キッスのフェアウェル・ツアーとなる「END OF THE ROAD WORLD TOUR」、東京ドーム公演を観た。湿っぽい感傷は皆無。理由だけなら拍子抜けするほど単純な話で、それはキッスのロック・ショウだからだ。恒例の煽り文句が響いて、“Detroit Rock City”の必殺のイントロが轟く。音玉が炸裂して、ファイアーボールが吹き上がる。ジーン・シモンズが炎を吹き血糊を吐いて、ポール・スタンレーが颯爽とオーディエンスの頭上を舞った。歓喜のための約束だけが次々に果たされるロック・ショウ。たとえ単純な理由だろうと、それを確実に遂行できるバンドはキッスしかいない。信じられないくらいに美しい光景だった。
今年、めでたく古希を迎えたジーンは、キッスにおける体力面の負担(あのゴツい甲冑を着て、ベースを振り回し歌っているのだ)から引退を明言している。しかし、これから引退しようとするバンドが、世界中のKISSアーミー(ファン)に会って回ろうと、今年だけで100本近くのツアー日程をこなし、年明けからも80本以上がスケジュールされている(ジーンとポールの健康上の理由でキャンセルとなった公演の振替もあるだろうし、さらに増える可能性もある)のだから、「体力の限界」の意味が違う。世界を飛び回るのも、引退を決意するのも、「キッスだから」なのである。
アンコールでは、サプライズ・ゲストとして招かれたYOSHIKI(X JAPAN)のピアノ伴奏にエリック・シンガーがハンド・マイクで寄り添い、“Beth”を披露した。日米のロック・ドラマーふたりによる、美しくもユニークな共演。ロックの本質とは「驚き」だ。どれだけ聖人のようなメッセージを投げかけても、音楽理論的に高度であっても、それが「驚き」として正しく伝わらなければ意味がない。「驚き」とは現実を越える手がかりそのものである。キッスはまさに、それを体現してきたバンドだ。鉄板セットリストの、お約束だらけの伝統芸能のようなライブ? まあ一面においては確かにそうかもしれない。しかし、シンプル極まりないロックにありったけの経験と培われた技術を込め、キッスは最高のラスト・パスを我々にくれた。ロックの熱狂という、忘れがたい決定的場面を演出するためのラスト・パスだ。今後の公演においても、どうかそれを受け止めてほしい。詳細なライブ・レポートは、『rockin’on』誌2020年2月号に書きます。(小池宏和)
ジーン・シモンズに行なった対面取材の様子は以下。