ロックには、顕微鏡では解き明かせない魅力があるのはこのサイトをご覧の方々ならもちろんよくご存知の事実。
しかしながら、科学によってロックのちょっと意外な側面を覗き見ることもできる。「科学でロック」と題し、そんな側面をご紹介してみたい。
オーストラリアのクイーンズランド大学にて行われた研究によって、ヘヴィ・メタルやパンクなど過激な音楽は聴き手の中の怒りを処理するのに役立つことが明らかになっている。
2015年の「The Guardian」の記事によれば、ロックでも特にハードで激しい音楽は聴いていると「怒りを引き起こす」わけではなく、むしろ「怒りを感じている状態と音の激しさが釣り合うことで、怒りを処理するのに役立つ」ことがわかってきたという。
研究に携わったのはジュヌヴィエーヴ・ディングル教授と学生のレア・シャーマンで、ヘヴィ・メタル、エモ、ハードコア、パンク、スクリーモなど、過激な音楽として括られるさまざまなジャンルを取り上げ、こうした音楽を日常的に聴いている18歳から34歳までのリスナー39名を対象に調査したという。
その結果、シャーマンは研究報告の中で「(過激な)音楽は悲しみなどの感情を抑え、前向きな感情を促す」と説明し、以下のように続けている。
怒りを経験した時、過激な音楽のファンは自分たちが抱える怒りと張り合える音楽を聴きたくなるのです。
そういう音楽に浸ることで自分たちが抱えている感情の全容を知る手掛かりにしているだけでなく、その後はより活動的で、積極的な心情になっていることがわかりました。
調査の結果、過激な音楽に触れることで、敵意や苛立ちなどといった感情やストレスのレベルが下がったことが明らかになっていて、最も大きな変化を見せるのは、音楽を聴いた後にはやる気が俄然増えてくるということでした。
なお、今回の調査にあたっては被検者に16分間の怒りの追体験をさせるという手法をとっており、人間関係やお金、あるいは仕事など、本人にとって苛立たしい話題を語らせ、その後、聴き取り調査が行われたという。
実験では10分間、好きな音楽を被検者それぞれが聴き、さらにそこから10分間完全に黙って過ごし、再度聴き取りを行った。調査によれば、メタルを10分聴くことと沈黙した10分ではまったく同じ効果が得られたとのことだ。
また、怒りを引き起こされた被検者が自分たちのプレイリストからどういう内容やテーマの曲を好むのかも調査の目的のひとつになっていた。
これについてシャーマンは「選ばれた楽曲のうちの半分は怒りや攻撃性をテーマにしたもので、残りは孤独や悲しみをテーマにしたもの、そのほかのテーマもあったところが興味深い」と述べている。
さらに「(どんなテーマであっても)音楽は自分たちの充実感を促すものであって、愛されているという感情に自分を浸らせたり、健全な心境を促すものだというのが被検者らの声だった」とも語っている。
限定的な調査だったため、この結果をいたずらに一般化することはできない。だが、少なくとも一般的に思われている「過激な音楽は怒りを引き起こすもの」という考えが当てはまらないことを、今回の研究では指摘している。