凛として時雨 @ 日本武道館

『凛として時雨 TOUR 2013 “Dear Perfect” ONE MAN LIVE at 日本武道館 〜10th Tornado Anniversary〜』

この上なく獰猛にして精微、そしてオリジナルな凛として時雨のロック音響が、日本武道館というロックの象徴的な会場を満たすということ。それは、ロックの歴史がどうのこうのといった重苦しい話を抜きにしても、手応えとして余りにも直接的で、ピュアで、普遍的なコミュニケーションに他ならなかった。最新アルバム『i’mperfect』を携えたツアーのファイナルにして、バンド結成10周年を記念した、初の武道館ワンマンである。

巨大な牙のような4本の柱状オブジェが、バンドの頭上でアーチを描くように配置されたステージ・セット。ほぼ定刻どおりに客電が落ちると、嵐のような歓声が時雨の3人をその舞台へと迎え入れる。アブストラクトな音像の登場SEを掻き消すかのようにTKのメタリックなコード・ストロークが響き渡り、“abnormalize”のしなやかな歌メロのフックが繰り出される、というオープニングである。3人に注がれる照明は、決して目に痛いようなものではなくむしろ柔らかな光量なのだが、ときに彩り鮮やかに、ときにバンドの演奏と呼応するように激しくうごめき、武道館の天井部分にも美しい模様を描き出す。音と光、感情が無限に交錯し反射する、そんなステージが形成されていった。

バンドのグルーヴに、胸の内に棲まわせた奇っ怪な怪物が言葉と化して跳ね回るかのような“MONSTER”。鮮烈なギター・フレーズから《明日世界が終わるなら多分君は変わるだろう》と決定的なスリルを振りまいて疾走する“Metamorphose”。345の繰り出す不穏なベース・ラインを軸に、多彩なリフと音色が次から次へと襲いかかってくる“I was music”と、序盤から容赦なしに暴力的な音像と痛烈な歌声が畳み掛けてくる。自分の殻を打ち破れずに他者との距離感に苦しみ悶える“O.F.T”のあと、一呼吸置いてから道化と化すようにコミュニケーションを図る“make up syndrome”をプレイするという流れは、時雨の表現テーマの歴史を振り返るようで興味深い。

ドラマティックで奥深いアンサンブルが情感を引き出し、TKと345のヴォーカル・リレーが決まる“Sitai miss me”と、それに続く“キミトオク”の詩情は、ライヴ中盤だけでなく、今回の公演全編を通してのハイライトに思えた。TKは言葉少なだが、“キミトオク”の直後には穏やかに、「ありがとう」の一言を残す。武道館が本来、音楽コンサートのための会場ではないにも関わらず、多くのアーティストに愛されて来たのは、急な傾斜のすり鉢状になった観客席によって、多くのオーディエンスと緊密なコミュニケーションを取ることが出来るためだ。専門の大型コンサート・ホールにおいてもその圧巻の音響を展開してきた時雨が、結成10周年記念に選んだ舞台とは、「キミ」との「近さ」を描き出すことが出来る舞台だったはずだ。

「余韻にお浸りのところすみません! 喋ってもよろしいでしょうか!? あ、ライブハウス武道館へようこそー!! ここは東京だぜ!!」と静寂を打ち破る、一味違った意味で暴力的なピエール中野のMCタイムである。当日に九段下駅で下りて自販機でリアルゴールドを買おうとしたら商品が出てこなくて困っているところをスタッフに撮影された、とか、武道館に「正面入り」してもまったく騒ぎが起こらなかった、とか、とりとめのないことを堂々と話す。オーディエンスの反応が微妙であっても躊躇なくでかい声で話す。メンタルが強い。先の台湾公演では得意のコール&レスポンスで大盛り上がり、現地ミュージシャンとのセッションも好評を博したそうで、どうやら更なる自信を付けて帰国したようだ。「なんか(オーディエンスの反応が)おかしいなあ」とドラム・セットから抜け出て前線に進み出ると、ここで大喝采、一気にコール&レスポンスのための空気が出来上がる。「Say, バーイブス!」「バーイブス!」「チョコレイト♪」「ディスコ♪」「ウルトラソウルッ!」「ハイッ!!」(オーディエンス側が「ウルトラソウルッ!」の逆パターンもあり)、果てはXジャンプと大成功を収めて、自身のドラム・ソロへと繋げるのだった。喋るだけ喋り倒して、ドラム・セットへと戻る際に残した一言はこうだ。「ライヴの尺を伸ばせるの、この時間だけなんですよ。なるべく長い時間、武道館にいたいじゃん」。

TKと345もステージ上に帰還し、轟音の海を泳ぐ“illusion is mine”を経て“Beautiful Circus”から始まるマッシヴなラストスパートは、動きの激しさを増す照明効果やオーディエンスの熱狂がシンクロし、まったく常規を逸した光景を描き出すものであった。野太いわけでもないのにバンドの音像と大歓声を搔い潜る、TKの緊迫した歌声がピークに達した“Telecastic fake show”。回転する深紅のライトに包まれながらブラストビートが追い込みを掛ける“nakano kill you”。夢現の彼方で新たな光を捕まえんとする“am3:45”。メンバー3人の姿を武道館のステージに深く焼き付けてゆくような楽曲たちは、昨年末にメンバーそれぞれの別動プロジェクトも参加した武道館イヴェント『DECEMBER”S CHILDREN』のときとは異なり、この特別な3人の集合体である「凛として時雨」を浮かび上がらせるものであった。

TKが改めて345を紹介し、彼女がおずおずとツアー・グッズ紹介&挨拶を済ませると、辿り着いた最終ナンバーはアルバム『i’mperfect』のクライマックスと同様、“Missing ling”である。《僕を破裂させて飛び散らしていいよ》。そんな思いが、武道館全域を楽々と包み込むスケール感のメロディに、そしてサウンドに乗って、伝う。コミュニケーションが生み出すものは必ずしも喜びばかりではないし、アーティストという立場で大きな成功を収めた者が抱える巨大なコミュニケーションの苦悩は、一口には語り尽くせぬものだろう。時雨はそれを赤裸々に表現し、多くの人々と緊密なコミュニケーションを行うことが出来る舞台で、完璧なエンターテインメントとして分かち合って見せたのだった。(小池宏和)

01. abnormalize
02. JPOP Xfile
03. MONSTER
04. Metamorphose
05. I was music
06. DISCO FLIGHT
07. O.F.T
08. make up syndrome
09. Filmsick Mystery
10. Sitai miss me
11. キミトオク
12. illusion is mine
13. Beautiful Circus
14. 想像のSecurity
15. テレキャスターの真実
16. Telecastic fake show
17. nakano kill you
18. am3:45
19. Missing ling
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