【インタビュー】rockin'on sonic 2026に出演! アイルランド発のヒップホップグループ:ニーキャップ――母語を使った歌詞に込める強い使命感と来日への期待を語る

【インタビュー】rockin'on sonic 2026に出演! アイルランド発のヒップホップグループ:ニーキャップ――母語を使った歌詞に込める強い使命感と来日への期待を語る

ニーキャップ、rockin'on sonic 2026への出演決定! アイルランドのベルファストから登場したヒップホップグループ:ニーキャップは、いまや世界中で注目を集める存在だ。彼らの最大の特徴は、歌詞にアイルランド語を取り入れ、社会や政治を鋭く切り取るリリックを放つ点にある。アイルランド語は、政治的背景によって長らく抑圧され衰退の歴史を辿ってきたが、彼らはその言語をストリートの力強い表現へと変換し、若い世代のアイデンティティや誇りを鮮烈に示している。さらに、半自伝的映画『KNEECAP/ニーキャップ』が予想を超える大ヒットとなり、彼らの存在は音楽ファンを超えて広く社会に浸透することになった。ラップという表現を通じて、地域の歴史や文化を世界へ翻訳する彼らの姿は、単なる音楽グループにとどまらず、アイルランド発の新しいカルチャーシンボルそのもの。今回、メンバーのDJプロヴィに話を聞いた。

(インタビュアー:つやちゃん rockin'on 10月号掲載) 



【インタビュー】rockin'on sonic 2026に出演! アイルランド発のヒップホップグループ:ニーキャップ――母語を使った歌詞に込める強い使命感と来日への期待を語る

●ニーキャップ結成のきっかけは?

「全員ともアイルランド出身なもんでね。過去800年間イギリスの支配下に置かれてた結果により、アイルランド語はもはや絶滅寸前の状態にあって。その自分達の言語であるアイルランド語を取り戻そうという動きが今、都会を中心に起きててさ。自分達もその流れの中にいるんだ。正直ここまでデカくなるとは思ってもみなかったし、マジでほんと地元のダチだの身内だの、この先アイルランドの将来を担う世代にアイルランド語を継承する術として始めたことで、ここまで大ごとになるなんて思いもよらなかった。ただひたすら感謝しかないよ」

●メンバーそれぞれのバックグラウンドや音楽歴は、どのようにして今のニーキャップのスタイルに結びついたのでしょうか?

「自分達の育った環境は、アイルランドの伝統音楽が日常的に流れてるような場所で。フィドルやギター、ティンホイッスルといった楽器も昔からすごく身近にあってさ。アイルランドでは“バーセッション”って呼ばれてる文化があって、バーに行って、そのままみんなで輪になって音楽を演奏するみたいな。譜面もなければかしこまってるところなんて一切なくて、完全オーガニックな感じ。誰かしらがフラーッと何か弾き始めて、まわりにいる人間も自然にその輪の中に入っていく。最終的な着地点なんか誰ひとりとして気にかけちゃいない。子どもの頃からそういう環境に育ってるんで、それが自分達の音楽スタイルのデフォルトになってる。

そこからもうちょっと年齢が上になってから、ウルフ・トーンズやアイリッシュ・ブリゲイドみたいなアイルランドのレベルミュージックをよく聴くようになり、10代になるとエミネムとかアメリカのラッパーがブームになり……思春期って、聴いちゃいけないとされてる音楽ほど強烈に惹かれるわけじゃん?(笑)。だから影響としては、今言った組み合わせだよね。アイルランドの歴史と豊かな文化の土壌から輩出されてきた偉大なミュージシャン達。さらに、メッセージを伝えるための強力な手段としてのヒップホップ。しかもそれらを、アイルランド語でやるっていう。自分達以前にアイルランド語でラップしてるグループは存在してなかったからね。まさにうちが新しい地平を切り開いたわけでさ。それがどれだけの人間に受け入れてもらえるのか完全に未知数っていう状態からスタートしてる。それがありがたいことに、今のところみんなにも楽しんでもらってるようで」

●北アイルランド紛争やその後の社会情勢は、メンバーのアイデンティティや創作にどう影響してますか?

