どこまでも前向きに、そして強気に

マキシム『ラヴ・モア』
発売中
ALBUM
マキシム ラヴ・モア

ザ・プロディジーのマキシムの実に14年ぶりのソロ新作。前作『フォールン・エンジェル』、あるいは00年のファースト『ヘルズ・キッチン』などは、いずれもプロディジーの活動が休止した時に制作されていて、つまり、ここ14年間はプロディジーとしての活動が基本的に充実していたということになる。では、今回の新作はいつ制作されていたのか。今回のアルバムの一貫したテーマ性から考えて、キース・フリントが3月にこの世を去り、プロディジーとしての活動がすべて棚上げになった後に制作されたものだと考えた方が妥当なのかもしれない。

内容はこれまでのマキシムの作風通り、最新のダンス・ミュージックの動向にイギリスのジャマイカ系としてのカリビアン・カルチャーを打ち出していくもの。当然ながらサウンドとしてはヒップホップとトラップ・ビートが主軸となっていて、Blaze Billionsらと自身によるプロデュースで、マキシムのどこまでもイギリス風な歯切れのいいMCがこのサウンドに乗っかって、ビートもMCもどこまでも軽快なものになっている。後半に進むほどカリビアン色が強くなっていて、それがこのアルバムの真骨頂なのだ。

マキシムならではのアーティスト性を感じさせるのはたとえば、女性ボーカルを前面に打ち出した“ルードボーイ”。ネタとしては非常にクラシカルなキーボード・リフを加工して、絶妙にレゲエ感を漂わせ、そこにどこまでもカリビアンなトーストを自身は背後で乗せ、やはりカリビアン歌唱でメイン・ボーカルを女性に委ねているところが心憎い。やさぐれな男子に対して、気にはなるけど撥ねつける女子の心情を歌った曲で、その機微が音にまで表れていて素晴らしい。

基本的に今度の作品の歌詞はすべてこうした、どのような状況であっても自分の気持ちを強く持たなければだめだというメッセージを込めたものになっていて“ルードボーイ”のほかにも“オン・アンド・オン”など、女性の視点からそんなアティテュードを訴える曲が際立っているのも特徴的だ。“アウトロー”などはまさにプロディジーのMCとして活躍してきた自分のことなのだろうし、どんなに自分が規格外な存在だったとしても、そのまま押し進んでいくしかないというメッセージになっている。ある意味でどこまでもわかりやすいものとなっていて、マキシムにとっての集大成といってもいいのかもしれない。これをキースに聴かせたかったのかどうかはまだわからないが、そんなメッセージ性に溢れた作品になっている。(高見展)



各視聴リンクはこちら

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

マキシム ラヴ・モア - 『rockin'on』2020年1月号『rockin'on』2020年1月号
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする