──『ファースト・クライ・ベイビー』がリリースされてから3ヶ月後の2024年7月にシングルの“彗星”がリリースされて、この時期から配信シングルをコンスタントにリリースしていくモードに入りますよね。曲ごとに音楽性のバリエーションも豊かで、この時期からバンドとしての創作意欲のギアが一段階上がったように感じるんですけど、実際どうでした?今は音楽の広がり方が急だから、すごい勢いで有名になる人たちもたくさんいると思うけど、僕らは失敗もしたいし、そういう部分も含めて愛してもらいたい(林)
林 常に「よりよい曲を作ろう」と思う気持ちはあったんですけど、そもそも多くの人に知ってもらうきっかけになった“Now is the best!!!”があり、あの曲のイメージで「トンボコープって、この辺のバンドとお客さんが近いよね」と括られている感じもあって、そういうものを塗り替えたいと思いながら曲作りをしていました。繰り返しになっちゃいますけど、僕らはRADWIMPSやBUMP OF CHICKENのようなバンドが好きで、彼らのような上の世代のバンドの継承者になりたいという気持ちが強いので。この時期に出した曲で言うと、たとえば“オールアローン”はELLEGARDENっぽさがあると思うし、“フラッシュバック”のサビのメロディは、僕としてはRADっぽいなと思うし。1曲1曲に、自分が憧れたバンドたちのような風格が出ればいいなと思って作っていました。
雪村 龍之介が言うように、RADWIMPSやELLEGARDENのようなでっかいバンドに憧れているのはもちろんなんですけど、曲の要素だけじゃなくて、そういうバンドとマインド的な部分で通じる部分があればいいなと思っていて。“フラッシュバック”や“彗星”は、「バンド界の英雄たちはどういう気持ちで名曲を作ったんだろう?」ってイメージしながら、そのうえで自分たちの中から出てきたマインドで作った曲っていう感じがします。
──「英雄的なバンドたちはどんな気持ちで曲作りをしていたのか?」と想像してみた時に、雪村さんはどんなことを感じましたか?
雪村 ひとりに対して歌っている曲が多いな、と思いました。いろいろな人に届けたいという気持ちはあると思うし、名曲は最終的にいろいろな人に届くけど、作る時は、誰かひとりに向けて作られているのかなって。
──なるほど。林さんは、そういう部分についてはどうですか?
林 僕も想像したし、それがさっき言った「恋愛をテーマにするだけじゃなくて、誰かの光になる曲を作りたい」という気持ちに繋がったんだと思います。あと、僕らはDTMを中心に制作することもあるんですけど、「やっぱ俺らってロックバンドじゃん」っていう気持ちもあって、“オールアローン”は「スタジオで全員上裸になって、一発録りでやろう!」って録ったんです。
──上裸っていうのがいいですね(笑)。
林 DTMは楽だし、いろいろなアプローチができるのはいいところだけど、もっと自分たちがやっていることがドラマになったらいいなと思って。「あの時こういうこともやったよね」って、いつか言えるようなドラマというか。
──ロックバンドはドラマだなって思いますか?
林 思いますね。今は音楽の広がり方が急だから、すごい勢いで有名になる人たちもたくさんいると思うけど、僕らは失敗もしたいし、そういう部分も含めて愛してもらいたいなと思います。今がどんな状況でも、自分たちはそれを受け止めたいなとも思うし。なんにせよ「自分たちはドームを埋めるバンドになる」っていう気持ちは揺るがないので。そこを目指す中での失敗なら受け止められるし、それも含めて、前に進んでいきたいなって思うんですよね。
──きれいな部分とか、正しさだけを見せるのがロックバンドじゃないですもんね。
林 トンボコープは4人ともめちゃくちゃ人間なんです(笑)。嫌なものは嫌と言うし、不満ももちろん持っているし。でも、そういうところが「なんか、いいなあ」と思うんです。そんなにいい顔ばかりできないし、でも、それが普通だと思うし。そういう部分はお客さんにも伝わったらいいなと思います。「頑張りすぎなくてもいいよ」って。僕らもだらだらAmazon Prime(Video)を見続ける日もあるし、授業をサボる日もあるけど(笑)、それもいいよねって。等身大の人間でありたいなって思います。
──今の話について、そらさんとでかそさんはどう思いますか?
