終盤の流れで重要だったのは、社員を大切にしない九十九(山内圭哉)に抗議したが「お前がいなくても会社はどうにでもなる」と言われた晶(新垣結衣)と、粉飾決算への加担から抜け出せなかった恒星(松田龍平)が、傷ついた互いの心を埋めるように急接近し、その関係性を「間違った」と後悔し始めたこと。晶が恒星の部屋で眠ってしまい、翌朝に喫茶店でモーニングを食べていた時はとてもキラキラしていたのに、一線を超えてしまった翌朝には何故かモヤモヤとした気持ちを抱えてしまっていた二人。視聴者も「このドラマってラブストーリーになっちゃいけなかったの?男女の友情物語じゃなきゃいけなかった?」と戸惑った人もいたに違いない。
しかし最終話では、晶と恒星が行きつけのビール店で「後悔したこと」について話し合うシーンに長い時間が割かれた。途中で晶の会社の同僚がやってきたり、お互いの電話が鳴って橘カイジと呉羽(菊地凛子)に呼び出されたりしながらも、その話し合いは続いた。普通ならば、彼氏でも彼女でもないんだから、気まずくなったら会わなければ良いはずだ。後悔した夜のことを傷つけあいながら話し合う必要なんてない。だけど、晶も恒星も、後悔だけで終わりたくはなかったんだろう。
そんな話し合いを続けつつ、これから謝罪会見を行う橘夫妻に呼びだされた二人。バッシングを受けての謝罪会見なのに逆ギレした呉羽に、記者は「あんた何しにきたんだ?」なんて言葉を浴びせたが、そこで「自分以外の何者にもなれないってことを確かめに?」と言い切った呉羽はカッコよかった。それを聞いていた晶と恒星も何か感じ入るものがあったのだろうか。あんな風には生きられないけれど、恒星が言う「自分の人生を取り戻す」為に動き出した二人の怒涛の展開がその後に訪れた。互いに仕事や信頼を失い、晶に至っては再び想いを告げてきた京谷(田中圭)のことも振り、全てを無くしたように見えたけど、夜逃げした恒星から晶にかかってきた1本の電話で、彼らの新しい関係が始まったのだろう。
『獣になれない私たち』は単なるラブストーリーとカテゴライズできるような甘くて小気味良いドラマではなかったけれど、とても素敵なエンターテインメントとして最後まで楽しませてもらった。私たちの人生は、生きている今日がどこに繋がるかなんてわからないまま前に進んでいることの方が多い。それに家族や恋人や友達や同僚や飲み友達……そんな風にきっぱりと間柄を分けられない複雑な人間関係の中で生きている。晶が元彼のお母さんと今も仲良しなように、朱里(黒木華)が何故か岡持(一ノ瀬ワタル)のラーメン店でアルバイトを始めたように、緩い繋がりが重なって奇妙なハーモニーを生みながら毎日は続いていく。きっとそういうことが大人になるということのホロ苦い味わいなんだと思う。
晶と恒星が教会を訪れた時、鐘は鳴ったのだろうか?鳴らなかったのだろうか。きっとそれはどちらでも良くて、16時ちょうどに今か今かと不安げな表情で鐘を見上げた彼女の顔が可愛すぎて、それだけで泣けた最終話。しかし晶は第1回からずっと会社で戦ってきたけど、最後まで報われることはなかったのは、このドラマで描かれた残酷な、だけどよくあるこの時代のリアリティなのだろうか。強いだけでもダメなんだろうな。それよりも「一緒にビール飲みたいよ」と言える存在がいることこそが小さな光だ。(上野三樹)