The Mirraz『OPPORTUNITY』:火星の砂漠から愛を込めて
2014.10.08 21:56
僕はThe Mirrazの『言いたいことはなくなった』というアルバムが好きだ。ミイラズ屈指の名曲“観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは”とか“ラストナンバー”が入っているし、アルバム全体がこう、スカッとカラッとしているからだ。「ポップなラブソング」というコンセプトがはっきりしていて、そのコンセプトを貫くことで、ある意味ほかのことをすべて「諦める」ことができている。だからカラッとしていて、重たくない。このアルバムが出たときに畠山はいろんなところで「このアルバムが売れなくても別にいい」という発言をしていたが(でも結果的には結構いい感じだったが)、100万枚売れたいとかアレもコレも言いたいとか、そういう色気とか脂っ気とかがすっきりと削ぎ落とされている。だからまあ、ミイラズっぽくないアルバムなのだが、僕はそれが好きだ。いいアルバムだ。
でも思えば、この『言いたいことはなくなった』から、ミイラズというか畠山の長い長い迷いの旅路は始まったのである。理由は簡単で、ミイラズっぽくない、でもいいアルバムである『言いたいことはなくなった』を作ったことで、「じゃあミイラズっぽい、ミイラズらしいって何なんだ」というのがよくわからなくなったからだ。メジャーに移籍して環境を変えてリリースされたシングルやアルバム『選ばれてここに来たんじゃなく、選んでここに来たんだ』は今聴いてもやっぱり迷っている。メジャーで表現すべきことは何かとか、その中でミイラズらしさを発揮するにはどうしたらいいのかとか、試行錯誤の爪あとがはっきりと残っている。それはそれでリアルだし、その試行錯誤の中で必死に上を向いていこうとしている“傷名”とか、グッとくる歌詞は随所にあって、すごく赤裸々なロックアルバムであることは間違いないのだが、でも明らかに迷っているし、戸惑っている。だからこのアルバムはなんだかしかめっ面をしている気がする。
その迷いの霧がぱっと晴れたのが、『夏を好きになるための6の法則』というミニアルバムをリリースしたときだった。無理やり「夏」というコンセプトを導入して(しかも畠山は夏嫌いなのに)、“真夏の屯田兵~Yeah!Yeah!Yeah!~”というなんか身も蓋もないタイトルの曲を作って、すごくヴィヴィッドにチューニングが合ったような感覚があった。でもそれはやっぱり「夏」という枠組みがあったからであって、本質的にはミイラズは迷いの中にいたのである。だって“真夏の屯田兵”の冒頭で畠山はこう歌っているのである。《いい加減キレキャラなんてやめたいし
伝えたい歌は「怒り」や「キレ」じゃないし》。でもそれはひとまずおいといて《とりあえずはyeah!yeah!yeah!》と、そういう歌である。
で、このニューアルバム『OPPORTUNITY』で畠山はついに迷いを抜けた――というとすごく美しい物語は完結するのだが、そんなことは全然なくて彼は相変わらず迷っている。
何じゃそりゃ。
だが、でもこのアルバムから感じる迷いは、なぜかポジティヴで明るい。しっちゃかめっちゃかな自分を、地球とか宇宙とかそういうスケールで見て、そのしっちゃかめっちゃかさを受け止めている。最後の“O!M!!G!!!”という曲で畠山が歌っているのはある種の達観だ。
《誰もが解決のできない悩みを抱えつつ生きている/クソみたいな社会を彷徨って「大人になる」ってやつです》
では「大人」になったミイラズはつまらないのかといえばそんなことはなくて、まさに「大人」になったからこそ自由になったミイラズが、このアルバムにはいる。言葉をこねくり回すのではなくて、率直に思ったことを歌う。ヘンに流行にとらわれたりせず、かっこいいと思ったリフやメロディが素直に作品になる。だから『OPPORTUNITY』はとてもストレートに刺さる。で、ミイラズらしい。迷っていてヤバいというのではなく、迷っているのなんて当たり前じゃん、という視点を手に入れることで、いろいろなことがOKになっている。オポチュニティというのはNASAの火星探査車の名前なのだが、なんとオポチュニティは火星に着陸してから10年以上も探査を続けているのである。何かを探してうろうろしながら答えを求め続ける。それがオポチュニティのお仕事。もしかしたらロックバンドも、同じようなものなのかもしれないな。
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