「僕らの生きている世界は、何もかも完璧にデタラメだ。
それでも僕らはその中から、真実だと思えるものを、ピュアで美しいと思えるものを、懸命に探し続けなくちゃいけない」
スフィアン・スティーヴンスは、常に多作だったが、今年は父を亡くして既に5枚組『コンボケーションズ』を発表していたのに、今作『ア・ビギナーズ・マインド』をアンジェロ・デ・オーガスティンと完成させた。これが、スフィアン節全開のフォーク作であるばかりか、全14曲が14本の映画を題材にして制作された夏休みの実験のような作品なのだ。
映画も、『ベルリン・天使の詩』(1987年)や『羊たちの沈黙』(1991年)などジャンルも評価も様々だ。しかし、それがポイントなのだ。タイトルにもあるように、仏教の教えでもある「初心」でどんな映画も偏見を持たずに見つめ、またブライアン・イーノの「オブリーク・ストラテジーズ」のカードを引くように、クリエイティブな面でこれまでにない試みに挑戦している。
結果、映画を知らずに聴いても素晴らしい完成度だが、映画を思い浮かべて聴くと、精神が高められるような衝撃的な体験ができる。また、どんな映画からも、深い哲学的思想が導き出されていて、それが心に刺さり目が覚めるような想いがするのだ。この普通じゃない実験から最終的に何を見出そうとしたのかをふたりに訊いた。(中村明美)
スフィアン・スティーヴンスの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。