2020年を迎えたこのタイミングで、ロッキング・オンが選んだ2019年の「年間ベスト・アルバム」上位10枚を、10位〜1位まで、毎日2作品ずつ順に発表していきます。
さて、年間2位の作品はこちら!
【No.2】
『ハリウッズ・ブリーディング』
ポスト・マローン
もはやポストがひとつのジャンル
16年の『ストーニー』、18年の『ビアボングズ&ベントレーズ』で旋風を巻き起こしたポスト・マローンのサード・アルバム。それぞれにセールス300万枚を記録しただけに、その後の路線の行方が注目されるところだったが、色気を出すわけでもなく、まったくぶれることもなく、自身が今持てる魅力を120パーセント叩きつけてきたところがあまりにも素晴らしい。唯一色気を見せたところがあるとすれば、かつてメタル・バンドをやっていた頃の夢を形にしたともいえる、オジー・オズボーンとの共演曲“Take What You Want”だ。全編フックだらけのメロディに貫かれたミディアム・テンポのロック・バラードに仕立てあげ、さらにトラヴィス・スコットまで共演させるというすさまじい力業を披露していて、今の自分にはなんでも可能だという自負も垣間見せるところが圧巻だ。
アルバム全体のサウンドとしてはこれまでのビートとグルーヴとポストの節回しをどこまでも王道化したもので、ここまでくると彼のけだるく甘い節回しは純然たるポップとしか言いようのないものになっていて、もはやその存在自体がすでにひとつのジャンルと化しているのではないかと思えてくる。その最たるものが“Circles”で、けだるくどこまでも気持ちのいいポストのボーカルと軽快なグルーヴで押しまくる必殺曲。またシザと共演する“Staring at the Sun”などはアフリカン・ビートを思わせるトラックが見事で、まさに彼女との共演用にあつらえたとしか思えない内容。そんな芸当までできてしまうところが今のポストの勢いというものなのだ。
タイトル曲にしてオープニングの“Hollywood’s Bleeding”はどこかスキャンダラスだが、ハリウッドというライフスタイルに生活や関係が壊されていくのに、それでもハリウッドという場所にしがみつく自分たちを見つめるもので、この醒めたシニカルな視線こそ、ポストのサウンドを大きく反響させる毒にもなっている。女性や友人に裏切られていくという、数々の関係性の破綻がこのアルバムでは綴られているが、その虚無的な気分こそこのサウンドを響かせるものなのだ。どこか鼻歌に近い、いわゆるサウンドクラウド・ラップ勢の究極の最終兵器となったと言ってもいいポストだが、その最強力弾頭ともいえる作品。(高見展)
「年間ベスト・アルバム50」特集の記事は現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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