10周年とレーベル移籍という節目を経て、go!go!vanillasは新章に突入した。その第一歩にして間違いなく最高傑作と言えるアルバムが堂々誕生である。実験室を意味する「Laboratory」と愛を意味する「ラブ」を重ね合わせて『Lab.』と名づけられた移籍第一弾アルバムは、言うまでもなく“SHAKE”や“平安”、“Persona”という移籍後のシングルで見せてきた新たなバニラズの集大成であるのと同時に、この4人にしか鳴らせないロックンロールを真正面から注ぎ込んだ渾身のロックアルバムだ。
楽曲自体のバラエティ性に加え、5人の名だたるミックスエンジニアが参加することで生まれた多彩なサウンド、そして社会の問題から歴史、ロックンロールの伝説まで縦横無尽にぶった斬るような歌詞。このアルバムから浮かび上がるバニラズは、これまで以上にひと言では言い表せないさまざまな顔を見せてくれる。しかし、牧達弥(Vo・G)の描く明確なビジョンと、それを的確に具現化するメンバー3人の手腕が、その一見バラバラな楽曲たちをガッチリと結びつける。そして、その中で背骨のようにしてアルバムを支えるのが、“Super Star Child”や“Moonshine”のようなストレートなロックチューンだというのも、ずっと彼らを追いかけてきたファンにとっては感動的だろう。「実験」を繰り返し変化し続けるのもバニラズの本領だが、その変化の先で、彼らは彼らにしか生み出せない「王道」もしっかりとその手に握りしめている。これがgo!go!vanillas、僕らの時代のロックンロールだ。
なお、11月29日発売の『ROCKIN'ON JAPAN』1月号では、さらに多くの撮り下ろし写真も加えた本インタビューの完全版を掲載。そちらもぜひお楽しみに。
インタビュー=小川智宏 撮影=TAK SUGITA(Y’s C)
──『Lab.』、これはすごいアルバムができました!ゼロから自分を組み立て直しながら、そこで出てきた分岐で、いつもは左に行ってたのを右に行ってみる、みたいな。それを細かいレベルでやっていったあみだくじの先に、このアルバムはある気がする(牧)
牧達弥(Vo・G) はい!
──(笑)。自分的にはどうですか?
牧 なんか、やり切ったなって。すごく満足感が強いアルバムになりましたね。レコーディングするギリギリまで、なんなら録りながらもずっと最適解を探しながらやったので。それは今までなかったんですよ。常に曲に対してのベストを模索しながら最後まで進んで、結果10曲ともいい形で落とし込めたというのが、すごく達成感があった。なんかもう無我夢中って感じでしたね。
──タイトルからもわかる通り、間違いなく実験という側面もあるんだけど、でもすごく自然にできた感じがするし、風通しがいいし、とても不思議な感触があるアルバムになった気がする。
牧 うん、そうですね。
長谷川プリティ敬祐(B) 牧は常に試行錯誤をしてましたけどね。昨日まで入ってなかった音が今日は入っていたり、ベースを録るときに「あれ? フレーズが変わってる」という驚きもありましたし。
──それぐらいギリギリまで細部を作っていったんですね。
柳沢進太郎(G) それゆえに引き算みたいなのをめっちゃ意識してやったんだろうなっていうのはすごい感じますね。牧さんがDTMで作り始めるようになってから、アディショナルでいろいろ入ってくる音をどう混ぜていくんだろう、みたいなのを横から見てきて。「これ、このまま共存できるんだ!」みたいなすごさもよくわかったんですけど、今回は特に、いろいろ試した中で珠玉のものだけを残していくみたいなことが結構多かったんです。ギターも、いろいろ試したけどごっそりなくなったやつもあったりして。「バッキングだけのほうがよかったわ」みたいな。それによって音楽的パワーがより強くなった気はします。本当に聴き応えが十分すぎるなあって、日々聴きながら思ってますね。
──セイヤはどう?
