2018年、多様な表現で自分自身を表現したLGBTQのミュージシャンたち。ジャネール・モネイ、トロイ・シヴァンetc……

2018年、多様な表現で自分自身を表現したLGBTQのミュージシャンたち。ジャネール・モネイ、トロイ・シヴァンetc……

2018年の音楽シーンを振り返ると、ひとつ大きな潮流としてクィア・ミュージシャンたちの活躍があったと思う。旧来のジェンダー規範に収まらないSOGI(性指向・性自認)の多様化がますます認知されるようになっている昨今だが、ポップ・ミュージックはいま、じつに多種多様なアウトプットで性の自由を表現している。

ここでは、2018年とくに目立った活躍を見せたLGBTQのミュージシャンをピックアップしてみたい(なお、ここでは性的少数者の総称として便宜上LGBTQというタームを使っていますが、セクシュアル・マイノリティにはLGBTQ以外のカテゴリーも多く存在します)。

2018年、世界で高く評価されたポップ・アクトと言えばジャネール・モネイはその筆頭に挙げられるだろう。彼女は自身のセクシュアリティをパンセクシュアル(全性愛)だと定義しているとカミングアウトしたが、アルバム『ダーティー・コンピューター』では多様化する性におけるエロスが大いに祝福されている。プリンス譲りの21世紀型セックス・ソング“メイク・ミー・フィール”のビデオでは対象の男女を問わない欲望が謳歌されているし、女性たちの連帯を示す“ピンク”ではヴァギナを持つ女性も持たない女性も同じダンスを踊る。



ジャネールが2018年を代表するミュージシャンであるのは、この、「すべての性をあり方を肯定する」というムードに他ならない。自分や他者の性を受け入れ、肯定することを、歌とダンス、そして愉しいパーティとして表しているのである。

オルタナティブ・ロックの新世代を鮮烈に印象づけたスネイル・メイルもまた、じつにいまっぽさを感じさせる存在だ。彼女はレズビアンであることをオープンにしているが、それは彼女にとってことさら強調する必要もないアイデンティティであって、歌ではあくまでもパーソナルな感情について丹念に見つめる。彼女をはじめ、コートニー・バーネットやジュリアン・ベイカーといった現在のオルタナティブ・ロックのスターに非ヘテロ女性が目立つのも、時代をよく表している。


ゲイ・アクトでは以前紹介したジョン・グラント以外にも、イヤーズ&イヤーズやトロイ・シヴァンが注目を集めた。彼らの歌には彼らのパーソナルな性愛が切り離されないものとして深く入りこんでおり、すると当然彼らのゲイネスが惜しみなく現れることとなる。ときとしてそれはとてもエロティックな描写も含むが、だからこそゲイのゲイである所以を隠さないという宣言たりうるのである。



また、2018年は先鋭的なエレクトロニック・ミュージックがクィア性を強めた年でもあったが、それをもっとも象徴するのがソフィーだろう。彼女のアルバムは多くのメディアでイヤー・リストに挙がっているが、サウンドの先進性とともに、それまで匿名的だった彼女がそこで自らを開け放ったことが表現としての強度を高めたのではないだろうか。いま、IDM/エレクトロニカがジェンダー/セクシュアリティの多様化と結びついているのは、そこに何か先進性を嗅ぎ取っているからだろうと思われる。ソフィーはその上でポップとの接続も躊躇わず、ときとして大胆なエモーショナルな高みを見せる。


ここで挙げたのはほんの一例だが、それにしても、LGBTQのミュージシャンが自分自身を表現することを恐れる時代ではなくなったのだとあらためて思う。その音も佇まいもバラバラであるがゆえにこそ、現在の性の自由をわたしたちは感じることができる。2019年も多くのセクシュアル・マイノリティの表現に出会えることを願っている。(木津毅)
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