【インタビュー】斉藤壮馬はなぜ「虚構と現実」の狭間で音楽を鳴らすのか? 待望の3rdフルアルバム『Fictions』の全貌を語り尽くす!

【インタビュー】斉藤壮馬はなぜ「虚構と現実」の狭間で音楽を鳴らすのか? 待望の3rdフルアルバム『Fictions』の全貌を語り尽くす! - photo by Kazushi Hamanophoto by Kazushi Hamano

今回せっかくフルアルバムを作るのならいろいろなことをしてみたいと思って、そのうちのひとつが「コライトをしてみたい」ということでした

──細かい話なのですが、“ヒラエス”のMVの中で少女がジャック・ラカンの『精神分析の四基本概念』を読んでいました。あれは斉藤さんからの指定だったんですか?

僕が指定したわけではないんですが、「ジャック・ラカン」というワードはイメージを説明するときに出していたので、それを拾っていただいたのだと思います。この曲、もともとの曲名が「対象a(たいしょうアー)」(※ラカンが精神分析理論で用いた概念で「欲望の原因」を意味する用語)だったんです。その名残が《空を切るQはA》という歌詞に残っているんですけどね。別にそんなに厳密に「対象a」について語っていたわけではないんですが、その「欲望」というのを完成版の歌詞では「眼差し」的な言い方に変えてるんですね。だからMVでのあのシーンは、監督が細部まで汲んでくださってるんだなと嬉しかったです。映像チームの仕事ぶりがすごく丁寧だったのでありがたいなと思いました。

──次の“ノクチルカ”は「夜行虫」という意味の言葉がタイトルで、作詞が斉藤さん、作曲と編曲がSakuさんという、ちょっと珍しい成り立ちの楽曲ですね。

今回せっかくフルアルバムを作るのならいろいろなことをしてみたいと思って、そのうちのひとつが「コライトをしてみたい」ということでした。まず自分が誰かと一緒に楽曲を作るなら、ずっと自分の楽曲を見てくれているSakuさんにお願いしたいと思っていたんです。この曲を作るにあたっては、Sakuさんには一切オーダーをしなかったんですよ。「なんでもいいので、Sakuさんなら斉藤壮馬にこういう曲を書く、というのが欲しいです」と、結構わがままなお願いをして。そしたらSakuさんが、「いろいろ悩んだんだけど、結局は自分がいちばん好きな曲がいいと思ったので、素直に自分の好きなものを詰め込んだ曲を送ります」と言って、もうほぼアレンジもできたものを送ってくれて。Sakuさんの楽曲って非常にメロウな部分と、キャッチーさと、美しいストリングス使いが印象的で、さらに壮大な雰囲気もある。確かに僕自身もSakuさんのこういう感性が好きだと思う楽曲をいただけました。この曲が好きだと言ってくれる人も多くて嬉しいですね。僕が作詞だけをして作曲とアレンジをSakuさんにしていただいたことで、もっといろんな音楽の作り方が試せそうだなと思えたし、次回以降の制作にすごく広がりを感じられました。

──こういうメロディアスな感じは、これまでの斉藤さんの楽曲にまったくなかったわけではないけれど、このドラマチックなニュアンスの歌唱はちょっと新鮮でした。

そうですよね。本当に素晴らしい曲をもらえて嬉しいなと思います。

──そこからの“共犯者”、“Riot!”という振れ幅もなかなか面白いですよね。特に“Riot!”の振り切れたギターサウンドには驚きました。

“Riot!”はアレンジがKYOTOU-Oさん。KYOTOU-Oさんは以前は別名義でしたけど、“蠅の王”という曲もアレンジしてくれていて。KYOTOU-Oさんの音楽はすごく洋楽的なテイストを持っているんですよね。でもこの曲の最初のアレンジはもうちょっと日本寄りなテイストでした。僕もはじめはそれぐらいのほうが他の曲と馴染むかもしれないなと思ってたんですけど、他の曲の制作を進めていくうちに、逆にこの曲はもっと振り切って、いなたい感じにしてしまったほうが思い切りがいいんじゃなかろうかと。それで再考してもらって現在の形に。僕もわりと90年代っぽいイメージで、仮歌も適当な英語で歌っていたために、英語が合うようなメロディになってしまっていて、日本語の歌詞が全然ハマらず、レコーディングの2日前ぐらいまで歌詞が書けなかったんですよ。

──そうなんですね。でも衝動でわーっと書いた感じもあります。

はい。結局そうなったという(笑)。書き始めたら1時間ぐらいで書けたんですよね。別の曲のレコーディングの帰り、タクシーに乗った瞬間にめちゃくちゃなゲリラ豪雨に見舞われてしまって。家に近づくにつれ雨脚が強まっていって、なんだか密室の中にいるみたいだと思えて。じゃあそういう歌詞も面白いかもしれないなと思いついて。嵐の日って子供の頃、なぜかわくわくしましたよね。そんなイメージから書き上げました。なのでこの歌詞に関しては1ミリのひねりもないというか、読み解けばこういう裏の意味がありますみたいなことは一切ないっていう(笑)。

