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    【インタビュー】GLIM SPANKYは今も蒼い風の中に立つ――新作『The Goldmine』で示した、鈍色の時代の「ロックの愛と希望」

    【インタビュー】GLIM SPANKYは今も蒼い風の中に立つ――新作『The Goldmine』で示した、鈍色の時代の「ロックの愛と希望」

    自分の周りに5000枚ぐらい殻があったとしたら、今は……1000枚ぐらい破れたかな?みたいな気がします(松尾)

    ――そういう曲ごとのテーマが、冒頭の“The Goldmine”、「金脈はみんなの中にある」という1曲によって有機的に繋がり合って意味を持っていく構造になっていますよね。「ロックは愛と希望だ」というのは、松尾さんもずっとおっしゃっていますけど――。

    松尾 そうですね、ずーっと言ってます(笑)。

    ――「ロックは愛と希望だ」というのを大上段のメッセージとして掲げるというよりは、それをいろんな場面や感情に寄り添いながら描くことで、結果として愛と希望のロックが浮き彫りになっていく、というアルバムに感じました。

    松尾 そうですね。“The Goldmine”もそうなんですけど、やっぱり「『何をやりたいか』がわからない世の中」を大前提として、すべての歌詞ができている感じはします。「何をしたらいいかわからない」人に寄り添ったうえで、ロックソングとしては「信じられないくらい大きなことを言う」のも大事だと思うんですよ。“Innocent Eyes”もそうで、《どこまでも透明な僕たちは 教科書通りなんて進めない》みたいな大きなことをサビで歌うけれど、最初のAメロでは心に寄り添ったことを細やかに言うことで、一気に距離感が縮まるというか。

    ――“Innocent Eyes”のそういう蒼く尖った心情を、それこそコールドプレイにも通じるような、雄大な風に吹かれているようなサウンドに乗せたのも、今作ならではの気分なんでしょうね。

    松尾 そうですね。“光の車輪”とか“Innocent Eyes”みたいな、風の吹く曲――しかも常に止まっていない、聴いている間ずっと風が吹き続けているような曲って、もしかしたら今までなかったかもしれないです。「駆け抜けていく曲」はあったかもしれないけど。自分たちはまだまだ「出発前」というか、「何もない荒野に立ち向かっていく」みたいな気持ちが、自分の中にはすごくあったので。

    ――そして、最後は“怒りをくれよ”のリミックスで締めるという。

    松尾 これはもう、ライブでは必ずやってきた曲ですからね。みんなが知ってる曲だからこそ、リミックスにした時の変化を楽しんでもらえるだろうと思って収録しました。他の人が参加してくれることで起きる化学反応を、今回はすごく楽しんでいた気がします。“怒りをくれよ”のリミックスのjon-YAKITORYさん、“Glitter Illusion”にアレンジで入ってもらったSoma Gendaくんとか……新しい風を取り入れたくて、精神的にもかなり開けた状態で作りました。


    ――前作では石川さゆりさんの“ウイスキーが、お好きでしょ”のカバーにも挑戦していましたし。孤立無援なストイシズムの拳は一旦下ろしていいかな、という感じはありますよね。

    亀本 俺はもともとそんなになかったけどね。

    松尾 そうね。でも結構、私は厚い壁があって――。

    亀本 ってことは、松尾さんはほんとに孤立無援で闘ってたんだね。僕、そういう感覚ないから(笑)。

    松尾 自分の周りに5000枚ぐらい殻があったとしたら、今は……1000枚ぐらい破れたかな?みたいな気がします。

    亀本 (笑)。

    松尾 それでも自分ではすごく変化したつもりなんです(笑)。自分の壁を取り払って、もうちょっと広い視点で自分の曲を見ることによって、「ちゃんと届いてるんだな」っていう実感が、少しずつ自信になってきています。「遅っ!」っていう感じですけど(笑)。

    現在進行形で噛み締め続けている気持ちがセピア色にならないように、新鮮なままいたい――ずっとそういう精神で生きてます(松尾)

