ザ・ジックスを率いてのソロ5枚目となる新作『ミラー・トラフィック』が8月17日にリリースされるスティーヴ・マルクマスだが、スタイル的にも多様性に富んで、ペイヴメント以降のスティーヴのアルバムのなかでは最高峰という声がすでにあがっている。また、特に注目されるのがプロデューサーにあのベックを迎えたということなのだが、もともとベックとスティーヴってそんなに仲良しだったっけ、という疑問にスティーヴはスピン誌にこう答えている。
「まあ、やっぱり友達とは言えないよね。ベックは結構、人付き合いのしないタイプだから。でも、間違いなくベックは同志ではあるよ。オルタナティヴ全盛の時代にいくつかのツアーで同行したことがあったんだ。たとえば、まだベックが『オディレイ』をやる前のロラパルーザとかね。それとぼくたちがビースティ・ボーイズと一緒にやったオーストラリア・ツアーにもベックも一緒に来たりしてね。あと、ベックがパサディナに住んでた90年代にはベックの自宅にも何度か泊めてもらったことがあったんだよ。ベックにはさ、ああだこうだってエゴが働いてるところがないんだよね。そういう意味じゃ、ぼくたちはやっぱり同じ舟に乗ってるって感じはするよ」
そんなベックと今回どういう経緯で組んでみることになったのかというと、ベックの方からいきなりスティーヴに電話を入れてきたのだとか。それも、まだベックがシャルロット・ゲンズブールとの2009年の『IRM』に取りかかる以前のことで、電話の要件はこれからはプロデュースも請け負うことにしたというもので、なにか一緒にやれたらと思うようなことがあったらおもしろいと思うんだけどとベックは伝えてきたという。
その半年後に今回のアルバム用の曲がほぼ書き上がり、スティーヴがその話をジックスの面々にすると、メンバーも全員乗り気で、自分たちでプロデュースをやるよりは仲間と思える人にそれを託すというやり方を特にギターのマイク・クラークやベースのジョアンナ・ボルムも賛成し、ベックを迎えることになったとか。特にスティーヴ自身も1999年の『テラー・トワイライト』でナイジェル・ゴドリッチと組んだ以外にはプロデュースを常に自分でやってきたので期するところはあったとほのめかしてもいる。
そんなベックのプロデュースの特徴はなにかというと、ベックと長く組んできたエンジニアのダレル・ソープのドラム・サウンドのレコーディング方法がかなり特殊だとか。「ものすごくオールド・スクール的に制御されたドラム・サウンドを2人は作り出せるんだ。それと膨大にテープを使ってて、結局、すべての音をいったんはテープに録るんだよ」とスティーヴはベックのこだわりを説明し、また徹底して機材にこだわって考えていく顔もベックにはあるのだと語っている。
その一方で、今作はスティーヴのソロ作品としては最もペイヴメント風な作品に仕上がっているという意見も多いことに対して、スティーヴは今作がかなりダイレクトにかつ時間をかけずに制作されたことが一部のペイヴメントの作品っぽさを引き出したのではないかと語っている。「今回は曲をもっと短くして、メロディに集中しようと思ったんだよ。サイケにするっていうんじゃなくてね。変かどうかってことであまり悩みたくなかったんだ。とにかく曲にユニークなメロディを持ってもらいたかったんだよ。やっぱり曲がすべてだからね。結局、演奏じゃないんだよ。あるいはへヴィーさでもないんだ。こういうことってほかの人じゃあんまり打ち出してないことだからね。それに、いいか悪いかは別にしてぼくは手持ちとしては100万曲くらい持ってるんだよ。常にね。ただ、歌詞が100万も揃わないだけのことなんだ。メロディとコード進行なら100万個は持ってるんだよ」。
ということは次回作もすぐにでも作れるのではないかと訊かれて、スティーヴは曲だったらあとアルバム1枚分は揃っていて、いつでも取りかかれる状態だと語っているが、それを今年中にでもレコーディングしないのかと訊かれるとそれは難しいと答えている。「コンテンツをみんなの口に押し込んでいくようなことはマタドールもやりたがらないだろうからね。バンドなんてもう10億くらいあるんだからさ、コンテンツだって山ほどあるってことになるよね。そんな中でこのアルバムがぼくたちにとっての再生とでもいうようなものになったらいいなと思うんだよ。みんなにさ、『おっ、あんたら、まだイケてるね』って言われたら嬉しいよね」。