サマソニ東京初日、ノエル・ギャラガーの新時代と偉大な歴史が交差した記念すべきステージ!

サマソニ東京初日、ノエル・ギャラガーの新時代と偉大な歴史が交差した記念すべきステージ!

「SONICMANIA」のマイ・ブラッディ・ヴァレンタインで浴びた極限の轟音の余韻、フライング・ロータスで繰り広げられた陶酔の映像体験(3Dグラスはもらい損ねたけれど)の余韻に未だ支配されたまま無理やり起床した土曜朝。でもこの日は早起きしなければならない理由があった。サマーソニック東京初日は午前中から必見のアクトが目白押しだったからだ。

最初に向かったのはMARINE STAGEのザ・シャーロックス。ダイナミックなギター・グルーヴとスクエアにピシッと角を揃えていくようなビートがUKロックの王道ど真ん中を突破していく爽快なステージだ。ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズをヘッドライナーに頂くこの日のMARINEの露払いとして理想的なトップバッターだったのではないか。

一方のメッセでは、要注目のガールズ・アクトのステージが目白押しだった。ドリーム・ワイフは今年のサマソニで数少ないガレージ・ロック・バンドで、そのロウ&プリミティブなギターに80'Sのニューウェイヴ的ポップが華を添えていく。80'Sと言えば80'Sエレポップと80'Sゴスのハイブリッドとして、本国UKで早くも人気沸騰中のペール・ウェーヴスも、MARINEでもいけるんじゃないの? と思うくらいポップ・バンドとしての完成度が高い。フロントウーマンのヘザー(Vo&G)も、フォトジェニックでカリスマティック。これは人気が出るのも納得だ。


そして今年のサマソニの新人賞はこの人では?! と熱くなってしまったのがLA出身の16歳、ビリー・アイリッシュだ。ヒップホップ・ビートをベースにエレクトロ、ソウル、ロックを適宜そこに乗せていくという今様ポップなのだが、あれもこれも全部やりたいし全部やらなきゃ! という熱意と興奮があまりにも眩しく魅力的。デビュー当時のリリー・アレンにも通じるレフトフィールドなセンスと、ロードを彷彿させる少女のブルーな歌声のコンビネーションも期待しかない。

そしてUKヒップホップに新風を吹き込むガールズ・パワー、IAMDDBも、トラップ、UKドリルの攻撃ビートをしなやかに鞣し、SONIC STAGEをダンス・フロアに変貌させる圧巻のステージ! これらのフレッシュなニューカマーのステージで印象的だったのは、オーディエンスがとても若いということだった。新世代のアクトとオーディエンスがシンクロしている様は、集客的な厳しさが指摘された今年のサマソニにあってポジティブな傾向だったと思う。

MARINEのショーン・メンデスも、海外での人気を思えば今回の3倍は集客してしかるべきだったところだが、それでも熱心なファンが声を張り上げて合唱しているのは心強かった。そしてノエル・ギャラガーの取材のため、ショーンを途中で抜けて楽屋エリアへ(ノエル取材のこぼれ話はこちらからどうぞ→https://rockinon.com/blog/yogaku/179384)。毎回巻き気味に始まり、予定より早めに終わるノエル兄の取材、今回もそのお陰でメッセのザ・シャーラタンズのステージに間に合った!

この日はノエル、シャーラタンズ、ペール・ウェーヴス、IAMDDBと何気にマンチェ・アクト祭りだったのだが、マンチェ勢きってのベテランであるシャーラタンズはいい意味でベテラン感が希薄で、数多のアンセム{/alinkをフレッシュにやりきる軽やかさが最高。ティム・バージェスは51歳(ノエルと同い年!)とは思えない若々しさだ。と、同時に「そうそう、SONIC STAGEってこういうムードだったよね」と10年前のサマソニを懐古してしみじみさせられるステージでもあった。


と、ここまで順調に観たいアクトのステージを渡り歩いてきた東京初日だが、最後の最後で悩ましい状況に直面してしまった。何しろノエル・ギャラガー、フレンドリー・ファイアーズクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジテーム・インパラのタイムテーブルがダダ被りなのだ。MARINEのノエルを選ぶと必然的にメッセの3アクトはほぼ観られなくなる。これはツラい。しかし、もちろんノエルを観ないという選択肢はない。フレンドリー・ファイアーズの復活の勇姿(“Jump In The Pool”最高!)を一目確認し、いよいよヘッドライナーのノエル・ギャラガーだ。

新作『フー・ビルト・ザ・ムーン?』のオープニング・チューン“Fort Knox”で幕開ける現在のノエルのツアーは、ノエルが新作で遂げたソングライターとしての、サウンドメイカーとしての、そしてシンガーとしての飛躍を、次々に具現化してみせるアップ・トゥ・デートなステージだ。クリス、ゲムの旧オアシス組に加え、ティン・ホイッスルやハサミ(文字通り鋏です)、コーラスやキーボードを担当する女性メンバーが新たに加わったこともあり、バンドの佇まい自体が新鮮だったし、何よりもその多様性を得たバンドを最大限活用してノエルが自身の新時代のサウンドを生き生きとデザインしていく様が圧巻だった。

ノエルと黒人女性ボーカルが横並びで声をシンクロさせる、往年のハッピー・マンデーズプライマル・スクリームを彷彿させるサイファイなエレクトロ・ソウルの“Fort Knox”や、スワンプなブルーズ“Keep On Reaching”、ノエルの蕩けるようなファルセット・ボーカルの効いた“It’s A Beautiful World”と、新作チューンのサイケデリック空間は未だかつてなく巨大で、旧作曲と比較するとステレオとモノラルくらいスタジアムを支配する響きの強度が違う。


それと対照的だったのがオアシス・ナンバーで、ノエルのキャリアがアップデートされたのと反比例するように、オアシスが彼の中で皆と共有すべき歴史として完結したのだということをしみじみと感じた。“Whatever”のみならず、“Little By Little”や“Half The World Away”をノエルがあそこまで積極的にオーディエンスに歌わせるようになったのもそれゆえだろう。そんなオアシス曲から新作曲へとスイッチされた時の、柔らかなセピア色からクリアな極彩色へと一瞬で場面転換するような、今此処に立ち返るような感覚も鮮烈だ。

そしてラストは“Don’t Look Back In Anger”のアコギ・バージョンをザ・ビートルズの“愛こそすべて”にリレーするという、“ドンルク”だからこそ許される歴史の感慨を覚える幕切れとなった。「シー・ユー・ネクスト・イヤー」と、未来の約束をして去っていく兄がこれまたニクいほど格好良かったのだ。

そんなノエルの感慨に浸る間もなく深夜は「MIDNIGHT SONIC」へ。メイル兄弟にとってFFS名義での「HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER」以来3年ぶりの深夜のメッセ登場となったスパークスは、またもやこちらの溜まった疲労を吹き飛ばすようなポップでユーモラスな祝祭ステージとなった。現在スパークスのドキュメンタリーを制作中の監督エドガー・ライトが、柵前で熱心に撮影している姿も!

そしてスパークスと共にメイン・アクトとして登場したウルフ・アリスは、前回来日から一回りも二回りもライブ・バンドとして成長した姿を見せてくれた。彼女たちは今、オルタナ・バンドとして完成形に近づき始めていると思うし、混沌を楽しげに乗りこなし、次々ブレイクスルーしていく“Visions of a Life”のパフォーマンスを目の当たりにして、ネクスト・ステージへの脱皮の瞬間は近いようにも感じた。(粉川しの)

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