ロス・キャンペシーノス! @ 代官山UNIT

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ロス・キャンペシーノス! @ 代官山UNIT
ロス・キャンペシーノス!、3年ぶりの来日公演である。今回の来日公演は、先日リリースされた最新作『Hello Sadness』の日本でのお披露目の意味も持つショウだ。『Hello Sadness』のテーマは端的に言うなら「愛と喪失」。人間関係における別れの無常みたいなものをベースにした本作は、大所帯の楽団的バンド・フォーマットでスモール・コミュニティの理想と独立(そして時に閉鎖性)を体現してきたロスキャンの世界観の大きなターニング・ポイントにもなった作品である。そんな『Hello Sadness』を、彼らはステージ上でどう調理するのか。

ロス・キャンペシーノス!というバンドを改めて紹介しておくと、彼らは2006年にウェールズのカーディフで結成された7人組バンド。デビュー当時未だ10代のメンバーがいたことから2000年代半ばのUKアンダーエイジ・ブームの先駆と称されることもあるし、男女混合編成でフルートやグロッケンシュピールを鳴らすメンバーが在籍すること、そしてメンバー全員が姓を「キャンペシーノス!」で統一した独自のコミュニティ感覚から、かのベル・アンド・セバスチャンと比較されることも多いギター・ポップ・バンドである。ちなみに「キャンペシーノス」とはスペイン語で農民を意味する単語だという。

そんな彼らの魅力は、なんといってもカラフル&オーガニックなギタポを楽団フォーマットで賑やかに打ち鳴らす祝祭感覚にあると思うのだけど、前述のように最新作『Hello Sadness』はそんな彼らのギタポに陰影が生まれたことを示す転機作で、その新たなムードはこの日のステージにもしっかりと刻まれていた。

ロス・キャンペシーノス! @ 代官山UNIT
ロス・キャンペシーノス! @ 代官山UNIT
代官山UNITの小さなステージは7人のメンバーがひしめき合ってますます小さく見える。途中でギャレス(Vo)が「話す時はマイクいらないね」と地声でMCをし始めたのも面白かったが、ロスキャンらしい親密な空気の中、彼らお得意のコーラスとシンセの応酬でショウの幕は開けた。そう、前半は旧作からのハイテンションなナンバーが連打され、“Death To Los Campesinos”でウォームアップは早くも完了、UNITの空気が一気に温まっていく。

しかしその後のセットリストは、これまでの彼らのショウとは一線を画すものになった。ロスキャンは過去3度の来日を果たしているが、彼らのこれまでのパフォーマンスは後半にいくにしたがって軽くなっていく、足取り軽やかに煌めくポップネスを獲得してく道筋を体現するものだった。彼らのインディ純潔主義をベースにした音楽は現実逃避にも似たユートピアを出現させるもので、そこに重力=現実は感じなかった。しかし、この日の彼らの演奏はもっと地に足付いているというか、山を登り谷を下る足腰の強さを感じさせるものになっていた。

ロス・キャンペシーノス! @ 代官山UNIT
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深いリバーブの霧の中から這い出し、途方に暮れるような不穏の音響からスタートする新曲“Life Is A Longtime”は特に印象的だったが、ロスキャンのサウンドにここまでリアリティを感じたのは初めてだ。ギタポ調のナンバーも明るく軽く跳ねると言うよりも、「これってもはやエモですよね!?」と彼らに確認したくなるような、暑苦しくも生々しい感情の吐露に転じていく。

「意味もわからず楽しかった」「なんだか幸せだった」かつてのふわふわしたロスキャンの音楽が、「楽しくない」こと&「不幸せ」な感情の存在をはっきり意識した上で、「それでも楽しみたい」「幸せになりたい」のだという能動的意思の塊へと転じていく。じっと聴きいるべきタイプのタフ&ヘヴィな楽曲も増えたが、その時間があるからこそ“You Me Dancing!”のような歓喜の瞬間がより鮮やかに際だっていくのだ。「Hello, Sadness」と自分達の中に哀しみを呼び込んだ彼らは、その哀しみをバネにして跳躍する、逞しい存在へと成長を遂げていた。(粉川しの)
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