#MeToo運動に先駆けるようにして5年前にケシャの周辺で起きたことを、ここでは細かく振り返らないでおこう。裁判はまだ続いているし、事件の真相は知る由がないのだから。とにかく何かただならぬことが起き、17年発表の『レインボー』で彼女は一旦心の整理をつけた。内省を極めて、カントリーや古典的ロックに根差した、自分の原点に立ち返るサウンドを鳴らして。そして見事に、ダンス・ポップを歌うパーティー・ガールのイメージを払拭するに至ったことは、ご承知の通りだ。
そんな前作がもたらしたカタルシスと音楽的評価にインスパイアされたケシャは、ここに早くも4作目を完成。しかもバラード風のイントロで「前作の延長なのね」と思い込ませた瞬間、エレクトロに切り替える。そう、今回の彼女は改めてポップと向き合い、ボーイズとパーティーと愛と人生を歌うことを選んだ。
一口にポップと言っても、ウクレレに乗せてカントリー・ソングを披露したかと思えば、キャバレーあり、ニューオーリンズ・バウンスあり。スタージル・シンプソンとブライアン・ウィルソンを同じ曲にねじ込むという荒業も繰り出す。しかしこの自由気ままなアルバムは、随所で少なからぬ痛みを含んだ言葉にもスペースを割いており、あくまでパーソナル。かつ、可能な限り生楽器を用いたりして、単なる逆戻りではないことを印象付ける。時々羽目をハズしてはいるけど、これは今の自分だから作れるポップなのだ、と。
また、自然体でダイナミックな歌声は明らかに前作を踏まえたもの。初期の曲を聴くと、キャラを演じていたかのように感じられるから不思議だ。この脱力感、軽やかさ、遊び心。闘いは終わっていないが、こんなアルバムを作れたこと自体が、ひとつの勝利だと思う。(新谷洋子)
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