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なんて切実で誠実な歌だろう。すべての人の生きづらさや悲しみに寄り添うように稲生司(Vo・G)の歌声が響く。稲生は2022年突然の体調不良に陥り、もう歌えないのではないかという絶望に直面した。その苦悩を越えて生まれた楽曲たちがこのアルバムには詰め込まれている。再出発のきっかけとなった“無重力”、その後の“I Love me”、そして“克己心”は絶望から抜け出すプロセスを歌詞にも込めながら、気づけばそれが困難な時代を生きるリスナー一人ひとりに向けてのメッセージとなっていた。そして今作冒頭の“涙の行方”では《君にあげられる優しさくらいは/腐らないようにずっと持っているんだ》と歌い、今こそこの音楽を届けるのだという強い意思が滲む。終盤の“Chaplin”はより直接的だ。《君が自分で自分を/殺そうとしてしまいそうな夜に/死ぬには惜しいと/とどまれるほどの何かを作るよ》。これは、稲生の「音楽とともに生きる」覚悟。その思いを体現するように響くまばゆいバンドサウンドも素晴らしい。(杉浦美恵)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年3月号より抜粋)
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