そら 最近、中学生の頃に聴いていた音楽を聴き返すと昔と違う感情になるんです。昔は背中を押されまくっていた曲について、今は「この曲を作った人たちは、どんな気持ちだったんだろう?」と考えるようになったり。自分もそういうことを想像されるくらいの曲をこれから作りたいなって思いますね。
でかそ トンボコープのことも、より深く知って、より深く好きになってもらいたいよね。そう考えると、この4人は愛され要素あるなって思います(笑)。
──(笑)音楽的な面で言うと、“オールアローン”は一発録りのバンドサウンドですけど、“daratto”はメロディアスかつ打ち込みの要素も入っている曲で、こういう曲もできていることは風通しの良さに繋がっていますよね。
雪村 前提として「ロックバンドでありたい」と思うし、ロックの魂を失わないようにしたいとも思うんですけど、それにとらわれて自由を失うのはよくないなと思うので。可能性が広がることがあるならなんでもやってみたいんですよね。
──2025年に入ってからリリースされた“あとがき”は生々しさとスケールの大きさが見事に共存していて、トンボコープらしい緻密さもありつつ、ドンッと感情がぶつかってくるようなダイナミズムを感じさせる曲だなと思いました。雪村さんのボーカリストとしての表現力も豊かさを増している。昔は「悲しいことがありました」を中心に曲を書いていたんです。でも最近は「じゃあどうするんだ?」を強く描きたいと思っている自分がいる(雪村)
雪村 まさに言ってもらった通りで、どんどん壮大に、スケールは大きくしつつ、でも生々しさは失いたくないと思っているので、そう感じてもらえたのなら嬉しいです。あと歌に関して言うと、昔はメロディだけに宿っていると思っていたものが、歌にも宿っていると気づいたというか。言葉の意味や言葉の伝わる方向って、メロディで決まるものだと思っていたんです。でも、それは歌でも変わるんだと気づいたんですよね。なので、歌は前と変わったと思いますね。
──“始まりの合図”は、リリース時のコメントの中で林さんは「“Now is the best!!!”の続き」と位置づけていましたね。“Now is the best!!!”はピュアなラブソングだったと思うけど、それが“始まりの合図”という人生の歌に発展するのがトンボコープらしさだなと思いました。
林 “Now is the best!!!”と “始まりの合図”のどちらにも出てくるキーワードが《今》っていう言葉なんですけど、“Now is the best!!!”を作った頃は大学生真っ最中で、「愛に生きる」感覚というか、恋愛を中心に生きている感じだったんですよね。でも、それからいろいろな経験をして、「愛に生きる」じゃなくて「愛と生きる」に変わったというか、「人生の一部に愛がある」っていう感じに立ち位置が変わった気がしていて。ただぼんやりと恋愛をしているわけじゃなくて、いろいろな葛藤の中に愛があるんだっていう現実に、自分の人生が変わっていったことが“始まりの合図”の歌詞には込められているなと思います。
──なるほど。この2025年に入ってからリリースされた楽曲たちも、「名曲を作る」ということにすごく向き合った楽曲たちですよね。
林 2025年は、まず4月に予定していた豊洲PITを最高のワンマンライブにして、華々しいメジャーデビューを飾ろうと思っていて。それで気合いを入れて作った楽曲たちだったので力は入っていますね。
──結果的に豊洲PITでのワンマンは体調不良により中止になってしまいましたけど、その時はどんな気持ちでしたか?
林 悲しかったです。バンドとして、初めてぶち当たった大きな壁というか。4月4日が開催予定日で、翌日の4月5日で結成3周年なので、ライブのタイトルは「BIRTHDAY」にしていて。あえてこの日を選んでの予定だったので、かなり落ち込みました。本当はその日に“HEART BEAT”を初披露しようと思っていたし、“HEART BEAT”のミュージックビデオのイメージが、そのまま豊洲PITのライブのイメージでもあって。最近の僕らはライブハウスのキャパシティ以上の装飾をしたりしているんですけど、豊洲もすごいオブジェでやろうとしていたんですよね。
雪村 僕は中止が決まった時は、悲しいよりも悔しいが大きくて。どうにか魔法でも使って開催できないかとか、考えてもしょうがないことを考えちゃいましたね。でも、この悔しさを糧にしていくしかないっていう答えに行き着いたので。この悔しさはこれから近い未来に絶対に取り返しに行きたいなと思います。
──中止を発表された時のお客さんたちの反応を見て感じたことはありましたか?
