ビル・ブルーフォード(キング・クリムゾン、イエス)×モーガン・シンプソン(ブラック・ミディ)、ドラマー師弟対談が実現! 半世紀のキャリアの差を超えた2人の共通点を語る

ビル・ブルーフォード(キング・クリムゾン、イエス)×モーガン・シンプソン(ブラック・ミディ)、ドラマー師弟対談が実現! 半世紀のキャリアの差を超えた2人の共通点を語る - A copyright and courtesy of The TalkhouseA copyright and courtesy of The Talkhouse

ここ数年来続く英国のロック・シーンの活況において、その原動力を担う新世代のバンド勢のなかでもブラック・ミディが群を抜いた存在であることは多くの意見が一致するところだろう。

先ごろリリースされた彼らの最新アルバム『カヴァルケイド』は、サウンドの独創性、楽曲のバラエティ、演奏の強度とスケールその全てにおいて2年前のデビュー作『シュラゲンハイム』を遥かに凌ぐ圧巻の作品だった。

「だから今回は、『もうちょっと好きにやらせてもらってよくね?』みたいな気分かな」(※本誌7月号のインタビューより)。そう語るジョーディー・グリープ(Vo/G)の不敵な言葉とは裏腹に、サックスやキーボードを迎えたクインテットにバンドを再編し、曲作りから楽器の構成やプロダクションに関してまで個々がマルチタスクをこなす音楽集団へとグレードアップを遂げた彼らは、才気と勢いに任せた段階のその先を早くも見据えているように冷静で、極めて堅実だ。

そして、そんな現在のブラック・ミディと『カヴァルケイド』について理解を深める上で、以下の記事は多くの示唆やヒントを与えてくれるに違いない。

ブラック・ミディのドラマーのモーガン・シンプソンと、イエスやキング・クリムゾン、ジェネシスという三大プログレッシヴ・グループでドラマーを務めてきたビル・ブルーフォードによる対談で、アルバムのリリースに合わせて『Talkhouse』というポッドキャストで公開された内容だ。

とりわけクリムゾンは、ブラック・ミディに多大なる影響を与えたことを自他共に認める特別なバンドのひとつ。かたやブラック・ミディに対して理解と共感を示すブルフォードとシンプソンの話題は、『カヴァルケイド』の背景から音楽制作のプロセス、互いのキャリアとバックボーン、さらにプレイについてやデジタル・テクノロジーの是非に至るまで多岐にわたる。

なかでも「ミスは最高」と二人が意気投合する場面は、ドラマーとしての両者の哲学やキャラクターが垣間見えて興味深い。

なお、今回掲載するのは対談の前半部分で、続きの後半部分は来月発売の本誌10月号で読むことができる。残念ながら来日公演は延期となってしまったが、実現する日が早く訪れることを待ちたい。(天井潤之介)


ビル・ブルーフォード(以後、B):今回が初対面ということで……我々の間にはかなりの年齢差があるね!

君と私は、似たような経験をしているけれども、その経験の間には半世紀という時間が流れている。すごいことですよね?

モーガン・シンプソン(以後、M):全くその通りだと思います、クレイジーです。でも同時に素晴らしいことだと思います。

それに先ほどもお伝えしましたけれども、あなたは間違いなく僕のヒーローですから!それだけはしっかりと明確にしておきたいんです。今日はこの場所にいることができて非常に光栄に思います。

B:そんな風に思わなくてもいいですよ。その思いはすぐにぶち壊されます。まだ対談は始まったばかりですから。

M: 確かに、始まったばかりですね!(笑)

B:ではこの対談をどう進めようか?私が知りたいのは、ブラック・ミディの音楽制作プロセス。リハーサル・ルームでのプロセスやアルバム制作のプロセスについて。それからモーガン自身の音楽制作のプロセスや、君がどのようにして今のようなドラマーになっていったのかも聞きたいところだ。

避けたいのは、『Cavalcade』の曲解説を1曲ずつすること。私は『Cavalcade』を聴いてきたから予習は万全なのだけれどね(笑)!昨晩からかなり聴き込んでいますよ。最高です、非常に楽しむことができました。

まず聞きたいのは、“John L”(『Cavalcade』の2曲目のタイトル)とは何者?

M: (笑)

B:この質問はよくされていると思うけれど、“John L”とは何者なのか私たちにも教えてくれないかい?

