【座談会】2025年の洋楽ポップシーンはどこへ向かうのか? 「POP NOW 2025」特集で読み解く最新動向

つやちゃん 「最近ラテンはやっぱり面白いなって思ってますけどね。新作を出したカリ・ウチスとかカミラ・カベロとか、ラテンとアメリカンポップの境界をなくしていくようなことにトライしているじゃないですか。それって、アメリカンポップをラテン側から再定義していることでもあるし、ラテンの音楽を世界中に広げている意味でもあるし。で、バッド・バニーとかロザリアとか、売れているんだけど、貧困や自国の社会的不平等とか、社会的なことをラテンの人たちってちゃんと歌ってヒットさせているのは、すごくいいなって思っています。ラテンミュージックは、ここ数年、すごくポジティブに自分は見ていますね。日本でなかなか売れないですけど」

伏見 「日本の歌謡曲とかJ-POPって、ラテンの要素めっちゃ強いんですけどね。それが共有されないのはもどかしい感じがする。あとは、今日名前出てない人だと、テイト・マクレーはカナダ人だし。タイラもいるし。あのあたりの新しく出てきたミュージシャンが、ことごとくアメリカ出身ではないのはひとつ新しい」

つやちゃん 「ふたりともダンサーで異色ですよね。最近では珍しいタイプというか。そういう人たちが出てきているのが面白い」

伏見 「そうそう。これって新しい流れなんじゃないかなって感じがする。テイト・マクレーの表現とかめちゃくちゃ挑戦的で、そんな感じでいいんだっていう。それは2010年代の第4波フェミニズムのなかでは現れなかった表現が、女性からも出てきている感じがする」

木津 「それはサブリナ・カーペンターもですよね。でもこうやって話していると、全体として傾向があるっていうよりは、いろんなところでいろんなことが起こっている感じもしますね」

山崎 「2025年のビルボードのチャートとかランキングを見ていると、実は面白い時期なんじゃないかなって思っています。ひとつは確かに、チャーリーみたいなアーティストがリセットしてくれた部分もあるし。あとやっぱり、数年前まではヒップホップ勢がチャートをかなり席巻していたから、ポップミュージックに何が起きているのか見えづらかったけど、ヒップホップがヒューッってどいたから、見えやすくなったと思いますね」

木津 「あと、2年前ぐらいだとテイラーがひとり勝ちで強すぎたところもあったので、その次の世代がいろんなところで、それぞれやりたいことをやっている感じがしますね」

山崎 「日本のアーティストとかでも、ジャパニーズカルチャーがどうとか、海外進出がどうとか、そういう話題は関係なく、ある日突然ビルボードのチャートのベスト5に居座る楽曲が現れるみたいなことが起きても、全然不思議じゃないぐらいの状況になっている」

伏見 「そうですよね。今、覆面メタル文脈のバンド、スリープ・トークンがやたら売れているのと同じように、いきなり日本のアーティストが急に売れる、みたいなことは、多分起こるんじゃないんですかね」

山崎 「あとローラ・ヤングみたいなアーティストも入りやすくなってるよね」

木津 「ローラ・ヤングに関しては、エイミー・ワインハウスの再評価だと思っています。やっぱり、エイミー・ワインハウスってゴシップでマスメディアに潰された人なので。2020年代から見ると、むしろゴシップのネタにされるような個人のことは、表現の必然じゃないですか。若い人たちは、今のポプティミズムを理解していて、逆説的にエイミー・ワインハウスの音楽的な再評価が起きているので」 

山崎 「テイラー・スウィフト全盛期とかヒップホップ全盛期だったら、エイミー・ワインハウス再評価どころじゃないですもんね。入る余地がなかったそういうアーティストが入って、いい意味ですごく流動的になっている」

伏見「エイミー・ワインハウスはInstagram世代の前の人というか。ダメージを感じてしまったゆえに亡くなってしまった人ですよね。だから、彼女ひとりじゃないけど、そういうことが起きてしまったうえで、じゃあどうやって生き残りながら音楽を作り続けていくかっていうのを、そのあとの世代がやってきたのかなって思いましたね」

山崎 「じゃあ、最近の一枚、もしくは一曲を出していただいて終わりましょうか。木津さんからどうですか?」

木津 「僕はチャペル・ローンの“The Giver”で。去年のちょっと追い詰められていたように見えていた彼女がカントリーポップをやることを引き受けつつ、でも曲の仕上がりとしては、ちゃんと楽しいものになっているところが、今の時代を象徴している感じがします」


山崎 「つやちゃん、どうですか?」

つやちゃん 「ドーチーのアルバムですかね。ああいう、ちょっと批評視点を持った人がメジャーで売れるんだっていうことにびっくりしました。捻った視点がすごく独特で、コラボレーションも面白いです」


山崎 「伏見さん、どうですか?」

伏見 「僕はカリ・ウチスの『Sincerely,』で。5枚目の作品で、ある種ラテンとアメリカを行き来するR&Bシンガーみたいなイメージが固まったなかで、このノスタルジックなアメリカンミュージックの再定義をやったことに面白さを感じますね」


山崎 「僕は、グレイシー・エイブラムスです。最初偏見で、またテイラーの二番煎じみたいなのが出てきたなって斜めから見ていたんだけど、アルバムを聴くとめちゃくちゃクオリティ高くて、本物だなって。女性アーティストが、才能と肉体性だけでストレートにやれる時代がほんとに来たんだなって、このアルバムを聴いて思いました」


つやちゃん 「この前の来日公演では、まさにそこに女性のファンがめちゃくちゃ惚れているというか、惹かれてるんだなっていうのが出ていましたね。すっごい盛り上がりで、あのピュア性に惹かれているのが伝わってきました」

伏見 「結局、全員女性を挙げるっていう」

山崎 「確かに!(笑)」

つやちゃん 「やっぱそうなんだ(笑)」





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