もう四半世紀も前の話だが、ブルース・スプリングスティーンの『トラックス』が出たときはびっくりしたものだ。ディスク4枚66曲に伝説のファーストデモから1990年代後半までのレア音源がぎっしり詰まっていたが、まさかその続編があるとは。
この6月27日にリリースされる『トラックスⅡ:ザ・ロスト・アルバムズ』は1983年から2018年までの35年間にレコーディングされた音が7枚組ボックスに収められ、全83曲中、未発表音源が82曲!!(ハイライト盤も同時発売される)。
もともと多作な上にアルバムもコンセプチュアルにまとめる人なので、その過程で多くの候補曲や企画変更等で漏れる曲が多数でも全然不思議じゃないが、これほどのボリュームと内容の質の高さには驚かされるし、しかもアルバムとしてまとまり、じつに聴きやすくなっているのはさすがだ。
そんなボックスは『ネブラスカ』(1982年)と『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』(1984年)の間に作られたラフな音の詰まった『LAガレージ・セッションズ’83』で始まる。彼曰く「当時の俺はまだ名声に対して少し臆病だった。『ネブラスカ』の後すぐに『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』を発表するかどうか迷っていた」という。実際、『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』が彼を一段上の人気アーティストに押し上げたことを考えると、この音源は歴史的にも非常に重要だし、次の『ストリーツ・オブ・フィラデルフィア・セッションズ』はループやシンセ類を大幅に使った、まったく彼のイメージとはつながらないアプローチで今回もっとも刺激的だった。他にも未完の西部劇映画用サントラ『フェイスレス』、小編成のカントリーバンドスタイルによる『サムウェア・ノース・オブ・ナッシュヴィル』、カリフォルニアを北上するドライブ中に書かれたという『イニョー』、オーケストラを使った『トワイライト・アワーズ』、さらにこのボックスのためにまとめられたレア曲集の『パーフェクト・ワールド』と、どれも“裏ブルース道”に思いを巡らす作品となっている。(大鷹俊一)
ブルース・スプリングスティーンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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