M: “John L”はですね……この曲の歌詞はリード・シンガー兼ギタリストのジョーディが書いたものなので、彼が何を考えてこの歌詞を書いたのかを、僕が代わりに話すということはしたくないんですが――

B:そんなことは気にしなくてよろしい。ジョーディはこれを聴いていないだろうから。 

M:聴いているかもしれませんよ!それは分かりません(笑)

でも僕の解釈としては、“John L”とは人々が崇拝するような大物で、その解釈は人それぞれの自由だと思っています。でも僕がイメージしているのは、至る所にいる世界のリーダー的存在。

あなたのいう通り、この質問をよく受けるんです。すごく良いタイトルだと思いますけどね。でも具体的な誰かという意味ではなく、複数の意味合いを持っているものの方が面白いと思うんです。

B:その方がずっと面白いよね。

M:そうなんです。それが“John L”の僕個人の解釈ですね。

B:アルバムの『Cavalcade』(=隊列)という概念も素晴らしいね。言葉も素敵だし。ジョーディが作り上げた、奇妙な架空のキャラクターたちのオンパレード。君もバンドの歌詞の部分に関与しているのかな? 

M:していません。僕が曲を歌うことになったら、僕が歌詞を書くことになりますが。僕たちは、音楽の基礎が作られてから、その音楽に合わせる歌詞のアイデアがある人がその曲を歌うということになっているんです。

B:なるほど。

M:なので、僕が歌うということになったら、歌詞を書きます。それは遠い未来の話ではないと思いますよ。

B:歌詞を書いた人が歌うということだね。

M:そうです。他の人が歌うための歌詞を書くということはしていません。その理由は特にありませんが、今までの制作方法として、歌詞はその曲を歌う人が作る方がいいと思っていたからですかね。今後は、他のメンバーのために歌詞を書くということもするかもしれません。

B:このような話をしている時に、必ず「最初にあるのは、音楽の部分?それとも歌詞?」という質問が出てくる。

M:あー、はい。

B:昔のバンドマンなら「小切手」と答えるかもしれないけれどね(笑)

M:「金」ですね!!(笑)

B:そしてジントニック!(笑)

M:ジェイムソン!(笑)(*ウィスキーの銘柄)
僕たちの場合、先にできるのは「音楽」ですね。

B:君たちの音楽は、クリムゾンのように本質的にはインストルメンタルだと思います。その音楽に対して、バンドの誰かが「これに合わせてオレが歌いたい!」と発言するということですよね?

M:はい。

B:それは非常に素敵な制作の進め方だと思います。

M:それが自然なやり方だと感じます。僕たちはこのやり方が好みなんです。

あなたがクリムゾンにいた時は、歌う人が歌詞を書いていたのですか?

B:ほとんどの場合がそうだったと思う。初期の頃はなぜかバンド・メンバーでもないのにピート・シンフィールドという奴がリード・シンガーのために歌詞を書いていたな。

それがしばらく続いて、その後、私がキング・クリムゾンにいた70年代の頃も、ベーシストのジョン・ウェットンのために、バンド・メンバーではない別の人が歌詞を書いていたね。ジョンとその人とは友人関係だったけれど。

M:それはどういう考えからなのでしょうか?

B:「歌詞は他の誰かに任せるよ」ということだろうね(笑)

M:(笑)

B:歌詞を書くのは大変な仕事だからね。私がクリムゾンにいた中間期はエイドリアン・ブリューが歌い、ギターも弾いていた。彼は作詞作曲もして、非常に上手だったよ。

私たちの制作方法もブラック・ミディのそれと近くて、インストルメンタルの土台や進みたい方向がまずできてから、エイドリアンが「みんな、この曲はスチュードベーカーの車の曲だと思うんだ」とか言って、スチュードベーカーの車についての歌詞を書いていた――そんな流れだった。

でもエイドリアンにとっては大変な作業で、アルバム制作の最終日には危機感が最高潮になり、トラックはたくさん録音できているけれど、歌詞が全くない!という状態。そんな時は、エイドリアンが必死になって歌詞を書き上げなければならなかった。 

M:大変ですね。それはどのアルバムの話ですか?

B:80年代だと思う。『Discipline』や『Beat』、『Three of a Perfect Pair』の頃。今言った順に、赤と青と黄色のアルバムの時だね。だからエイドリアンにとっては大変な作業だった。彼には脱帽するよ――限られた時間の中で歌詞を完成させなければいけない切羽詰まったソングライターとは関わりたくないからね!

君たちはそういう問題には遭遇しないのかもしれない。アルバム制作中の時間管理はこまめにしている方なのかな?「(スタジオの利用時間が)高くつくな……」と思ったりしているかい?

M:ブラック・ミディというバンドで活動して、数々の恩恵を受けている思っていて、その1つが「時間の制約をあまり感じたことがない」ということなんですよね。

B:それは珍しいことだね。商業的なスタジオにおいてもそうなのかい?

