3月29日にNYブルックリンのバークレイズセンターでロックの殿堂入り授賞式が行われた。そのレッドカーペットでザ・キュアーのロバート・スミスがインタビューに答えたのだが、その11秒が完璧にロバート・スミスで、あまりにカッコ良くて、ボーイ・ジョージから、ジェイムス・ブレイクから、アーケイド・ファイアのウィン・バトラーからみんなツイートしている。
ウィンが「ヒーロー」とツイートしている映像はこちら。
何がカッコ良いかと言うと、レッドカーペットのレポーターの女性が、かなりキャピキャピ声で、「今日の式典を私と同じくらいエキサイトしてますか?」と訊くと、もうその時点でめちゃくちゃ嫌そうな顔なんだけど、「その声と比べたらノーだよ」と答えていること。
最高。
授賞式ではトレント・レズナーがキュアーの殿堂入りのスピーチをした。見所満載の式典において、個人的なハイライトのひとつだった。
トレントは、キュアーを「心が張り裂けるくらい最高のロックバンドのひとつ」と語った。映像はこちら。
https://youtu.be/YsjrafLJyYo
以下スピーチの要約。
「俺は、アメリカの小さな町、ペンシルベニア州マーサーで育った。もっと正確に言うなら、トウモロコシ畑以外は見るものがない所だった。それは、この素晴らしいアートの価値を下げてしまうインターネットの奇跡が現れるずっと前の原始的な時代だった。
MTVすらなかったんだ。ラジオに聴きたい音楽はなかったし、何もすることがなかった。だから夢を見て、逃避するしかなかったんだ。
そして、その家を出て、都会へ行く時が来た。都会と言っても、俺の場合は、クリーブランドなわけだが。それは80年代半ばだったから、カレッジラジオが聴けたというだけでも、その無限の可能性に俺の頭はぶっ飛んだ。そこで俺は、オルタナとアンダーグランドミュージックへの洗礼を受けた。その新しい音楽の波に心を奪われたことの中で何が一番大事だったかと言うと、その時に初めてキュアーを聴いたことだった。
即座にこのバンドは俺の琴線に触れた。最初に聴いたアルバムは、『The Head on the Door』だった。それは聴いたこともないようなものだった。スピーカーから俺の頭の中にあった闇が向かってくるような気がして、本当にぶっ飛んだ。この音楽は俺のためだけに書かれているように思えた。俺は、生まれた時からずっと自分がどこにもフィットしないし、居場所がないように感じてきたーー今正にそう感じてるけど(笑)ーーだけどその音楽を聴いた時に突然何かと結ばれた気がしたんだ。もう1人ぼっちじゃない、と思えた。
その音楽は本当に独特で、特別な力があり、サウンドや言葉、提示の仕方だけではなくて、そのすべてが、楽器の中でもこの上なく美しいものによって支えられていた。それはつまりロバート・スミスの声だった。その声はあまりに幅広いエモーションを表現した。怒りから哀しみ、絶望から美、もろさから喜びまで。あまりに世間知らずと思われるかもしれないが、『The Head on the Door』を聴くまで、聴き安くラジオでもかけられる曲で、内面の常識に挑戦するような、あんなに難しくて深い概念が表現できるとは思ってもみなかったんだ。
俺はそのレコードを溝が消えてしまうまで聴き続けた。それでそこから過去の作品にさかのぼった。そこにはあまりに豊で偉大なアルバムが俺を待っていた。
後にキュアーとなるグループは、 1976年イギリスの郊外の僻地であるクローリーで結成された。その小さな町でメンバーは夢を見て逃避をしていたんだ。彼らはそこから少し北上したロンドンで起きていたパンク勃発と、子供の頃から好きだったアメリカのヘビーサイケデリックにエネルギーを得た。何度かメンバーが変わり、普遍的なポストパンクとニューウェーブサウンドを作った後、1980年代になると、彼らはその音楽と、態度と、ルックスで、その後何十年も定義するバンドのひとつとなった。
しかし、キュアーが世界に紹介した新たなサウンドを誰もが真似しようとした時、彼らはすでに新たに開拓するべき場所に向かっていた。ロバート・スミスは、モノクロなこと以上のことができると世界に見せようとしていた。彼は、世界的に大ヒットする曲を何曲もレコーディングした。それは、いまだに正当に古典とみなされている。40年間のキャリアにおいて、13枚のアルバムを制作するというのは、彼らのパワーとイマジネーションが決して衰えることがないという証拠だ。
