ヒップホップもゴスペルもソウルも同列にあるリゾのすごさとは? そのキャラクターを活かした遅咲きの才能の魅力に迫る
2019.07.10 18:53
7月17日(水)にメジャー・デビュー作『コズ・アイ・ラヴ・ユー』の国内盤がリリースされるリゾ。エンターテイメントに徹した大好評のファースト・シングル“Juice”のビデオやアルバムのジャケット写真、さらにそのビッグサイズな姿とイメージがあまりにも強烈で、一見してキャラクター商売の新人かと思いがちだが、実はこの人、超がつくほどの実力派なのだ。それにもう、15年以上活動を続けてきている遅咲きの才能でもある。
もちろん、本人も体型を売りにしているし、“Juice”はそんなキャラクターを存分に活かしきったビデオにもなっている。しかし、このビデオを観ていてたまげるのは、この曲のあまりにも抜かりないサウンドとパフォーマンス、そしてポップ・ファンクとしても仕上がりが完璧なところだ。さらに、そこに乗せるリゾのラップ・パフォーマンスとコーラス・ワークはエッジを残していて、コンテンポラリー感を打ち出すという絶妙な采配になっている。だからこそ、あからさまに80年代のポップ・ファンクを取り上げたこの曲のグルーヴは、古く響かないのだ。
その一方で、アルバムのタイトル曲“Cuz I Love You”は、ブルースがかったソウル・ナンバーとなっており、圧倒的な厚みをかけたサウンド・プロダクションがグラム・ロック的で、エッジがたまらなくかっこいい。ここで聴かせるリゾの聴き手をねじ伏せていくボーカル・パフォーマンスはもう圧巻、名演にして名曲という非の打ちどころのないトラックだ。そして、このビデオもリゾのキャラクターを活かした傑作となっており、間違いなく現在トップ・クラスのパフォーマーなのだ。
ただ、これまでリゾはラッパーとして紹介されることも多かった。実際、どっちが得意なのか、ここ数年のレコーディングを聴いて考えていくと、この人の頭の中には常にメロディや旋律が鳴っているのは確かで、特に今回の“Cuz I Love You”はその類稀なボーカルの力量を初めてあからさまに叩きつけてみせている。
もともとリゾは思春期を過ごしたヒューストンでバンド活動を続けていたというが、そのバンドが解散するとミネアポリスへ移り、さまざまなユニットで活動。その後、2013年にファースト・アルバム『Lizzobangers』をリリースする。これはもう完全にヒップホップ・アルバムとして作り上げられているのだが、リゾのラップ・パフォーマンスも素晴らしいし、サウンドもまったく時流に媚びないハードな内容を貫いた、実に頼もしいアルバムとなっている。
2年後の2015年には、セカンド・アルバム『Big GRRRL Small World』でよりエレクトロニックなサウンドも打ち出していく中、プリンスの『プレクトラムエレクトラム』への客演を呼び掛けられるなど、他アーティストへのゲスト参加も増え、注目株となっていく。
ひとつの転機となったのは、2016年のEP『Coconut Oil』で、ここでようやく自身のボーカル・パフォーマンスを打ち出すことに成功し、それが『コズ・アイ・ラヴ・ユー』に繋がっている。10歳まで過ごしたデトロイトにいた頃のリゾは、教会とゴスペル漬けの生活で「世俗音楽」は聴いたことがなかったと語っていることから、リゾ本来の資質はゴスペルとソウルにあるのだろう。
しかし、両親と姉とヒューストンへ引っ越したことで解放され、初めてヒップホップを発見したそうだ。姉がビョークやレディオヘッド漬けだったというが、当然そこからも影響されたのだろう。さらにヒューストンでは音楽大学でフルートも専攻したが、自身のバンドが解散するとミネアポリスへ単身移り、そこからヒップホップ・アーティストとしての自身の活動を切り開いていく。だが、ヒップホップという選択は決して打算ではなく、ひとりっきりで自分の表現を打ち立てなければならないという必然からの要求だったはずだ。それに、ラッパーとしてのリゾがいるからこそ、今回の新作がどこまでも引き立っているのも確かだ。
逆に今度の新作はリゾのあまりにも豊かな音楽的な背景が初めて一体化した作品だといえる。そのスケールにただ驚くしかない。(高見展)