「私はただペンを手にするだけで、夢や歴史、思い出の世界へと現実逃避することが出来るのです。私はその物語たちを、それぞれに相応しいありったけの愛情と、驚きと、斬新な表現を用いて語ってみました。さあ、ここに収められた物語を語り継いでいくかどうかはあなた次第です」
傑作『フォークロア』のテーマは、テイラー・スウィフト自身が寄せたセルフ・ライナー・ノーツで驚くほど簡潔かつ完璧に説明されている。彼女は3つの切り口から全貌を詳らかにしていくのだが、1つ目は、本作が視覚的なイメージから始まったこと。2つ目は、本作が自分自身の物語に加え、他者の物語も含んでいること。そして3つ目は、空想と現実を分ける境界が失われた童話や神話の世界にも似た、まさに民間伝承(フォークロア)だということだ。
他者の視点ありきのセルフ・キュレーション社会を痛烈に批評したアルバム『レピュテーション』のセルフ・ライナー・ノーツも素晴らしかったが、他者と切り離された隔離生活が育んだ深い内省に極上の詩情と想像力の翼を与えた今回のライナーは、不安に苛まれるこの時代の一人一人に勇気を与えるものになっているのが何より感動的だ。10代の頃から常に戦略的にアルバムを展開してきた彼女にとって、初めて衝動的に作り、突発的にリリースしたアルバムが『フォークロア』だった。それでも同作が今こそ生み出すべき必然、リリースすべき意味を持った作品だったことがここから読み取れるはずだ。(粉川しの)
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