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ふるさとは、必ずしも素敵な場所ではない。「捨て去りたい」という感情を呼び起こすことすらあるし、やり直したい出来事、理想と現実との間にあるギャップを執拗に思い出させる存在にもなり得る。このような場所について描いている今作。先行配信された“笑い話”はとても穏やかな風味だが、故郷が帯びている複雑な側面も示す。差し伸べられた温かな想いを払いのけたことへの後悔と向き合い、それをいつか笑い話にしたいと歌う姿が生々しい。まっすぐなトーンの声質であるからこそ焦燥感を浮き彫りにする“がらくた”、過去の自分に語りかけながら未来を見つめる“花詩”、故郷への特別な想いをひたすら滲ませている“I’m home”……他の3曲も、Tani Yuukiを形成した特別な場所について歌っている。アイデンティティの源と向き合ったのは、彼の創作と表現を支える土台の確認でもあるのだと思う。シンガーソングライターとしてさらに進化する決意として受け止められるのも、今作を聴きながら噛み締められる大きな喜びだ。(田中大)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年6月号より抜粋)
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