林 SNSでの反応を見る限り、マイナスなコメントがまったくなくて。「マジでいいお客さんしかいないな」って、4人で泣きそうになりましたね。
雪村 コメントを見て、救われました。トンボコープファンのみんなにここで1回救われたので、そのぶんは絶対に救い返してやろうって思ってます。
──改めて、“HEART BEAT”は自分たちにとってどんな曲になったと思いますか?
雪村 この曲は、トンボコープを聴いてくれるみんなと繋がっている証だと思います。音楽で繋がることができることはライブを通してもうわかっているし、ライブだけじゃなく、孤独を感じる夜や悲しい夜に、誰かの耳元でお守りみたいに鳴ってくれる曲であればいいなと思います。音楽でひとつになれるような、そんな日があるから、日々を頑張れるんだと思うので。
──前提には、やはり孤独がありますよね。
雪村 そうですね。孤独や悲しさにはちゃんと向き合いたいっていう気持ちはありますね。
──林さん作の曲にも、人は孤独で、バラバラで、だからこそその先に思い描くものや想像すべきものがあることを伝えようとしているものはありますよね。
林 “オールアローン”はまさにそういう気持ちを書いた曲だと思います。「グループの中のひとり」とかじゃなくて、割り切れない最小単位が自分だと思うんです。だからこそ、自分の嫌いなところやコンプレックスも愛するしかないなっていう。
──これからリリースされていくであろう曲たちも含めて、雪村さんと林さんは、今の自分たちの中からどんな表現が生まれていると感じますか?
雪村 昔は「悲しいことがありました。じゃあどうするんだ?」という一連の流れを書こうとした時に、「悲しいことがありました」の部分を中心にして曲を書いていたんですよね。でも最近は「じゃあどうするんだ?」の部分を強く描きたいと思っている自分がいて。「どうすれば孤独とちゃんと向き合えるか」とか、「どうすれば人生の谷から這い上がっていけるか」とか、そういう部分を深く考えるようになったし、それはこれから出る新曲たちにも生きてくるんじゃないかなと思います。
林 僕は「どう生きるか?」が今いちばん曲に出てきているような気がするし、それは自分への問いかけであり、みんなが思っていることなのかなと思います。文明がこれだけ発達して、そんなに新たな発見もなければ、新しく成し遂げることもない中で、「自分が生きた証をどう証明するか?」っていうのは生まれてきた人たち全員が抱える問題だと思うし、それに向き合うことが、生きる活力に繋がる気がするので。1分1秒無駄にしたくないし、みんなもそう思っていてほしいということは、これから出てくる曲の歌詞の根底にあると思います。
──最後におひとりずつ聞かせてください。メジャーデビューして、トンボコープはこの先どうなっていきそうですか?
雪村 めちゃくちゃでかいバンドになれるよう、一直線に行きたいと思っているんですけど……やっぱり、一直線には行かないと思うので。回り道も、失敗も、壁も、全部愛して進んでいければいいなと思います。
でかそ 俺は高校生の頃にバンドを始めたんですけど、トンボコープで、高校時代の自分が聴いたらヒーローだと思ったようなバンドになりたいです。
そら この先どうなるか全然想像はつかないんですけど、でもメジャーデビューはひとつの夢だったし、それが叶うわけだから、努力していきたいです。僕は、自分をしっかり持っているバンドがかっこいいバンドだと思うし、そういうギタリストがかっこいいギタリストだと思うので。個性を出していきたいです。
林 規模は大きくしていきたいと思うけど、今まで信じてきてくれたお客さんたちとの距離は変わらないと思うので。変わらず信じてほしいなと思います。誰かの光でありたいと思うし、「国民的ロックバンドになる」という夢も、誰がなんと言おうと僕らの中では揺るがないものなので。それを信じてほしいです。