ビッフィ・クライロは日英のポピュラリティ格差が延々と懸案となっているバンドだが、この新作によって少しでもその溝が埋まることを祈らずにはいられない。それほどの傑作である。グラスゴーの一介のインディ・バンドからスタートした彼らが前作『パズル』で遂げた大ブレイクが偶然ではなかったことを証明する、極めて普遍的な作品である。ちなみにビッフィの立ち位置、つまりNMEとケラングのどちらの派閥にも軸足を置くことなく、しかしそのどちらの派にも「特例」として賞賛される異端の有様に最も近いのはミューズだろう。共に3ピース、破格の音圧とテンションを鍛え上げていくアプローチも似ている。ただしこの両者が鳴らす実際の音は全く違って、ハードコアを根底に持つビッフィ・サウンドの魅力は脳内宇宙に端を発するドラマツルギーではなく、剛健かつ筋肉質な肉体が生む日常のドラマツルギーとでも言えそうなものだ。プロデューサーは前作同様にレイジやレッチリも手がけるガース・リチャードソンで、ジョシュ・オムも参加。しかもホーンやストリングスの指揮を執っているのはベックの父デヴィッド・キャンベルと豪華ブレーンが集合。オーケストラを導入すると得てして壮大かつ優雅なサウンドスケープを描きたくなるのがUKバンドの常套だが、彼らの場合はゴリゴリと徹底してソリッド、ちゃんとビッフィがやるべき理にかなったものになっているのが流石。雰囲気に流されることが一切ない、実存的な進化の一枚だ。彼らが異端でも特例でもなく、破格なのだと理解される日もそう遠くはないんじゃないかな。(粉川しの)