2016年の急死から早2年。プリンスが残した膨大な音源の一部がついに明かされることになったが、今回リリースされる『ピアノ&ア・マイクロフォン 1983』は、プリンスがひとりで自身の作品をピアノで弾き語りをするという、ファン感涙のプライベート音源となっている。
プリンスは死の直前に、やはり「ピアノ&ア・マイクロフォン」と題されたツアーを行っていて、これは自身のヒット曲や名曲の数々をピアノの弾き語りで披露するというものだったが、今回リリースされた音源は1983年にプリンスがひとりでピアノを弾き語りレコーディングしたもの。当時のバンドのメンバーだったリサ・コールマンもこの音源が存在していたことは知らなかったと語っている。
しかも、1983年当時にはまだ発表されていなかった曲も多く、次から次へと懐に温めていた楽曲を披露していくところが、ファンならあまりにも感激という展開になっていて、今は亡きプリンスからの嬉し過ぎる置き土産とでもいうべき内容になっている。このプリンスの親密な演奏と歌は、本当にすべてのファンへの贈り物といってもいいものだ。もちろん、ソングライターとして、またパフォーマーとしてもその才能のすごさを見せつける内容になっていることは言うまでもない。
1曲目の“17 Days”はプリンスの『パープル・レイン』期の最初のヒット曲となった“When Doves Cry”のB面曲で、バンド演奏による強烈なポップ・ファンク曲だったこの曲を見事にブルースっぽいピアノ曲へと変貌させており、おそらくその場の一瞬の閃きでこのアレンジを弾き出しているのだということをわからせてくれる素晴らしい演奏になっている。
この音源をレコーディングした当時、映画とアルバムの制作が同時に進行していた『パープル・レイン』からの“Purple Rain”、あるいはプリンスが大好きだったジョニ・ミッチェルの“A Case Of You”の演奏もまた思い入れや情感を巧みに鳴らしながら歌を乗せていくものになっている。ただ、プリンスの演奏として傑出しているのは、このアルバムからのシングルとして先に明らかになっていた"Mary Don’t You Weep"。これはこの前年の1982年にシングルB面曲としてリリースされ、プリンスのファンの間では名曲として知られた“How Come U Don't Call Me Anymore?”で聴かせるゴスペル風のピアノ弾き語り演奏を思わせるもので、名演中の名演だ。
また『1999』(1982年)からの“International Lover”、その後リリースされた『サイン・オブ・ザ・タイムズ』(1987年)収録の“Strange Relationship”などはいずれもプリンス・ファンの間でも人気の高いマニアックな曲で、この時点からファンの心をつかんでいるような心憎い選曲(思いつき)になっているところがさすがプリンスといったところだ。
そのほかにも“Wednesday”、“Cold Coffee & Cocaine”、“Why The Butterflies”と、オフィシャルな音源ではついには聴けなかった曲も披露してくれていて、この時点ではいずれレコード化するつもりだったことを思わせる、とても嬉しい展開になっている。
この時期、プリンスのバンドでキーボードを担当していたリサも語っているとおり、この音源は本当にプリンスが聴き手の脇でピアノを自分のために弾いてくれているような錯覚を起こさせる音源になっている。構成や展開もまさにそういうものになっていて、ファンならどうしても聴いておきたい、胸が温かくなってくる素晴らしい内容の作品だ。(高見展)
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