大きなテーマを扱う音楽を作るという難題に向き合いながらも、彼らは巨大なインパクトは与え続けた。彼らはもう何百万枚売れたか関係ないという位のアルバムを売り、ポストパンク、ニューウェーブ、ゴス、オルタナティブ、シューゲイズ、ポストパンクの重要な基準となった。この40年間に流行と時代遅れを何度も行き来し、最終的には流行なんてものを超越してしまった。2019年に、彼らの名前はヒップに響くかもしれないけど、いつもそうだったわけじゃない。長年残る音楽を作るために音楽的、またはアーティスティックな限界へ挑戦しようと務めたことは、プレスに常に輝かしい評価を得たわけでもなかった。だけど彼らは、情熱があり、インテリで、常に真実が分かっている忠実なファンベースを失うことは決してなかった。キュアーは、最もユニークで、優れた、そして心が張り裂けそうに最高なロックバンドのひとつなんだ。
これは理解できることだが、ミュージシャンはほとんどの場合、その注意深く作られたペルソナと、実態がある程度は違ったりするものだ。ただし俺の知る限りでは、ロバート・スミスという人は、その最も稀な例だ。
100%本物のロバート・スミス的な人物が、100%本物のロバート・スミス的な人生を生きている。彼はそれによって完璧に自分だけの世界を作り上げているんだ。そのサウンド、見た目、バイブ、それがいつだって本物だから、ファンは、好きな時にそこを訪れ、いつだってどっぷりと浸かることができる。それは、つまり、逃避する夢を見たことがある人のために作られた世界なんだ。
ここで正直に告白しなくてはいけないことがある。俺は、これまで、ある授賞式の存在を、疑問視してきた。そのモチベーションに疑問を持ち続けてきた。実際、XとかYとかZみたいなバンドを受け入れているのに、キュアーを認めていない授賞式なんて、真剣に受け止められるわけがない、と思っていた。だけど今から少し前に思ってもみなかった電話がかかってきた。それで俺達は今ここにいるわけだ。だから言っておきたい。今夜ほど、前言撤回することが嬉しかったこともないと」
じーーーん。
そしてキュアーの登場。私の座っていた席から聴く限りでは、この日の殿堂入りで最大の歓声と拍手をもらっていた。
こちらロバート・スミスのスピーチ映像。
https://youtu.be/xOIG-dcS2EY
「トレントに感謝したい。本当に素晴らしい殿堂入りのスピーチだったと思うから。彼自身が素晴らしいアーティストなのに、彼のような人から言ってもらえると本当に意味がある。ロックの殿堂の方達にもお礼が言いたい。僕らに投票してくれた人達に。これは驚きだった。すごく驚いたんだ。
トレントが言ったように、僕らが初めてアルバムを作ってから40年が経った。そんな風には思えないけど。それでその間、当然のことながら、キュアーの物語に関わってくれた人達がいる、良くも悪くも。それでその名前をここで全部読み上げようとは思わない。あまりに色々語るべきではないけど、そんなことをするのは、すごく退屈だと思うから。それに、僕は良い物語を語るのも苦手だし、コミュニケーションを取るのはすごく下手だから。
だけど、このバンドにいた人達全員にお礼が言いたい。 Boris Williams、Porl Thompson、Perry Bamonte、Matthieu Hartley、Phil Thornalley、それから偲ばれるAndy Anderson。
もしここで名前を挙げ始めたら、永遠に続いてしまう。だけど1人だけ、僕らがバンドを始めた当初、1978年で、まだティーネージャーの3人組だった時に、僕らの本当の最初のショーの1つに来たすごく小さな男の人がいた。誰なのか知らなかったけど、彼が、他の人は誰も気付いてくれなかったのに、僕らの中に何かを見出してくれたんだ。それがChris Perryだった。だから本当にありがとう。
それから僕らのショーに来てくれた人達、または僕らのやっていることを好きになってくれた人達。それって最高なことだった…...本当に」
じーーん。
キュアーはこの後、最高のライブパフォーマンスもした。激しく衝撃的な始まりに、最後まで、バンドとしてタイトなサウンドで演奏した。