「相当深く関係してるよ。というのも、自分達の親世代から虐げられている歴史があるんで……とくにカトリックのコミュニティなんて、60年代70年代には住んでる地域すら制限されてたんだから。いわゆる“ゲリマンダリング”っていう、選挙の区割りを恣意的に操作して特定の政党が議会の多数派を獲れるようなことが行われたんでね。それがきっかけとなって公民権運動が起き、同時に“トラブルズ(北アイルランド紛争)”にも発展していった。

“トラブルズ”自体、宗派間の対立を煽るためにイギリス政府が恣意的に作り出したもので、実際に地元民と話してるとカトリックもプロテスタントも同じ人間って感覚の人が大半なんだよ。だってみんなご近所同士なんだから。それを政府がわざわざ人々の分断を煽ってそこから金銭的な利益を得ようとする構造になってる。だからこそ、音楽が重要なんだよ。音楽に人と人を繋ぐ力がある。まさにクリエイションを通した対話なわけさ。自分達が音楽でやろうとしてるのも、まさにそれなわけ」

●あなた達の音楽は、ポリティカルなメッセージと同時に、肩の力が抜けたユーモアもあります。作品を作る際はそれについてどのくらい意識していますか?

「それに関しては聴き手がどう受け止めるかにもよると思うけど。少なくとも自分達が育った場所では、アイルランド語を話すこと自体がすでに政治的主張なんだよね。そもそも長年禁止されてた言語なわけで、“トラブルズ”の時代のこともある。その何年も続いた殺人や暴力のトラウマを、アイルランド人はユーモアで乗り越えようとしてきたわけだよね。そういうダークなユーモアみたいなノリがアイルランド人には根付いてる。厳しい現実を乗り越えるための術としてね。ダークなユーモアであり風刺は、音楽にもあてはまるんだ。そもそもアイルランドの政治システムなんて、まともに機能してないのも同然だから。政治家はどいつもこいつも派閥争いにかまけてて、国民のために働こうなんて気は微塵もない。

やられたらやり返すみたいな政治ばっかりしてるから、物事が一向に前に進んでいかない。そういう政治家達に一発くらわせるのに、風刺や笑いは最強の手段だと思うんでね。国民に選ばれて議員のポジションについてるはずなのにやることもやらずに、ただ自分の懐を肥やして、豪邸を買って、次の政治家にバトンタッチしてる。そのいやらしい構造がただひたすら綿々と受け継がれていくだけ。そこに風穴を開けるために、風刺やユーモアを利用しつつ、音楽からアプローチしてるわけさ」

●映画『KNEECAP〜』の反響で、最も印象的だった出来事は何ですか?

「アメリカのサンダンス映画祭のときかな……映画の終了と同時にスタンディングオベーションが始まって、観客賞まで受賞したんだよ。映画を作ってるときには、あくまでも自分達の言語を取り戻すストーリーについて描いてると思ってたけど、言語であり文化の復権って、実は世界中のありとあらゆる人種が共感できるテーマであることに気づかされた。それこそメキシコの原住民にしろオーストラリアのアボリジニにしろニュージーランドのマオリ族にしろ、いろんな地域や文化圏の人達が自分達のストーリーとして受け止めてくれた。

そこから、祖父母の言語を見直そう、自分達の言語を取り戻そう、復活させようっていうムーブメントが起きてる。今言った文化の中ではもうすでに言語が失われてしまってることも多くて、一度失われたら取り戻すのは難しい。だからこそ、まだチャンスがある今のうちに行動を起こしていくことが大事なんだ。アイルランド語って、まさにその典型的な事例だから。19世紀初頭に絶滅寸前だったのが、文化ならびに言語的ルネサンスによって今また息を吹き返してるだけでなく、生きた言語として、また日常生活の中で使われるようになったんだからね」

●最新作『FINE ART』リリースから1年が経ちました。あの作品で成し遂げたと今実感できることは?

「あのアルバムって、ヒップホップでもなければ、レイヴでもラップでもない。どれかひとつの枠に収まるものじゃないし、完全にごった煮状態。アイルランドの伝統的な音楽の要素も入ってるし、ありとあらゆるジャンルの音が詰まってる。このアルバムを特定のジャンルに押し込もうとする人もいるけど、そもそもマルチなアルバムなんで。しかもその雑多性に対してみんな好意的に受け止めてくれてるみたいで、入荷しても即売り切れで増盤が追いつかないっていう嬉しい話も耳にしてる。発売から1年経ってるのに、いまだにこれだけ話題になって支持されてるんだから本当にありがたい」

●rockin'on sonicで来日されますね! 日本は初めてだとか。

「そう、来年の1月に初の日本。全員が初めてだから、めっちゃ楽しみにしてる。日本に行ったことのある地元のミュージシャン仲間からも、日本は最高って話を聞いてるんでね。みんな優しいし、親切だし、楽しくていいとこだって聞いてるから、今から超楽しみにしてる」

●あなた達の音楽でどのように日本の観客を沸かせたいですか?

「その場のエネルギーだけで、みんなで同じ空間を共有し合う場なんで。そのためにこっちも最高の音とダンスをかますから、一緒に場を盛り上げていこう。ライブで盛り上がった後はギネスと日本酒で二次会しようぜ!的な(笑)」



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