──いやもう《みりんのロックでどう?》でやられましたよ(笑)。

KYOTOU-Oさんにもこの歌詞を送ったら笑ってくれるかなって思ってたんですけど、「いや、笑えるんだけど、なんかすごくしんみりしてしまった」って(笑)。自分たちの学生時代を思い出すような気持ちになって、なんだか懐かしい気持ちになったと。

バンドでセッションして作るみたいなことは今後もやっていきたいなと思いつつ、今度は完全にひとりで打ち込んだやつとかも少し視野に入れていきたいです。気が早いですけど(笑)

【インタビュー】斉藤壮馬はなぜ「虚構と現実」の狭間で音楽を鳴らすのか? 待望の3rdフルアルバム『Fictions』の全貌を語り尽くす! - photo by Kazushi Hamanophoto by Kazushi Hamano
──続く“mm”はミドルスローのちょっと内省的な楽曲で、“Riot!”からの落差がまたすごいですね。

そうですね。これは“Riot!”とは真逆で、あまり自分から言うことでもないんですけど、実は普通に聴いただけではわからない、あることについて歌ってます。

──斉藤さんはときどきそういうのを入れてくるから(笑)。

はい(笑)。これはでもさすがにわからないと思います。ちょっとなんていうのかな。失恋ソングみたいな感じで書いたんですけど、それとは関係ないというか。これはまだ内緒にしておくので、皆さんにどういう曲なのか探ってみてほしいですね。曲としては真面目な雰囲気に聴こえるんですけどユーモアが入っていて、それがさっきも言ったような「虚構と現実」とか、相反する要素が入り混じる「矛盾」を表現していたりもします。

──この曲は聴いたときに、ハッピーなのかアンハッピーなのかわからない感じがして、不思議な魅力があったんですよ。なるほど合点がいきました(笑)。そして次の“雨の庭”はドビュッシーへのオマージュですか?

そうですね。でもオマージュというよりは、「雨の庭」という単語から自分が思い描いた光景みたいなものがモチーフになっています。高校生のときに選択制の授業があって、僕は音楽を取って普通に授業の一環として音楽を履修していただけなんですけど、同じクラスの女の子で音大を目指している子がいて。授業の中で彼女のピアノを聴いて感想を言うという機会があって、ある日その彼女がドビュッシーの“雨の庭”を演奏していたんですよね。で、そのとき聴いた音とまるで関係ないんだけれども、そこから想起した光景みたいなものがずっと自分の記憶の中に残っていて。それをもとに書き進めました。個人的にもすごくお気に入りの曲で、このフルアルバムを制作してた季節は雨が多い時期だったこともあり、そういう部分も盛り込めたかなと思っています。あとこれは余談ですが、この曲は2ndアルバムの隠しトラックに“逢瀬”という曲があるんですけど、その曲の別視点みたいなイメージで書いています。だからどうということはないですけど、あの世の手前にある場所みたいな、いわゆる「in limbo」っていうか、あの世とこの世の狭間のような場所にいるイメージなんですね。だから晴れているけど雨が降っている庭、そういう光景のイメージです。

──一瞬の刹那と永遠とが同義で語られているような不思議な魅力を放つ曲でした。

ありがとうございます。

──アルバムの最後は“ベントラー”。これは地球外生物への呼びかけの言葉。子供の頃誰もが一度は口にしたことがあるような。あの頃の無垢でピュアな気持ちを思い出しました。本当にUFOが来るんじゃないかと信じてた自分が、今はそれを笑い話にしかできないというのが少し切なくて。

テーマ的には“ヒラエス”と近いんです。曲自体は“べントラー”のほうが先にワンコーラスできてたんですけど、先に“ヒラエス”が完成したので、“ベントラー”はまた次の機会でもいいかなと思ってたんです。でも制作の終盤であとアルバムに2曲くらい欲しいとなったとき、さすがに新たな曲を書いている時間がないということで、この曲も入れることにしました。それが結果的にすごくこのアルバムのラストにふさわしい曲になって、これもとても気に入っています。本来であれば“(Fake)Flowers”で終わったほうがアルバム的には大団円だと思うんですけど、やっぱりどこかひねくれていたいというのがあって(笑)。この曲が作れてよかったです。

──今回は合宿の成果もあって、非常に多彩なバンドサウンドでアルバムが完成したわけですが、また合宿での制作はやりたいと思いますか?

またやりたいです。合宿と言わないまでも、バンドでセッションして作るみたいなことは今後もやっていきたいなと思いつつ、今度は完全にひとりで打ち込んだやつとかも少し視野に入れていきたいです。気が早いですけど(笑)。いつもは一旦制作が落ち着くとしばらく音楽は休もうかというモードになるんですけど、今回はフルアルバムからこぼれ落ちたものが結構あったので、それはそれでたとえばBトラック集とかデモ集みたいなものを出すのも面白そうだなとか。『Fictions』は制作を通して今後やりたいことが増えたような、そんなアルバムにもなりました。

──このアルバムを引っ提げてのツアーも始まりますよね。新曲たちがどんなふうに披露されるのか、そちらも楽しみにしています。

ありがとうございます。もっともっとグルーヴを高め合えるように頑張って練習します(笑)。

次のページリリース・ツアー情報
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする