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生きることは選ぶことであり、選ぶことは失うことである。曲がり角を曲がれば前に見た景色は見えなくなる。それでも私たちはその角を曲がらなければいけない。そうしなければ進むことができない。米津玄師はこのアルバムで、生きることに根づく「選択」と「喪失」を見つめる。選んだものの意味を知り、失ったものの不在を刻もうとする。アルバムの中で何度も《さよなら》と歌われるが、それは感傷の蜜を吸うためではなく、毎日を懸命につないでいくための言葉のように思える。たとえ輝く未来が見えなくとも、夜を越え、朝を迎える決意の言葉としての、《さよなら》。終盤、“地球儀”に続く表題曲“LOST CORNER”で歌われる《マイフレンド》という言葉に『君たちはどう生きるか』の主人公・眞人の眼差しが重なる。この音楽はあなたと友達になりたいのだ。全20曲、長大だが大袈裟ではなく、作り手のリアルな息遣いと体温が伝わる。時に荒くもなり、時に落ち着く。その息遣いの「生きている」感が、じんわりと胸を打つ。(天野史彬)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年10月号より抜粋)
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