ジェットセイヤ(Dr) 手応えはめっちゃあります。今の記録というか。今回全部牧が作ったので、なんか小説読んでるみたいな気持ちになります。テーマとかも違うし、勉強になります。あと、日本人しか書けない歌詞かなって思いますね。今、YouTubeとかで出すときに翻訳とか作ってもらうんですけど、やっぱり微妙な日本語のニュアンスが英語になるとシンプルになるので。そこが日本の良さというか。
牧 翻訳家の人、めちゃくちゃ大変って言ってた(笑)。
セイヤ でもレコーディング自体はイギリスで録ったものもあったりするし、すべてが融合した、すごいハイブリッドなものになったなって。
──そうだね。だから洋楽的とも邦楽的とも違うバランスというか。バニラズはそれをずっと目指してきたと思うけど、バニラズなりのバランスがいよいよ確立した感じがあるよね。そもそも、このアルバムはどういうところから始まっていったんですか?
牧 イギリスで出会ったエンジニアとかもそうだし、向こうにいるイージー・ライフ──今はハード・ライフになりましたけど──のマレー(・マトレーヴァーズ)のスタジオに行ったりして話をする中で、音楽って選択肢が無限だから、バンドっていう括りはいっそ無視して行けるところまで行くべきだなっていうのをすごく感じたんですよね。そうやって頭の中に浮かんだものをいろんな縛りから解放して、「やっちゃっていいんじゃない?」みたいなことを常々繰り返して。もう1回ゼロから自分を組み立て直しながら、そこで出てきた分岐で、いつもは左に行ってたのを右に行ってみるみたいなのを細かいレベルでやっていった、あみだくじというか。その先にこのアルバムはある気がする。
──そのあみだくじのゴールははっきり見えていたんですか? それとも「どこ行くんだろう」っていう楽しみもあった?
牧 も、ありましたね。だから、制作の最初と後半で、たとえば最後のほうに作った曲、“Super Star Child”とかはマインドがまったく違いましたし、“Moonshine”はもともとあった曲なんですけど、後半になってやっぱりここに入れたいなと思ったり。そういう心境の変化は結構ありました。
──なるほど、面白い。“クロスロオオオード”と“Super Star Child”や“Moonshine”って、音楽のスタイル的には繋がっている感じがするけど、実際はその間に全然違うスタイルの曲がたくさんあって。まさにあみだくじ的に全然違う道筋を辿っているわけじゃないですか。そうやって回り道しながらそこに辿り着くという。
牧 うん、そうっすねえ。
長谷川 “クロスロオオオード”は歌詞が超面白い。今パッと思い出したけど、この歌詞ができたとき、マネージャーに車に乗せてもらって移動しながら「この歌詞の好きなところを言っていい?」って話してたんですよ。この曲、最初に《耳をかっぽじってよく聞け。》って悪魔が言うんですけど、最後に青年のほうがその同じ言葉を返すっていうのが僕はすごく好きで。
牧 お目が高い(笑)。
──これはブルースミュージシャンのロバート・ジョンソンが、十字路で悪魔と取引をしたっていう有名な伝説を下敷きにしているわけだけど──。
牧 それを天邪鬼というか、アンチテーゼとして。
──そう、悪魔と取引しない、俺は俺だからっていうことだよね。そこに意志があるよね。
牧 そこが分岐というか、自分がいつも行くほうの逆を行くっていう。クラシックからの脱却じゃないですけど。まあ、ロバート・ジョンソンとか、たぶんわからない人もいると思うんですよ。でも、意味がわからなくても、なぜこんなに濃い物語が作れるんだろうかと言ったら、もともとそういう歴史というか逸話があるっていうところに繋がっていくわけで。僕が好きな漫画とかもそうなんですよね。オマージュというか、下地があって、それを今の時代にアップデートさせてるから強い、みたいなところが。バニラズにとってすごい重要なところで。ただ「クラシックロック好きなんだよ」ってやってたら、それはまあ、そういう人はいっぱいいるんで、じゃあ僕らだったらどうするか、みたいなところを考えたうえでできたから、この曲が最初にできたのはすごく納得というか。レーベルも移籍して事務所も独立してっていう過渡期の中での自分たちが、すごく描かれてるのかなって思う。