1月6日に新作『÷(ディバイド)』からのシングル"Shape of You"と"Castle On The Hill"を緊急リリースしたエド・シーラン。どちらもリリース日にスポティファイでのストリーミング記録を塗り替え、翌週には"Shape of You"と"Castle On The Hill"がそれぞれにチャート1位と2位に輝き、新曲2曲でチャート2位までをも独占する史上初の記録ともなった。2曲は同じチャート記録をドイツやオーストラリアでも達成し、さらにアメリカでは"Shape of You"が1位、"Castle On The Hill"が6位となったが、アメリカではチャート10位以内に2曲を初登場させること自体が史上初の記録となった。
いずれの記録も3年振りとなるエドの楽曲がどれだけ待たれていたかということをよく表しているものだといえるが、それと同時に、非の打ちどころのないエドのソングライティングとパフォーマンスがさらに進化していることも見せつける素晴らしい内容をよく反映したものでもある。
エドの作品世界に忠実なのは"Castle On The Hill"で、これまでだったらギターの弾き語りだけで作り込んできそうな楽曲をバス・ドラムのリズムと心地よいベースラインとキーボードをまとわせた作りになっていて、地元のサフォーク州フラミンガムで育った思い出が綴られる内容となっている。実は歌詞としてはあの頃からいかに自分やみんなの人生が変わってしまったかということを歌ったもので、当然前作のツアーが大阪ビッグ・キャットや新木場スタジオ・コーストで始まり、やがてはウェンブリー・スタジアムまで上り詰めたエドの生活の激変をも歌い込んだものにもなっているはずだ。しかし、通常ならここで少しは匂わせたくなるような、現時点で感じたさまざまな幻滅や落胆については一切触れず、地元から離れるまでのあの頃の思い出がどれだけかけがえのないものかと綴ることで、逆にただのノスタルジックな感傷から離れて、この先の未来をも見据えたポジティヴな楽曲となっているわけで、歌詞、歌、曲とすべてにおいてエドらしい素晴らしいものになっている。
"Castle On The Hill"のMVはこちらから。
その一方、各国で軒並みナンバー・ワンとなっている"Shape of You"はリアーナに託してみたい楽曲として書いた曲だったという。実際、非常にリズミカルなキーボード・リフを軸としていて、エドが得意とするどこまでもラップに近いヴォーカルで相手の魅力にほだされてしまった心境を吐露する、とても情熱的なR&B曲となっている。タイトルの"Shape of You"とは相手の容姿の虜になったという意味で、外見だけに惚れたという意味に思わせつつ、実は身も心もすっかり奪われてしまった心境を歌っていて、胸の熱くなるような恋をリアルに感じさせる、これもまたエド一流の楽曲だ。ある意味でソングライターとしてのエドの才能が爆発したような曲で、とどまるところを知らないそのポテンシャルにただ驚かされる名曲で、3月3日にリリース予定の新作『÷(ディバイド)』がまたしてもとんでもない作品になるのを予感させる究極のポップ・チューンになっている。
"Shape of You"のMVはこちらから。
なお、"Shape of You"については歌詞の途中でヴァン・モリソンなども登場させてしまったことからリアーナらしくなくなってしまったので譲るのは諦め、ルディメンタルに提供しようかとレーベルに掛け合ったところ、なんで自分で歌わないんだという話になったとか。つまり、こんな強力なヒット曲なしでも『÷(ディバイド)』は充分成立していたということで、どんなアルバムが控えているのか、空恐ろしくさえなってくる。(高見展)