昨日グラミー賞のノミネート作品が発表され、早速様々な反応が飛び交っている。中でも一番目立つのは、「スターギル・シンプソンって誰?」だ。
最優秀アルバム賞の5枠の中の、ビヨンセ『レモネード』、アデル『25』、ジャスティン・ビーバー『パーパス』、ドレイク『ヴューズ』という超メジャーな作品群に混じって、明らかなダーク・ホースで誰も予想していなかったカントリー・シンガーのスターギル・シンプソン『A Sailor's Guide to Earth』がノミネートされたのだ。「スターギル・シンプソンって誰?」とみんな大騒ぎしている。以下ノミネーション後の反応色々。
1) #whothefuckissturgillsimpson (スターギル・シンプソンって誰?)
ちょっと悲しいけど、スターギル・シンプソン自身も、自分でハッシュタグをつけてツイートしていた。
— Sturgill Simpson (@SturgillSimpson) 2016年12月7日
NYタイムズは、みんなが大騒ぎしているので、早速本人にインタビューしている。タイトルも、「スターギル・シンプソンも、あなたと同じくらい驚いている」(笑)。
http://www.nytimes.com/2016/12/06/arts/music/sturgill-simpson-grammy-nominations.html?_r=2
シンプソンはこの記事の中で、「本当に本当に、僕も、フランク・オーシャンが最優秀アルバム賞にノミネートされれば良かったと思っている」と語っている。「だけどそれは僕が決めることではないし、彼がなぜノミネートに該当しないように敢えて提出しなかったのかも理解できる。ただ、個人的には、あのアルバムは本当に新境地を開拓した作品だったと思う」。良い人だ。
前にも紹介した通り、フランク・オーシャンは最優秀アルバム賞で黒人の作品が選ばれないことに抗議して、アルバムをわざと提出しなかったのだ。
2)ボウイは! カニエは! フランク・オーシャンは?
http://www.usatoday.com/story/life/music/2016/12/06/grammy-2017-snubs-kanye-west-misses-out-david-bowie-prince/95032164/
http://www.ew.com/article/2016/12/06/grammy-nominations-2017-snub
シンプソンの代わりに最優秀アルバム賞にノミネートされるべきだったと多くの人達が言っているのは、まず誰よりもデヴィッド・ボウイの『★』だ。『★』は、ボウイが亡くなる直前に発売されたアルバムで、その瞬間から絶賛されていたが、亡くなってからその意味が、さらに深くなった作品だった。
それから、カニエ・ウェストの『ザ・ライフ・オブ・パブロ』。カニエ・ウェストは8部門にノミネートされていて、ビヨンセに続く2番目のノミネーション数ではあるが、ラップ部門に留まるのみで、最優秀アルバム賞などの主要な部門にノミネートされていないのがおかしいという声が高い。「カニエより、ジャスティン・ビーバーの作品のほうが音楽的に高い評価を受けるというのはどうなんだ?」という記事も出回っている。
http://www.thedailybeast.com/articles/2016/12/06/grammy-nominations-snubs-shockers-kanye-west-is-not-going-to-be-happy.html?via=twitter_page
http://variety.com/2016/music/news/grammy-nominations-snubs-david-bowie-kanye-west-1201934369/
シンプソンのみならず、ビーバーが最優秀アルバム賞にノミネートされたことには驚きの声もある。
その他レディオヘッドや、年間ベスト・アルバムの上位に必ず入っているチャンス・ザ・ラッパーの『カラーリング・ブック』についても、主要部門でノミネートされるべきだったという声も多い。
3)ビヨンセは、ポップ、ラップ、ロック、R&Bの4ジャンルでノミネートされた初のアーティスト。
http://pitchfork.com/news/70268-grammys-2017-beyonce-first-artist-to-be-nominated-in-4-genre-categories-in-same-year/?mbid=social_twitter
ビヨンセは最多の9部門でノミネートされたが、その内容がさらにスゴい。ポップ、ラップ、ロック、アーバン・コンテポラリーと、4つの違うジャンルでノミネートされているのだ。これは初の快挙だという。『レモネード』を聴いてもらえば分かるが、彼女はこの作品で可能な限り幅広い音楽のジャンルに挑戦している。さらに、カントリー曲もあるが、それがノミネートされていないのはおかしいという声もものすごく多い。
ビヨンセはこれで通算62ノミネートとなり、これは女性アーティストとして最多。
4)リアーナがビヨンセとケンカ?!
ことの始まりは、ビヨンセの『レモネード』が、主要部門にノミネートされているのに、リアーナの『アンチ』がノミネートされていないのはおかしいというキャプションが書かれた、ファンがポストしたリアーナの写真に、リアーナが「LIKE」したこと。リアーナがそれに同意してビヨンセに怒っているのでは、と大騒ぎになったのだ。しかし、リアーナが即返答。「写真が面白いと思ったからLIKEしただけで、キャプションまで読んでいなかった」、「黒人の女性同士をすぐに対決させたがるの、いい加減に止めたら。不必要だから」と。その通り。
https://twitter.com/gusfenty/status/806469321316777984
5)チャンス・ザ・ラッパー、無事ノミネート
今年の音楽シーンの特徴と言えば、CDを発売しなかったアーティストがいたこと。中でも、チャンス・ザ・ラッパーはこれまで1枚もCDを発売していない。そのため、これまでずっとグラミー賞に規定を変えるよう訴えてきたのだ。今年、ほとんどチャンスのために、その規定が変更になった。そしてチャンスは見事7部門もノミネートされた。カニエの作品にも参加しているからだ。注目は、新人賞を無事獲るかどうか。新人賞は歴代なぜ?と思う人が獲ることが多いので、不安だ。
6)ビヨンセVSアデル。
ビヨンセの『レモネード』は年間ベストで最も1位になっているアルバムだ。そして、アデルの『25』は発売から1年以内でダイヤモンド・ステイタス(1000万枚以上の売り上げ)を獲得した。これは今の時代、驚異としか言いようがない。
そのため、最優秀アルバム賞の最大の見どころは、作品の内容なのか、売り上げなのか?ということになる。
個人的には、ビヨンセは最多ノミネートされているが、最優秀アルバム賞を獲ることだけが大事だと思っている。
なぜなら、まず『レモネード』は2016年を象徴する傑作だからだ。それから、フランク・オーシャンがプロテストしているように、黒人のアーティストが最優秀アルバム賞を獲らないことが多いからだ。その例を書き始めたらキリがない。例えばカニエは、誰もが「天才」と認めるが、彼の作品が最優秀アルバム賞を獲ったことがないというのは完全におかしい。
しかし、フランク・オーシャンがプロテストする理由に従えば、ビヨンセは最多受賞で、最優秀アルバム賞はアデルということがありえる。そうなったら個人的には怒りが爆発すると思う。または、グラミーは変わらなかったと思うべきなのかもしれない。黒人が大統領に選ばれる時代に、今を代表する黒人アーティストが音楽シーンで最高の栄誉に輝かないというのは、カルチャーが政治より遅れているという証拠だと思うので悲しい。オスカーしかりだが。
注目の受賞者発表は、2月12日。
ノミネーションはこちら。
https://www.grammy.com/nominees