M:そもそも僕たちはそこまで高額なビッグ・スタジオで作業しないんですよ。ファースト・アルバム(『Schlagenheim』)はダン・キャリーとレコーディングをしたのですが、彼は自宅にスタジオの設備があるんです。

今の、この場所(*ビルの自宅)と同じような感じで、素晴らしい機材がセッティングされている部屋があるんです。『Cavaldade』のレコーディングはダブリンで行われたのですが、Hellfire Studioという非常に美しいスタジオでした。

B:それはどのくらいの時間がかかったのかな?

M:レコーディングですか?ダブリンに滞在したのは5~6日間でした。その期間で全ての楽器のトラックをレコーディングしました。

B:それは早い方だと思うね。

M:僕たちは作業モードに入るととても作業が早いんですよ。

B:それは素晴らしいことだ。

M:日曜の晩にスタジオに着いて、月曜日にはライブ演奏が6~7テイクくらい撮れていました。

B:その曲というのは、それ以前にしばらく練習していたものなのかい?

M:そういう曲もあります。今回のアルバムに収録されている曲の半数は、『Shlagenheim』期の最後あたりに作られたものなんです。『Shlagenheim』ツアーのライブ中やジャムセッションで作られた新しい素材もありました。それは“John L”と“Chondromalacia Patella”と“Slow”で……

B: (“Chondromalacia Patella”について)私には発音もできないタイトルだ。でも君は見事に発音したね。

M:多分、発音はあっていると思いますけれど(笑)

B:では、その曲たちは制作途中だったんだね。

M:はい、大混乱になる直前の昨年2月のUKツアーでも演奏していました。

B:ということは、スタジオに入る頃には、全員で曲を通して演奏し、良いテイクが撮れるという状態にあったということだね?

M:そうです。

B:……君、それがどれだけ古風なやり方だということに気づいているのかい?

M:アッハッハ!

B:素敵なくらい古風だ。しかも全ての楽器を一緒に演奏すると?

M:もちろんです。ライブですから。

B:クリックトラック(メトロノーム)も使わずに?

M: 使いません。

B:それがいかに古代的なやり方だと分かっているのかい!?

M:アッハッハ!僕たちは年老いた男たちなのです。

B:それは本当に素敵なことだよ。もちろん、ブラック・ミディの音楽を聴いていて、そんな感じがするけども。君たちのそういうサウンドも私は気に入っている――冷凍庫から出してきた新鮮な冷凍アルゴリズムや、ダウンロードされたトラックではないところがね。

あまりそういう音楽は好みではないからね。私は赤い血が滴っている方が好きだ。お互いの目を見て、「ワン、ツー、スリー、フォー」とカウントして一緒に演奏するという方が好きだ。自分もそのやり方の方が楽しめる。

M:おっしゃる通りです。音楽はそのようにして始まったのですから。

B:そして何年もの間、それが音楽を作るという有効的な方法だった。

M:そうなんですよ!なぜそれをあえて変える必要があるのでしょうか?

B:色々と費用がかさんでくるからだろうね。あと「自宅のノートパソコンで座りながら1人でできる」と思う人たちが出てきたんだろう。「世界中の人に音源のファイルを送って、ベースの人に何か加えてもらって、ギターの人に何か加えてもらって……」というように。

お互いがどんな要素を加えたのかも自覚していないまま、やがてアルバムというものができる。そんなとこだろう。最近ではその手法も少し行き詰まっている感じがするけれどね。でも君たちの制作プロセスは、クリムゾンのプロセスととても似ていると思う。

ただし、私はドラマーとして制作に関与していて、さらに当時は機材の機械化が始まったばかりという時期だったがね。

M:そうですよね。

B:あの時、ドラム・マシーンという機材が出てきて、みんなは大喜びした。全員がテンポ通りに演奏できるからね(笑)

それがしばらく上手く行って、その後にパソコンが導入されて、人々はベース・ドラムの位置を動かしたり、スネア・ドラムを別のスネア・ドラムに複製したりして、最終的には大混乱に陥った。

そしてアルバムの予算も膨れ上がった。ハイハットのサンプルで一番良いものを選ぼうとかいう、ものすごく馬鹿げた理由のためにスタジオで延々と時間を過ごしていたからね。

M:クレイジーな話ですね。

B: クレイジーだよ。

だから君たちがやっていることは真っ当だよね。とにかく指が覚えるまで練習して、人々の前で演奏して、試運転するということが大事なんだ。

M:その通りです。

B:そして、スタジオに入り、演奏する。

M:そうです。そうやって今までみんなやってきたのですから。

B:なんて常識あるバンドなんだ!

M:この点においては、僕たちは常識があるかもしれないですね。
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