簡単に原点回帰とか言えないのだが、気分としては確かに一度リセット、の意欲がみなぎっている。そのモードに入るには納得の条件がそろい過ぎてもいた。今年、デビュー25周年を迎えること、オリジナル・アルバムとしては通算10枚目、しかも自身のレーベル、ロキシー・レコーズの立ち上げ&レーベル移籍、とこれだけ大きな看板が立ち上がっては特別なものを作らないではいられないだろう。実際、かけたとたんの小細工なしドラムの響きに、まずその意欲が表れてるし、おまけにタイトルは“セックス”ときた。
アルバムは映画『ハンガー・ゲーム2』の撮影中に出てきた楽曲アイデアを、とにかくフレッシュなうちに自宅スタジオにもどりあれこれ考えることなく録ってみることから始まったというのだが、何よりもいいのはその勢いが、全編に流れていることだ。あえてコンセプトで練り込んだり、サウンドを作っていくことよりも、まず最初のエモーションが最優先。その意識が出ているのが、タイトルで“ニューヨーク・シティ”“アイム・ア・ビリーヴァー”“ハッピー・バースデイ”といったいかにも仮風なタイトルがそのまま活かされているところで、そんなことよりもまず曲を聴け、という気持ちの表れだろうし、“ニューヨーク・シティ”など、曲の背景と実際の音が混ざり合い最高。ただ本編最後にミラクルズの“ウー・ベイビー・ベイビー”で泣かせるのは反則。前作の『ブラック・アンド・ホワイト・アメリカ』もヴァラエティに富み充実していたが、登場時を思わせるつんのめるような勢いがある今作の方がより好きになりそうだ。(大鷹俊一)
25年目の心機一転、成功!
レニー・クラヴィッツ『ストラット』
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