1. Shake Dog Shake
2. A Forest
3. Lovesong
4. Just Like Heaven
5. Boys Don't Cry
さらにロバート・スミスは、バックステージでローリング・ストーン誌のインタビューに答え、ハロウィンに発売される(?)新作について語っている。
●殿堂入りしたことについて。
「ロックの殿堂に組み込まれてしまった、みたいな気がするんだ。だけどそれにわざわざ逆らうっていうのも、無作法な気がするしね。殿堂入りしたからって、僕らが変わるわけでもないし、僕らのやることが変わるわけでもないし。
Simon (Gallup)がやるべきだって言ったんだ。僕がステージに立った事で僕らを知ってくれる人がいるわけだし、僕らはその人達のために曲を演奏する。バンドがやることってつまりそれだからって。それを聞いて、地に足が付いたし、これが一体何を意味するのか難しく考えたりしなくて良いと思えた。みんなのために曲を演奏すればいいんだとね。それで好きになってくれる人もいるし、そうじゃない人もいる。それが終わったらビールを飲みに行けばいいやと。彼はすごく地に足の着いた性格なんだ。僕は時々心配しすぎちゃうんだよね」
●新作について。
「 『Disintegration』の(30周年)アニバーサリーになるから、あのアルバムをどうやって作ったのか考えていたところだったんだ。どうやって何かに変えたのか、自分の心境がどうだったのかをね。それであの作品のキーは、みんなが家から離れていたということ。みんなが愛するものから離れてみんなで同じ場所にいたということ。だから今回もこの20年で初めて、みんなでスタジオに入ったんだ。実は笑っちゃうことに、『ボヘミアン・ラプソディ』を作ったスタジオなんだ。周りに何もないところにある素晴らしいスタジオなんだ。そこで3週間音楽を演奏し続けた。みんな言う事だけど、でもそれって本当にファッキング最高だった。
このアルバムはあまりにダークで、ものすごく激しい作品になった。何か意味のあることをするために僕は10年間待っていたんだ。すごく上手くいっているよ。この夏のフェスでどれくらい演奏するのか分からない。というのも、フェス向きの音楽とは言えないから。1曲10分から12分もある。それで19曲もレコーディングしたんだ。だから今どうすればいいのか分からない。『3枚組にすればいい!』って言う人がいるけど、僕は『それはやめようよ』と言ってる。だから6曲から8曲選んで1枚のアルバムを作ろうと思ってる。でも僕らのハードコアファンは喜んでくれる作品になると思う。それ以外の人を本当に本当に怒らせる作品になると思う。この年で僕はまだ、破滅的だし、憂鬱だからね」
●発売はいつですか?
「夏前にレコーディングを終えて、夏にミックスして、それで発売は10月? ハロウィンだよ、もちろん!」
また、『Disintegration』のツアーもNYとLAでは行うことになっているけど、このアルバムが大きいアルバムだから、もっと大規模の会場でのライブをしたいと思っているそう。
●結成から40年であることについて。
「それは僕がファッキング年寄りってことだよ!」
●あなた達はレジェンドなのでマジソン・スクエア・ガーデンで3日間でもできると思いますけど。
「僕らは面白い意味でまるで変わっていない。レディオヘッドが高潔であることや、本物であることについて語っていたけど、そういうことを僕らはむしろ語らない。それを強く掲げたりしない。でもだからファンが付いてきてくれているように思う。なぜなら僕らが自分達が誰なのかにおいてふりをしたりしてないから。それが世界を変えたりはしない。でもそれが全てなんだ。さっき5曲演奏した時、僕はその瞬間にいた。今キュアーというバンドにいるのにはすごく良い瞬間だと思う。このラインアップは最高だし、この年になっても、大好きだから」
キュアーは、今年のフジロックのヘッドライナーのひとつ。夏フェス向きじゃないめちゃ暗い10分間の新曲を演奏してくれるのか、またはアニバーサリー的なセットリストか?どちらにしてもバンドサウンドが最高潮と言えると思うので期待!!
https://www.thecure.com/news/2019/02/fuji-rock-festival-2019/