「ブラス・セクションと合唱を入れて“原子心母”を演ることには飽きてない、いつも凄く異様な感じになる。
まるで全員で泥の塊を好き勝手に壁に投げつけて、結果的にどんな風に見えるかを確認するみたいな作業なんだ」
5作目のオリジナル・アルバムとなる『原子心母』で初の全英1位を記録する前から、すでにロック・シーンにおいて破格の熱狂を生み出していたピンク・フロイド。そんなバンドの状況を、1970年に行われたこのロジャー・ウォーターズのインタビューは実にリアルに伝えている。
シド・バレットの手による初期曲のみを絶対視し、自分を含むバンド・メンバー全てを(他のメンバーの名前すら挙げることなく)「代わりの利く存在」と切って捨てるウォーターズ。当時のスターダムの構造が、ウォーターズを解放ではなく、巨万の富でもEタイプのジャガーでも埋めることの出来ないさらなる孤独へと追い詰めている――そんな彼の様子が、歯に衣着せない語り口から残酷なまでに鮮明に浮かび上がってくる。
今もなおコンセプチュアルなロック・アートの象徴的存在として語られるロジャー・ウォーターズだが、ここでの彼はあくまで「ロックンロール」のプリミティブな訴求力に忠実であろうとしている。『原子心母』のドキュメント的なこのテキストは同時に、後のプログレッシブ・ロック・モンスター誕生への、悲哀に満ちたプロローグでもある。(高橋智樹)
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