インスタレーションや映像版など、多彩に拡散した大作『ザ・シップ』の興奮もまださめやらぬところに早くもニュー・アルバムが届いた。前作では歌＋サウンドスケープという立体音楽のアイディアを探っていたが、こちらは自動生成（ジェネレイティヴ）を基盤にしたピュアなアンビエント。『サーズデイ・アフタヌーン』や『ネロリ』といった長い系譜に連なる「聴き手に思考を促す」音楽作品とのことで、「沈思／反省」という意味のタイトルも含め、曲解されたアンビエントとも言えるニュー・エイジ音楽～そのぬるく閉じた「今すぐ気持ちよくなりましょう、イヤなことは忘れよう」思考がはびこる昨今の世相に向け、アンビエントの本家が疑問を呈した1枚とも映る。それだけにトーンはダークで、優雅な音像の中に隠された様々なトゲにぶつかるたび、耳をそばだてさせられる。夢想ではなく現実に揺り戻される。

リリースのタイミングは1月1日の日曜日と、実にキリのいい始まりだ。“蛍の光”の喧騒を過ぎたところで、本作をループさせながら疑問符と感嘆符の連続だった2016年を改めて「振り返り熟考する」には格好のタイミングだと思う。（坂本麻里子）