまよった。ひどい鬱に陥って、2021年には底にまで落ちた。でも、そこから戻ってこられた理由のひとつは、どれだけ自分がバンドメンバーを好きなのか気づけたことだった。17歳に出会った彼らと、もう二度と一緒にバンドをやることもないだろう、と思っていたところから、いや、僕らはずば抜けた曲を作れたじゃないか、と気づけたんだ」
この記事によると、エドはバンド脱退かという最も深刻な状況に陥っていたのが分かる。
⚫︎バンドのリハーサルは今年の夏
2018年8月1日にフィラデルフィアでツアーを終了した後、今年の夏にロンドンでリハーサルを行ったという。
そこで彼らは『The Bends』の1曲目から始め、これまでの全アルバムをリリース順に演奏したそうだ。
⚫︎ファンの熱狂について。
ジョニー・グリーンウッド:「みんなレディオヘッドが大好きなんだよ。僕もそうだし。僕らが作った曲も大好きだ。だからファンが熱くなるの当然だし、僕も同じような気持ちなんだ。僕らのちょっとしたオタク心を共有してくれているように思う」
一方トムは、複雑な思いを抱えている。
「音楽の話をしてくれるのはすごく嬉しい。でも、『写真撮っても良い?』って来る人はあまり好きになれない。他のメンバーも同じような経験をしているけど、僕の場合はそれが極端なんだ。外に出ると、妻や子供たちが、『あの人には気をつけて』とかって言っているのを見ることがあって、胸が痛くなる。そういう生き方って本当に奇妙だ。僕は慣れているとは言え、こども達が、僕を守らなくちゃって思っていたり、自分自身も守らなくちゃって思っているのはすごくショックなんだ」
⚫︎新世代のリスナーたち
レディオヘッドのストリーミングにおける最大のリスナー層は16歳〜23歳だそう。
『OK コンピューター』の“Let Down”が、リリースから28年後の今年8月にビルボードシングルチャートへランクインした。
トム:「あの曲は当時、アルバムに入れたくなくて必死に抵抗した。でもエドが『入れないならバンドを辞める』と言ったんだ」
エド:「あの曲こそ、『OK コンピューター』の感情的な核心だから。でも驚いたよ。18歳と21歳の子供に言ったら、『そりゃそうだよ。ティーンはみんな鬱だから。鬱っぽい音楽が好きなんだよ』って(笑)」
⚫︎テレアビブ公演をめぐる論争について
2017年、レディオヘッドがテルアビブのハヤルコンの野外公演でライブを行い、BDS運動から激しい批判を受けた。
トム:「ホテルで誰かが近づいてきたんだ。明らかに、“上のほう”の関係者で、その人に『ありがとう』と言われた瞬間にゾッとしたんだ。自分たちのライブが利用されていると感じたから。当時はあの公演に意味があると思っていた。でも現地に着いてその男に話しかけられた瞬間に、ここから出してくれ、と思ったんだ」
ジョニー:「ひとつだけ恥ずかしく思ってるのは、この騒動にトムや他のメンバーを巻き込んでしまったこと。でもアラブ人やユダヤ人のミュージシャンたちと一緒に音楽を作ったことに関しては、少しも恥じていない。それだけは絶対に謝るつもりはない」
フィル・セルウェイ「BDSの要求は不可能だ。ジョニーと距離を取れというけど、それって、バンドの終わりを意味する。ジョニーはとても信念のある立場から動いているんだ。それなのに、自分たちがこれまで共感してきたはずのアーティストたちから排斥されるなんて奇妙な気分だ」
⚫︎ツアーと新曲について。
トムは、ツアーのために65曲選曲しているということ。
ステージは、フロア中央の360度ステージになるという。
新曲について問われると、
ジョニー:「わからないよ」
トム:「ツアーの先のことは考えていない。バンドがここまでたどり着いたことに驚いているから」と語った。
⚫︎リリース情報
バンドは10月31日に、ライブアルバム『Hail To the Thief - Live Recordings 2003-2009』を発売予定。
数量限定の国内盤CDのTシャツ付きセットが発売されることも決定している。
詳細はこちら。
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15287
ここに収録されるライブ音源9曲のライブ映像が公開されている。