    ――“怒りをくれよ”とともにGLIM SPANKYが大事にしてきた曲として“大人になったら”があって。rockinon.comの「2015年のこの1曲」を挙げるという新春特別コラムで、僕は“大人になったら”について書かせていただいたんですけども――。

    【新春特別コラム】ライターが選ぶ2015年、この1曲!~高橋智樹編~
    今回、RO69ライターに、2015年を振り返って“この1曲”を選んでもらいました! ライター高橋智樹が選ぶ「2015年この1曲」はGLIM SPANKY “大人になったら”。 昨年春に配信リリースされ、アルバム『SUNRISE JOURNEY』にも収録されました。 -------…
    【新春特別コラム】ライターが選ぶ2015年、この1曲!~高橋智樹編~

    松尾・亀本 ありがとうございます。

    ――この間の「Velvet Theater」東京公演でこの曲を聴いて、楽曲を作った当時の蒼い気持ちだけじゃない、キャリアを重ねた「今」の強さ、さらに今の時代を生きる報われない若い世代への想いが、“大人になったら”をさらに豊かにしている感覚がありました。ご自身としてはどうですか?

    亀本 まあ、「若者の反骨心」みたいな年齢でもなくなってきてるもんね、普通にね。

    松尾 そうねえ……。

    亀本 そうでしょ!(笑)。

    松尾 うーん……それがさ、あんまりわからないかもしれない。自分の中では、高校の頃に感じてた気持ちとか、デビュー当時に感じてた気持ちを忘れたくない、って思って生きてるところがあって。

    亀本 そう思ってることが、大人になったってことじゃないの?

    松尾 でもね、それが不思議なところで……。中学3年生の頃から――めちゃめちゃ夕陽がきれいな日に友達と下校しながら、「私たちは今、こうやって制服を着て『空がきれいだねえ』とか言ってるけど、何年も経って大人になって、美化された記憶を思い出して『あの頃はよかったね』って言いたくないよね」って話したりしてたんですよ。現在進行形で噛み締め続けている気持ちがセピア色にならないように、ずっと新鮮なままいたい、っていう気持ちは昔からあったし、ずっとそういう精神で生きてます。曲を作る時もそういう気持ちが大事だなって思っていて。溢れる気持ちを書くことで魂のこもった曲になるし、自分のリアルな気持ちであることが大事だから。デビュー当時の気持ちは忘れてないような気がするんだよなあ。

    ――なるほど。闘いの旗を掲げっ放しではないけど、それは闘い方が変わっただけで、何ひとつ諦めてないしレイドバックもしてない、っていうことがよくわかりました。

    松尾 そんな気がします。武器が増えたっていうか、引き出しが増えた感じです。

    ――このアルバムを携えての「The Goldmine Tour 2024」も控えてますが、ツアーに向けての気持ちはどうですか?

    松尾 ここまで細かく全国を回るのは4年ぶりぐらいなんですけど、「デビューからのスタート」くらいの気持ちでいます。今回のアルバムをメインにしたツアーですけど、バラエティ豊かなライブにしたいなと思っていますし、ここから仲間を増やしていこうと思っています。

    亀本 今年、松尾さんが体調を崩したりもあって。30代になって、20代の頃みたいに体が動かないんですよ(笑)。だから、より体調管理とか、自分の体のギアを上げていく取り組みをしなきゃいけないなと思ってます。プラス、ライブのパフォーマンスも――派手なステージングのバンドにしていきたいんです。ザ・ローリング・ストーンズのライブが超好きで、ビデオとかめっちゃ観てるんですけど、ロックって、ライブのかっこよさを出したほうが絶対によくて。30代になって今さらだけど、ロックのフィジカル面を押し出せるバンドにしていきたいし、今回のツアーでもそこを高めていきたいと思っています。

    松尾 ……ちゃんと曲が映えるパフォーマンスにしてね?

    亀本 当たり前だよ!(笑)。ストーンズだってそうなんだから!

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