amazarashi @ 渋谷公会堂

amazarashi @ 渋谷公会堂
『amazarashi LIVE TOUR 2013「ねぇママ あなたの言うとおり」』

なにしろ、ライヴに触れる機会の一回一回が貴重なアーティストではあるのだが、それでもクオリティの高い作品をリリースし、こうしてコンスタントにライヴ・ツアーが行われるのは喜ばしい限り。amazarashi≒秋田ひろむは、自身の表現を求めてくれる人々に対して全力で応えながらも、恐らくその活動が予定調和に陥ることを最も強く警戒している。敢えて新たな緊張感の中へと身を委ね、次の視界と生々しい表現を摑み取ってゆこうとする、そんな姿勢/取り組みが感じられた公演であった。

新作『ねぇママ あなたの言うとおり』を携えたツアーは、今回レポートする5/31の東京公演に始まり、翌6/1に同会場・渋谷公会堂での追加公演、そして6/8の大阪・なんばhatch公演、6/9の名古屋ダイヤモンドホール公演というスケジュールで進められる。演奏曲や演出の記述については少々のネタバレを含むので、今後の公演に参加予定の方は以下、レポートの閲覧にご注意を。

プロジェクターを兼ねた紗幕に、MVの高品質アニメーションなど刺激的な映像効果を映し出し、オーディエンスの視線と意識を引きつけるスタイルのライヴはこれまでと同様。紗幕の向こう側、ハットを被った秋田ひろむを始めとするバンド・メンバーの姿は、よく観ればそのプレイまで確認することは可能なので、このスタイルはアーティストの匿名性を尊重するというよりも、オーディエンスが視覚・聴覚・思考をフル稼働させるamazarashiライヴの舞台装置として捉えるべきだろう。さしずめバンドは、生々しいライヴ演奏によってパフォーマンスの音楽部門を担当していると言うべきか。

amazarashi @ 渋谷公会堂
文学的でありながらヴィヴィッドに思考・感情を伝える歌詞と、それを押し広げる楽曲の演奏、更に、秀逸な映像効果がシンクロしてイメージを駆り立てる。こうしたamazarashiのライヴが特異な点は、つまり人間の生々しい息遣いを伝える表現であるにもかかわらず、完璧にパッケージされた作品でもあるということだ。そこに秋田ひろむの、ある種の使命感のようなものが受け止められる。『ねぇママ あなたの言うとおり』のリード・トラックでありMVも公開されている、ピアノの旋律が導く“ジュブナイル”は、若き苦悩を痛烈に描き出し、内面のモンスターと向き合う姿、まさにそれを物語として完璧にパッケージしてやろうとする、意思の表れのようなナンバーである。

amazarashi @ 渋谷公会堂
楽曲の合間に、モノローグ風に差し込まれる秋田の詩の朗読。そこから傾れ込む“風に流離い”では、殴り書きされた乱暴な書体の歌詞が視界一杯に広がる。こんなふうに、言葉が最も鮮烈な形で耳を貫き、視線を奪うアート・フォームが練り上げられてあることも、amazarashiのライヴの素晴らしさだろう。過去に発表してきた楽曲の数々も、地球上のライフサイクルと人間の業の深さをたった1コーラスで暴き、救いようのないリアルな生活を描写してしまう。安直な慰めの歌ではなく、音楽が生命に働きかける、その根源的なエネルギーを引き出した凄まじい楽曲ばかりである。楽曲も、映像も、キャリアを進めるほどに技術的な部分は向上しているものの、amazarashiの表現の本質は当初から揺らぐことがない。

amazarashi @ 渋谷公会堂
秋田がギターを搔き毟り、かつてなくフリーキーなエレクトリック・サウンドのアンサンブルを轟かせる一幕の後には、5・7調の散文詩がすとんすとんと腑に落ちる“春待ち”だ。そして“パーフェクトライフ”では、amazarashiらしい、青く生き難さを抱え込んでしまった者の言葉を綴りながらも、覚悟を宿した力強いメロディとサウンドで《この物語の落とし前をどうやってつけようか》と歌われる。こんなふうに肚の据わったamazarashiの現在の姿勢は、ライヴ終盤に秋田が語っていたこんな言葉とも、無縁ではないように思えた。「ありがとうございます……あの……最近、(青森県)むつ市から引っ越して……むつ市には思い出がいっぱいあるから、住むにも拘ってたんだけど、どうせ今の時間も思い出になるなら、行きたい場所へ行こうと思いました」。

amazarashi @ 渋谷公会堂
生き難さを理論武装で補い、殻に閉じこもるのではなく、生き難いと分かりきっている世界へと身を晒し、新たに歌うべき事柄を摑み取ってゆく姿勢が、『ねぇママ あなたの言うとおり』から、そして今回のステージの秋田の姿からは、感じられていた。つまり、amazarashiの進化とは雨曝しであり続けることを選んだ結果であり、それはamazarashiの表現を大切しているファンのためでもあり、amazarashiとして生きる秋田自身のためでもあるだろう。新作の主題へと到達するライヴ本編のクライマックスは、その大きな覚悟が集約された、真に圧巻と言えるパフォーマンスであった。きっかり1時間30分のパッケージ。あなたと、アーティスト自身のためのパッケージ。一度は彼らのライヴに触れてみて欲しいと思える、心から人に薦めることができる、そのために生み出されたパッケージであった。(小池宏和)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on