インターポールの4年ぶりの新作『マローダー』に感じた、しなやかなバンドサウンドの変化

インターポールの4年ぶりの新作『マローダー』に感じた、しなやかなバンドサウンドの変化

インターポールの約4年ぶりとなる新作『マローダー』は、日々聴くほどに良くなってくる名作だと思う。本作によって、インターポールに求めるものが自分の中で随分変化したような気がするのだ。ロックバンドとしてのスケール感が増していて、よりダイナミックでダンサブルで豊かなサウンドへ。今作はインターポールの今後を語る上で、重要な意味を持つ作品になると思う。

7月にロンドンのハイドパークでザ・キュアーの40周年を記念したライブイベントが行われ、私はそこでインターポールのステージも観ることができた。ベースを弾きながら歌うポール・バンクス(Vo・B)の佇まいのせいもあるだろうが、「あれ? インターポールってこんなに豊かなバンドサウンドを鳴らすロックバンドだったっけ?」と思ったのだった。もちろん“Roland”や“The New”といった最初期曲のダークさやそこに漂う不穏な浮遊感などがなくなったわけではない。けれど、そこで感じたリズムやビートが、思っていた以上にしなやかで、その分、ギターの音はソリッドに感じられたのだ。そのライブでは、「もうすぐリリースされる新曲」と言って、今回の最新アルバムから“The Rover”も披露されたのだけれど、その演奏を聴いた時にバンドの変化を大いに感じ取った。


ということもあって、新作『マローダー』がどんな作品になるのか、非常に楽しみにしていた。前作『エル・ピントール』から、ポール・バンクスは、脱退したカルロス・デングラーの代わりにベースを弾くことになったわけだけれども、ポールがボーカリストとしてだけでなく、バンドの土台を支えるベーシストとしてもリズムやビートを意識するようになったことによって、バンドが描き出すサウンドは以前よりカラフルで多様になったように感じられた。今作はその延長上にあって、さらにバンドサウンドが生々しくなったように思う。

1曲目の“If You Really Love Nothing”の音を聴くだけでも、明らかにバンドが求めているものが変化しているのに気づくはず。ロックバンドとしてのソリッドさもそうだが、ドラムとベースが生む、どことなくふくよかになったリズムは、インターポールが次のステージに入ったことを印象付ける。先のライブでも体感した“The Rover”にしても、ダークさやヘヴィさより先に、やわらかくドラムが牽引していくリズムに体が反応する。“Surveillance"のような、初期インターポールを彷彿とさせる楽曲にあっても、そこにサウンドのうねりを感じるのは、やはりドラムとベースの変化によるところが大きいのだろう。


今作の制作にあたって、ポールがインスピレーションを受けたものとして「ヒップホップ」を挙げていたのも興味深い。あからさまにヒップホップのビートを取り入れているわけではなく、ポール曰く「主にリズム面で、僕が弾くベースにもその影響はあったんじゃないかな。ダニエルのギターと合わせる時も、あくまでギターのコード進行に従ってベースを入れつつ、そこに微妙にリズムでアクセントをつけていくようにしている。それは、ヒップホップが、あらゆるジャンルの音楽からサンプリングしてリズムを作り出していく方法に近いかもしれない」と(『rockin’on』9月号でのインタビューより)。

だからこそ、このアルバムは非常に立体的で、ギターとリズムとがしっかりと絡み合うような洗練されたバンドサウンドを生み出している。ゆえに、何度も繰り返して聴くうちに、どんどんそのサウンドの心地好さが刷り込まれていくのだ。とても良い。11月には、単独公演としては実に13年ぶりとなる来日公演が予定されている。しかも、1stアルバム『ターン・オン・ザ・ブライト・ライツ』の再現ライブと、今作『マローダー』の楽曲を含む新旧織り交ぜたグレイテスト・ヒッツ的なライブの2部構成という、なんともそそる内容。現在のインターポールが『ターン・オン・ザ・ブライト・ライツ』の楽曲をどのように鳴らすのか、そしてもちろん『マローダー』の楽曲を存分にライブで体感できるのも楽しみすぎる。まずはこの『マローダー』を心ゆくまで聴き込んで、その日を待ちたいと思う。(杉浦美恵)



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