やった。このアルバムは最高だ。まず基礎情報として、本作は2020年公開予定の映画『デイズ・オブ・ザ・バグノルド・サマー』のオリジナル・サウンドトラック。2002年の『ストーリーテリング』が映画のサントラとして書き下ろしたものの、実際には映画にほぼ採用されず、ベルセバの作品としてまとめ直したものだったことを鑑みると、今回17年ぶりに正式にサントラを手掛けたというのはそれだけでも感慨深いものがある。そして、映画はティーンエイジャーの苦く酸っぱい青春を描いた内容とのことで、本作で鳴っている音楽はそのテーマに完璧にフィットしているように思える。すなわち、ソウルやディスコのエッセンスを取り入れ「ささやかなハイパー化」を果たしてきた近作とは趣を異にする、ヒリヒリとした痛みを伴う純度の高いインディ・ロックを基調とした初期のベルセバを彷彿とさせる音像になっているである。今年になって海外フェスで『天使のため息』の再現ライブをしたり、自ら主催した4日間にわたる地中海クルーズ・ツアーの中で『わたしのなかの悪魔』の再現ライブをしたりしてきたのは、そのリハーサルを含め、かつての感覚を取り戻す目的もあったのかもしれない。もちろん、曇天の下で昨日を呪い明日を睨みながらナーバスな日々を過ごす青春を誰より完璧に歌にしてきた初期の怜悧さに比べると、大人になった彼らならではの包容力や温かみは感じられる。それでも、「ベルセバに駄作無し」という恩恵を数年毎に享受しながらもデビュー作『タイガーミルク』を未だ最大の愛聴盤にしている自分のような聴き手にとって、本作は福音以外の何物でもないのだ。先述の再現ライブを知ったときは嫉妬に狂ったが、今はそれより本作を生で聴きたくて仕方がない。 (長瀬昇)
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