“五つ目の季節”は、ダイナミックなサウンドの中にアンビバレントな感情を捉えている。理想に手を触れたいと足搔く焦燥と、「もう何も取り戻すことはできない」という諦念。それらが混ざり合うことで、美しく、泥臭く、「生きろ」というメッセージを発している。バンドが新たな季節へ足を踏み入れていることを実感させる1曲である。今彼らはどこに向かおうとしているのか。その目に映るものをナカシマ(Vo・ G)に問うた。
なお、2024年2月29日発売のJAPANには、このインタビューの完全版を掲載。おいしくるメロンパンというバンドの表現の核心が語られたインタビューになっているので、そちらもぜひ読んでほしい。
インタビュー=天野史彬 撮影=武井宏員
「頑張っていこうぜ」はないけど、「生きていこうぜ」みたいな気持ちはあります
──先日のLINE CUBE SHIBUYAでの初のホールワンマン、バンドの立ち姿もストイックで美しかったし、セットリストの流れも素晴らしいライブでした。会場には制服姿の若いお客さんもたくさんいましたが、もしナカシマさんが中高生の頃においしくるメロンパンが目の前に現れていたとしたら、どう接していたと思います?
ええ?……まあ、好きになっていたと思いますけど、さすがに。自分がいいと思ってやっている音楽なので。でも……難しいですね。想像できない。
──ミュージシャンによっては、10代の頃の自分に向けて音楽を作っているような人もいますよね。
なるほど。僕は、それはあまりなさそうですね。「学生だから響く」という感じより、その感性を持った人だったら学生でも大人でも響く。そういうものなのかなと思います。
──LINE CUBE SHIBUYAで『answer』のツアーも終わりましたが、『answer』はナカシマさんに何をもたらした作品だったのか、ライブを経て改めて感じたことはありますか?
ずっと自分の内側に向かって音楽をやっていましたけど、それを変えてみようと思って、この数年は「お客さんに音楽を届けるってどういうことなんだろう?」ということにフォーカスを当てて活動してきて。そのひとつの答えになる作品になったんじゃないかと思います、『answer』は。自分がやりたいことと、お客さんに対して自分がやりたいことの着地点、そのバランスの取れたところに『answer』で辿り着けたんじゃないかって。お客さんの反応も、自分が投げたものに対して返してくれている感じがしたし、自分で聴いても心地いい作品なんですよね。
──「お客さんに音楽を届けるってどういうことなのか?」という問いに対してナカシマさんが現時点で出した答えとして、言語化できるものはありますか?
「引っ張ってあげる」みたいな感覚はあります。「こうだよ」と言っている感覚というか。前までは突き放している感覚があったけど、今は自分の世界に手を引いて入れてあげている。そういう感覚がある。
──「引っ張ってあげる」といってもきっと、おいしくるメロンパンの場合は「頑張っていこうぜ」的な扇動とも少し質感は違いそうですよね。
そうですね。でも「頑張っていこうぜ」はないけど、「生きていこうぜ」みたいな気持ちはあります。僕はずっと逃避的な感じで音楽を聴いてきたんですよ。音楽を聴いている時は現実から離れられるし、その間は辛いことも忘れられる。そう感じさせてくれるものの存在があることで、生きていける……ちょっと大袈裟だけど、そういうものはあると思っていて。自分もそんな存在になれたらいいなと思うんです」
──「頑張っていこうぜ」ではなく「生きていこうぜ」って、いいですね。
僕自身「頑張っていこうぜ」と言われるのは好きじゃないです(笑)。でも「生きていこうぜ」に対しては「そうだよな」と思うから。
何かが足りなくて、でも、お腹が減っているのとは違う。喉が渇いている時の感覚に近いものを、ずっと感じている気がするんです
──創作活動をしながら生きていくことは、ナカシマさんに何をもたらしていますか?
作ってみて初めて自分に対して気づくことってあるんです。作業をする段階で、自分と向き合うことが絶対に必要になってくるので。それが何度も何度も繰り返されることで、ちょっとずつ自分のことも知ることができていくなと思います。「自分はこういうことを考えていたのか」と思うし、昔の曲を振り返って『この時こういうことを考えていたのか』と思うこともあるし。
──『answer』という作品で発見した自分自身もありましたか?
……意外と、温かいやつなんだなと思いました。
──なるほど(笑)。
いや違うな(笑)。温かいやつというか……意外とみんなでわいわいするのも好きなんだなっていう感じというか……いや、わいわいもちょっと違うかな(笑)。“波打ち際のマーチ”は、明言しているわけではないけど、今まで自分たちが歩んできた道のりと、お客さんとの関係について書きたいなと思って書いた歌詞なんです。あの曲を書いた時は、お客さんに対して「一緒に歩んでほしい」とか「連れていきたい」という気持ちが僕の中にあるんだなということに気づけました。
──5月に新作ミニアルバム『eyes』がリリースされることも発表されました。まだ内容は聴けていないですが、新作の『eyes』というタイトルを見た時に、質感がいちばん近いのは1stミニアルバムの『thirsty』だなと思ったんです。人間の肉体や実感、主体性を感じさせるタイトルだなと思って。逆に、ここ最近はどちらかというと空間や社会、概念みたいなものを捉えているタイトルが多かったなと思う。そう考えると、循環して、またテーマ性や向き合うものが初期と近くなっているのかな、という気もして。
それはありそうですけど……ハッキリとはわからないです。でも、言われてみれば、そうだなという感じがします。
──今改めて振り返って、『thirsty』というタイトルは何を表していたのだと思いますか?
今でも『thirsty』という言葉はおいしくるメロンパンっぽいなと思うんですよね。『thirsty』の時の初期衝動はずっと続いているのかなと思う。何かが足りなくて、でも、お腹が減っているのとは違う。そういう感覚がずっとある。喉が渇いている時の感覚に近いものを、ずっと感じている気がするんですよね。それがなんなのかはわからないですけど、作品の登場人物も同じような感覚でいて、それを満たすために行動している感じがします。