2019年には、久しぶりの来日公演で日本のファンを狂喜乱舞させてくれたブライアン・フェリー。最新ライブ盤となる本作は、昨年3月11&13日(ロックダウン直前のギリのタイミング!)に、英国ロイヤル・アルバート・ホールで行われた公演の内、11日の模様を収録したものだ。
本作の一番おススメの楽しみ方は、ただただ「うっとり酔いしれること」である。はっきり言って、75歳の今のフェリーの歌声に、かつての艶やかな色気はない。しかし、彼の音楽世界のコアを成す「恋多きカサノヴァ/プレイボーイたち」の物語は、「老い」という名の年輪を重ねた今、いい意味での「哀愁」を帯びてきたと思う。春や夏の若く燃える恋もいい。でも、秋には秋の、冬には冬の「理想郷=アヴァロン」があるのだ。
今回のライブは、演奏曲のチョイスも面白い。ロキシー・ミュージック時代の曲(全18曲中の12曲)を中心に、フェリーのほぼ全キャリアを網羅したセットリストなのだけど、ベスト盤に必ず入る有名曲がけっこう漏れた一方、これまでめったに歌わなかったレア曲が何曲も選ばれている(“ザ・ボーガス・マン”とか、あとは……“パジャマラマ”だとぉ!?)。
と言っても、決して奇をてらった演出とかではなく、どの曲も、ライブ全体の淀みない流れの中で、何の違和感もなくハマっている。特に中盤から後半にかけての展開は圧巻で“ヒロシマ・モン・アムール”からのボブ・ディランのカバー(2曲連続で!)からの“アヴァロン”、そしてラストは初期ロキシーの名曲3連発!……と来れば、もちろん場内の熱狂も最高潮に。
ツアーの一日も早い再開を心から願いつつ、ひとまず今夜は、ビンテージの赤ワインとこのライブ盤で、うっとり酔いしれよう、モン・アムール。(内瀬戸久司)
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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